表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/40

7話 灯る心

次に目覚めたのは、夕暮れ時だった。天井が、赤く染まっている。

窓の外は、赤から橙、青へ彩るグラデーションがとても綺麗だ。

さっきよりもはっきりと見える視界に、ほっと安堵する。


「お目覚めでございますか、お嬢様」


声のする方へ顔を向ければ、黒髪をさらりと揺らし、執事が静かに微笑んでいた。


ーーあれ?さっきは銀髪だった気がしたのに。気のせいだった?


「なにか失礼がありましたか?」


まじまじと見ていたせいか、疑問が顔に出ていたらしい。


問いかけながら、執事ーヴィクトルは己の身なりを順に確認している。


「え、と。……さっき銀、の髪?だった気がして」


なんて答えよう、そう思案するも口にしたのは思ったままの言葉。


なんだが、胸の奥、気持ちがそわそわとして落ち着かない。


「ああ」と、ヴィクトルは静かに頷くと、右薬指にはめたリングを外した。


夜が明けるように、ざあっと漆黒の髪が銀に変わる。

夕焼けを帯びたそれは、少し赤みがかってキラキラと輝いていた。


「本来は銀髪でございます。公爵様より『目立つから黒でいろ』と、仰せつかっておりまして……。お嬢様に偽りの姿をお見せしていたこと、深くお詫び申し上げます」


内緒事を打ち明けるように、人差し指を口元に当て困ったように微笑む彼。

謝罪の言葉を述べ、きっちりと腰を折る仕草はまさに紳士そのもの。

確かに貴族女性の心臓に悪いかもしれない。綺麗すぎる。


現に、私の心臓だって落ち着いてくれない。

今まで、こんな気持ちになったことはない。どうしたのだろう。


公爵令嬢たるもの、いついかなる時も毅然としなければならないのに。


「お嬢様がお望みでしたら、こちらの姿で、これからも仕えさせていただきます」


「っ!?く、黒でお願いしますわ!!」


思わず、声が上ずった。


ーーそれはそうだろう。これは、公爵たる父の命。

一介の令嬢が、娘の私が好みで勝手に判断していいわけない。


顔が綺麗すぎて心臓に悪いから、見慣れた黒で!!というわけではない、決して。

そう。決して、その銀髪が眩しすぎたからでは、ない。


カーと熱くなる顔を両の手で隠す。


ーーいつもの淡々とした私、どこに行ったの……。

羞恥で涙が滲んでくる。

ほてった頬に、手のひらの冷たさが心地良かった。


「これよりも変わらず、お側にてお仕えいたします。……全ては、お嬢様のお心のままに」


にっこりと微笑み、黒髪へと戻ったヴィクトル。なぜだかいつもの笑顔より、とても嬉しそうに見える。どうしてかしら。


そして黒髪に戻ったのに、見慣れるどころか顔は整いすぎていてキラキラしている。


ーー私の執事、かっこいい。


「……?」


悶え続けていたところで、左小指に熱を感じ見てみると、見慣れないリングがはまっていた。

僅かに、ほんの僅かにだが、淡く光っているようにも見える。


「お嬢様」


「なにかしら?」


「……お気持ちを昂らせるのは、お控えくださいませ。魔力の暴走が再び起これば、……お命に、関わります」


落ち着いてくださいませ、と呼ばれた声は優しくとも切実で。

痛ましげに私を見つめる瞳が、冗談ではないと告げていた。


貴族であれば誰もが知る"魔力暴走"。


けれど私は魔力を使わないし、多いとも聞いたことが無かった。


ーー聞いたことが無い、とは、誰にだろうか?


よく一緒にいたのはヴィクトルの他、側つきのメイド、邸の者たち。彼らとは雑談などしたことはなく、淡々と付き合っていただけだ。


そう。目に入る景色一つ一つに気持ちが動くことも、髪色なんてどうでもいいことを口にすることも、そもそも他人の容姿を気にとめることすらなかった。


全てが窓越しの風景のように、遠く、他人事で。


当然、誰かと何かを共有しようと思ったことともーーなかった。


ヴィクトルとだって、記憶の限り会話などほとんどしてない。


気持ちが温かくなるのはいつ以来……?


頭の中をよぎったのは、母と父と……。



「お嬢様っ!!!」



掻き乱される思考の渦に、意識が途切れそうになる。


その瞬間、私は強く包み込むような腕に引き寄せられた。

温かくて、逃げ場のないほど確かな抱擁。

ふわりととろけるように甘いラベンダーの香りが、意識を現実に繋ぎ止めたーー。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ