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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
1章

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57話 地下闘技場で

 闘技場の広間、その中央にティールが一人立っていた。


 ティールに集まる数匹の魔物、闘技場の周りーー観客側へは行こうとしないのを見た。

 観客側かティールに、なんらかの細工がしてあるのだろう。もしくはその両方か。


 解き放たれた魔物の気配が、直前まで分からなかったことから、その総数が不明だとヴィクトルは仮定する。


 そして、彼女の着るドレスが白いのは、赤がより映えるようにか。


「ティール!!」


 身体強化と跳躍で魔物が到達するより先、彼女の隣へと降り立つ。

 彼女はヴィクトルが来ても、何も反応を見せなかった。

 その事にチクリと、胸に痛みが走る。


 迫る魔物を警戒して、ティールを抱えて跳びたい衝動を咄嗟に抑えた。

 男の狂喜を思い出し、そんなことはさせないような気がしたからだ。


「ーーっ!」


 ティールの足元を、ヴィクトルは剣でほんの少しめくる。

ドレスで隠れているが、その両足に足枷がはめられていた。


 ギリっと、歯を噛みしめた音がなる。


ーー愛していたら、こんなことっ!


 抱えて跳ぶにも、彼女の足に負担がかかるだろうことは容易に推察できた。

 それは、最終手段だ。


 頭を振ってヴィクトルは、思考を切り替える。


 長剣を構えティールのそばを離れず、魔物を屠る。足は遅く、低級だ。


ーーエンターテイメントにしてるんだ、客が飽きる長期戦は考えにくい。


 開始時は、駆け寄れることを想定しての数匹。徐々に一度の数を増やすか、強い魔物へと難易度を上げていくはず。

 もしくは、アジトで使った興奮剤とやらか。


 ここでニ人死んだとして、ヤツにとっては非業の死を遂げたニ人と、催しとして称されるのか。

 もしくはティールだけが助かる仕掛けが、どこかに施されているのか。


ーー他に、ヤツが考えそうなことはなんだ?


 ヴィクトルはなるべく一撃で斬り伏せながら、ティールと一定の距離を取り続けた。

 得意の氷は使わない、温存もだが。相手を喜ばせるだけだからだ。


 闘技場の造りは円形。魔物の出てくる場所も、円上に配置されているようだ。


 余裕があるうちに、周囲の造りと構造を見て頭に叩き込む。


ーー長剣で助かった。


 リーチの短いナイフでは、不利だっただろう。


 お陰で余裕を持って対処が出来る。

 そして一つ気になることに、気づく。


「静かすぎるな」


 ヴィクトルが闘技場に入る前、あれだけ湧いてた歓声が聞こえない。

 飛び越む時にザッと見た人数は、そこそこいたはずだ。


 それに口上をあれだけおかしく話した男も、あれから声を聞かない。

 性格からして、ヴィクトルが闘技場に降り立った時、魔物を初めて倒した時、初めて魔物を追加する時、なんらかの口上は言いそうなものだ。


 入る時には気づかなかったが、これはおそらく……。


「結界か」


 中の魔物を外に出さないように、それが一番の目的だろう。


 外から入れたのは仕組み上の性質か、その時だけ結界を外したのか。


ーー踊らされたとしても、自分が取る道はこれしかない。


 あの男と自分は違う。


「……そろそろ、か」


 屠った魔物が周囲にそれなりに出来た。

 常に一定を心がけ、斬り伏せたかいあって、それは遠くから見れば、一つの線のようにも見えるほどだ。


 その線の内へ入り、剣を魔物の死体の近く、地面へと突き立てる。


『公爵と違って、何もないところを起点に氷を出すの、苦手でしょう?』


 表立って言ったことは一度もない。ドリィはホントに、よく見てる。

 自分が分かりやすいのかと、ヴィクトルは苦笑いをする。


「《ウォール》!」


 氷を纏えると聞いた剣は、魔力の通りがとてもよく、いつも以上に効率が良いようにヴィクトルは感じた。


 周囲の魔物が、瞬く間に凍りついて、魔物を支柱にして、さらに氷の壁が築かれていく。

 

 魔法は無詠唱が基本。けれど呪文は存在していた。

 詠唱によって、魔法イメージを一定に揃える効果があるためだ。教職などがよく指導に用いている。

 そのため詠唱は、未熟者と揶揄されることもあった。


 けれど、ヴィクトルは魔力量が多く、戦闘中は特に細かい調整が苦手だった。

 そのため詠唱は恥としてではなく、普通に補助として使っている。

 今も自身のイメージ力の不足を、詠唱で補強したのだった。


 ヴィクトルが単に凍らせた場合、対象の周りに厚い氷が出来る程度だが……。


 《ウォール》で発動させた氷は、地下闘技場の天井に届くほどの高さにまで、厚い壁を作り上げた。


 今この氷壁の中には、ティールとヴィクトルのニ人だけ。

 天井にまで厚く高く伸ばしたから、すぐに横やりは入らないだろう。


 元々はティールだけを、そこそこの壁で守るつもりだった。その方が安全性を確保できるから。


 でも、ヴィクトルは見てしまった。

 ティール首筋に傷痕と赤を。

 ドレスの隙間から見える赤を。

 これらはあの男に、所有印としてつけられたのだろう、と。


「ティール。話そうよ」


 そして今も、ヴィクトルへ意識を向けず立ち続ける彼女に、ヴィクトルの胸に溜まった苛立ちが、静かに爆発していた。


3.5話

26.5話

Side視点をカクヨムにて加筆しています


また最終話、エピローグも公開中です

お嬢様、私に拾わせていただけませんか - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/822139840765447449

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