55話 約束の日
しばらく毎日朝7時、最新話公開します
「おはようございます。今日は約束の日ですよ?どうです?嬉しいですか?」
久しぶりに寝た、と思ってティールが目を開けたら、隣にリークリがいた。
「……?」
なんのことか分からず、ティールは黙って見つめる。
「……今日で、ここともお別れということです。あぁ……やっと。もうすぐ、貴女が手に入る。ずっと、貴女が欲しかった」
リークリがギュッと力強くティールを抱き締められた。まるでもう逃がさないとでも言うように。
ここ数日の触れるか触れないかの添い寝ではなく、ハッキリとした温もりにティールのなかでなにかが溢れる。
それは、目から雫となってぽろぽろと溢れ落ちた。
「閉幕したら、船に乗って。別の国に行きます。しばらくは同じ場所でゆっくりするつもりです。
貴女と私。ずーと一緒です」
ティールに分かるようにか、普段より言葉を砕いてリークリは話す。
その声はとても嬉しそうな響きをはらんでいた。
飢えていた温もりを理解して、ティールは目を閉じた。涙は絶えまなく。流れていく。
「貴女と離れていて、とても寂しかったです。もう私を1人にしないでくださいね。
私のそばにいてください。私には貴女が必要です」
甘く低い声が、ティールのためにたくさんの言葉を紡ぐ。
昨日までの口数の少なさが嘘のように。
「貴女も、喜んでくれますか?」
そう笑う彼のエメラルドの瞳は、キラキラと輝いていてとても美しい。
「……いやなら、ちゃんと拒んでください」
壊れ物を扱うように、ティールの頬をそっと包み、リークリは深い口づけを落とした。
いつもの口移しの朝食とは違う。
温かさのある行為。
トロンと潤んだティールの瞳は、先程まであった淀みがなくなり、キラリと澄んでいた。
そして、ふわりと気の抜けた微笑を浮かべている。
人工物のような微笑ではなく、儚げで美しい心からの笑みはまさに、真の水晶姫と言えるのではないだろうか。
それを確認したリークリは、ゴクリと喉をならすと、名残惜しげに軽いキスをしてベッドから出る。
「今日は閉幕式なのです。とても見応えがありますし、最後なのでティールも一緒に見に来てくれませんか?
お風呂に入って、ドレスも用意しています」
リークリが手を差し出せば、ティールは自然とそれに手をのせた。
立ち上がらせようとしたところで、ティールの足がカクンと崩れ落ちた。
「……?」
「ああ。無理もありませんね。しばらく歩いて無かったですし、まともに食事も摂れていなかったので。……では、失礼しますね」
リークリは慣れた手つきで、ティールを抱き上げると浴室へ向かう。
「安心してくださいね。旅立ちに相応しい出で立ちに整えさせていただくだけなので……」
◇◆◇◆◇◆◇
細く細く繋がった糸。
きっと魂と呼ばれるところに、繋がってるのだろう。
一度出会えば結ばれる、番の繋がり。
今はかなり意識しないと、それが辿れない。
あるのか無いのかも、そもそも怪しい。
きっと気のせいなんて言葉で、片付けられてしまうほどの、儚い糸。
でも、昔は確かに。
どれほど離れても、感じることが出来るほどに、その絆はそこにあった。
あったから、今もある。
そう信じる。
もし、本当に切れた時。
番では無くなるだけだとして、それでもいい。自分が招いたことだから。
けれど、それが彼女の、ティールの命の終わりを、告げるのだとしたら……。
それは、それだけは。どうしても嫌だ。
だからただ、あると信じて迷わない。
全速力で、ヴィクトルは駆ける。
師匠が教えてくれた、地下への出入口。
国民に扮した、警備の者を視界に捉える。
鞘から剣を抜いて、構える。
いつもなら対象を凍らせて終わりだった。
でもいつものナイフは、置いてきた。
長剣は、師匠との修行以来久しぶりに扱う。
慣らしのためと、万全ではない魔力の温存のため。
「……道を、開けろっ!」
邪魔するものは全て、剣で斬り伏せていく。
ティールに会いたい。ただそれだけのために。
3.5話
26.5話
Side視点をカクヨムにて加筆しています
また最終話、エピローグも公開中です
お嬢様、私に拾わせていただけませんか - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/822139840765447449




