41話 水晶姫の戦い方②
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「おい。納品はどこからだ」
「帝国です」
突然、男は後ろの案内役に声をかけ、ティールに聞こえるように話を交わす。
「オルド王国のお嬢様が、なぜ帝国に?本当に本人か?」
じろりと男は絡みつく視線を送ってくる。その目はまさに、商品の品定めだ。
ーーまぁ普通。疑うわよね。
今、シグラズル家に令嬢は2人いる。1人は私。もう1人は義妹。そして私は最低限の社交しかしなかった。けれどね。
「未婚の私が名乗る名シグラズル以外には、存じませんことよ。でも、そうね……」
ティールは片手を頬にあて、小首を傾げて見せる。
その目はじっと男を見たままだ。表情は読めない。
「"後妻に冷遇された公爵令嬢"、あるいは"水晶姫"でございましょうか。ボスならご存知でございましょう?」
ーーボスなら知ってるよね。まぁ貴方も多少、貴族と交流はあるだろうけれど。
「そのシグラズルのご令嬢は数ヶ月前に婚約破棄され、社交の帰りに行方不明になってございますわ。有名なゴシップでしてよ。私、帝国に亡命しておりましたの」
ーー嘘偽り無い本当のことよ。そして話題性もバッチリでしょ?
「ほぉ?最後に出た夜会はなんだ?」
亡命と悲しそうにおどけてティールが言えば、男は愉快そうに笑って聞いた。その目はさっきよりも冷ややかだ。
亡命した元貴族令嬢、それは公爵令嬢よりはるかに価値が下がる。そのせいだろう。
ーーでも、まだ、よ。
「王城で開かれた夜会ですわ」
「亡命先では、何してたんだ?」
「教養を買っていただきましたの。冒険者ギルドで働きましたわ」
そういってもう1つのネックレス。冒険者証のネームプレートをティールは見せた。
持つ指で裏表文字など隠し、一切読ませないようにして、だ。
ーー寄越せ、なんて言わないでよ。大事なものなんだから。
「けれど、公爵家を除名はされておりませんの。なので私、貴方方にとって、とても価値ある存在かと存じますわ」
その上で、さらに今も公爵令嬢であることを強調する。
ーー公爵家から捨てられた元令嬢なら、売る価値しかなくなってしまうものね。でもほら、私は高値で売らないと。
「はっ。公爵令嬢が仕事だと?」
男は信じないと言ったように、ただ笑う。
どこまでが嘘でどこまでが本当か、頭で冷静に選別しているのかもしれない。
「まぁ、不思議でございますか?
私、公爵家で冷遇されてましたから、働くことに忌避はありませんの」
矢継ぎ早に聞いてくる男に対し、ティールは余裕を見せて返す。どんな隙も、与えてなるものか。
「それに教養を買っていただきましたと申しましたでしょう?
ただの受付ではございませんわ。ギルド長の執務を手伝いましたのよ」
男を誘うようにワンピースの襟を広げ、冒険者証のネームプレートを胸元へと仕舞う。
ーーヴィクトルに知られたら、怒られるだろうなぁ。
「自称ボス様。改めまして私。シグラズル公爵家令嬢で、冒険者ギルドのグレディ支部、ギルド長の執務補佐ですわ。お見知りおきくださいな」
公爵令嬢の身分を持ち、ギルド長の執務を手伝ったという女。
ーーその読みきれない価値を、貴方はどう見るの?
「貴方は私に、何をお求めになりまして?私の価値を、最大限に活かすことが出来ましょうか?」
ティールは優雅にカーテシーをする。
その手はもう緊張の汗でべっとりだ。元々薄汚れていたので、バレない。
令嬢としては、減点だろう。
ーー格好がつかないなぁ。
「はっはっはっ!こりゃいいな。確かにそうだ。良いよ。お嬢様のお望み通り、本物に会わせてやろう」
男は、椅子に背を預け、笑いだした。
「アニキ!!」
「公爵令嬢として公爵家に影響を与えるか。
娼館や好事家に売り出すか。オークションでも構わない。
賭博や闘技場に出す手もあるな。
薬漬けにして情報を根こそぎ奪うこともできる。
ああ、亡命していたのなら、助けたという名目で王国や公爵家に恩を売るのも面白いだろう。
……俺でもこれだけ思いつくんだ。
勝手にやって損になるより、ボスなら1番稼げる組み合わせを思いつくはずだぜ」
咎めるような声は案内役の男。
自称ボスはティールを見て、そう残忍に笑った。
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Side視点をカクヨムにて加筆しています
また最終話、エピローグも公開中です
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