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【2章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
2章

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第5話 繋ぎ止める枷

「そうか。要らないかー。

んじゃスカフトの奴らから見たら、《ミルティ》は犯罪者だな」


 うんうんと一人頷いて話したギルド長の目は、笑っていなかった。


「……」


 スカフト。海を渡った先にある国の港町だったか。

 昔、ギルド長の補佐をしていた時に資料か何かで見た気がする、とぼんやり考えた。

 そこでネームタグが、何かしら悪事に関わっているのだろうか。


「犯罪者になったら仕事出来ない、な?」


 ジッとティールを見つめてくるギルド長。冗談ではないのだろう。

 その目は真剣だった。そこに込められた期待も含めて。

 けれど、今の自分には……。


「……そうね。だったらギルド長、私を投獄するかしら?」


 ティールの口から出た言葉は、諦め。

 震えも動悸も、息苦しさも言葉と同時に消え去った。

 許されない罪なら、もう犯した。


 《ミルティ》だったら、悪用なんて許せない、と正義を振りかざしたかもしれない。

 《ミルティ》だったら、名を捨てることも人の手を取らないこともなかった。


 けれど、関係ないと今までの生活を続けるほど、今の私も強情ではない。


「それとも、私に汚名返上しろと犯人を捕まえろと命令するのかしら?

……私は、どちらでもかまわなくてよ?」


 もう、何者にもなれないし、何者にもなりたくなかった。


 "生きたくない"のに選んでしまった。

 "死にたかった"のに死ねなかった。


 彼の首を、一度だけ掴んだことがある。

 けれど、その先を選ぶことは出来なかった。


 だから私は、笑顔でギルド長を見た。


「……はぁ。そうか。……そこまで」


 重いため息を吐いて、ギルド長は俯く。


「……ハルドゥル。ミルティを連れてけ、お前に任せる」


 力無く吐いた言葉に、バン!と勢いよく転移陣のある部屋の扉が開かれた。

 どうやら隠れていたらしい。

 ティールが初めて見る、大柄な男性だった。


「エル!お前の回りくどさに、俺は待ちきれなんだぞ!全く!」


 ズカズカと大股で歩く男、ティールの目の前に立ち止まるとニカッと笑う。


「これが秘蔵っ子か!三年も待たされたが、確かにめんこいのぉ!」


 ハルドゥルは逃がさないとでも言うように、無意識に後ずさるティールの手を掴んだ。

 さらに、無造作にティールのフードを反対の手で掴んでめくると、顔を覗き込んだ。


 ティールの脳裏に警鐘が鳴り響く。この男は危ない。


「だが、これはいかん。黒衣の死神などと可愛げの無い。エルの心労も頷けようぞ」


 カチャン。と音がすれば、掴んだティールの腕に、ハルドゥルが腕輪を着けた。


「これは本来、犯罪者の移送に使うものなのだがな。安心しろ、貴殿は犯罪者に非ず、改良型のこれは、さながら迷子の探査用とでも例えようか」


「なっ……!」


 そういうハルドゥルの腕には、ティールと同じものがつけられていた。ペアで発動する魔道具らしい。


「なに、女子だからな。付かず離れずなど、無粋な真似はせん。せいぜい同じ街に居るしかないくらいの強制力ぞ。距離は、な」


「な、な……っ!」


 サイズに余裕のある腕輪、しかし手首の先へは動かず外すことが出来ない。


「俺の転移魔法のスクロールは一人用でな。なに、腕輪の性能も、これからの船旅でゆっくり解説してしんぜよう!安心せよ!」


ーー安心なんてっ!


 誰かのそばには、もう居たくないのだ。

 犯罪者で捕まるわけでもなく、ただ枷だなどと冗談ではない。


 カッと見開いたティールの目が、魔力で煌めいた。

 掴まれた手の反対、風を纏わせて腕輪ごと切断するために振り下ろす。


「ぐぅ!」


「ほぅ?魔力コントロールもなかなかだな。しかし、躊躇いがないのはいただけんな。命は大事にするべきだ」


 ハルドゥルはティールの手を掴んだまま、鳩尾に一発拳を入れた。

 そのまま、ぐったりと倒れたティールを担ぎ上げる。


「ハルドゥル!」


 非難する声は、ドリィのものか。暗転する視界の端に姿を捉えて、ティールの意識は闇に呑まれたーー。

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