4話 向かう先、望む先
「ぐっ」
眠るティールを、蕩けるように愛おしげに見つめーー側で呻く男の声に、ヴィクトルは顔を思いきりしかめる。
ヴィクトルが発する冷気で、辺りは凍りついたままだ。
寒さで、男たちの意識が戻ろうとしているのだろう。
傷ついたティールを、誰の目にも晒したくはない。この場はさっさと離れるべきだろう。
騒ぎを聞きつけた兵が、来ないとも限らない。
情報はほしかったが、国を出ると決めたのだ。そちらは公爵に押しつけるとしよう。そうしよう。きっと公爵の足止めにもなることだろう。
そう決めると、男たちへ視線を投げーー金の瞳が剣呑に光る。
バキッと、地に倒れる男たちを氷で封じる。特に下半身を念入りに。
これで情報を吐くまで、逃げも死にもしないだろう。
ティールを落とさないようにしっかりと支え、この場を立ち去るべく、ヴィクトルは地を蹴った。
向かう先は、冒険者として拠点にしていた隣国ダザルだ。
◇◆◇◆◇◆◇
執務室で仕事をこなしていたティールの父、ローグル公爵はすっと手元を見た。
パキ。
指に付けていたリングのうちのひとつが、音を立てて割れた。
窓から見える森。その先、まばゆい光が部屋を埋め尽くす。
懐かしく、愛しい魔力を感じて公爵は目を伏せた。
「少し出る」
誰に告げるでもなく声を発すると、足元が光りーー同時に、姿が消える。
ヴィクトルは気づかなかったが、ティールのリングにはローグル公爵と対になる術式が組まれていたのだ。
ティールのリングに何かあると、共鳴するようになっている。
「……今日は、夜会だったか」
公爵は夜会にはほとんど顔を出さないが、後妻に向かえた女を含め、娘の出席は全て把握していた。
場所は夜会とは程遠い、森の中。
一点を中心にえぐれた地面、薙ぎ倒された木々。馬車の残骸とおぼしき木片に、下半身が凍りついた男たち。馬は逃げたのだろう、馬具は散乱していた。
「再度、躾が必要か……」
数年前、娘が子犬を拾った。
魔道具ーー母を亡くし、繰り返す魔力暴走を抑えるために感情を封じたーーを、つけた後の自発的な行動が初めてだった。
当時、報告を受けすぐに家に戻ると、漆黒の小型犬がいた。
手を噛むことのない確証を得たがゆえに、好きにさせていたが……。
主である娘を危険に晒した挙げ句、私に牙を向けるとは。
娘の姿が見えないのは、犬が連れ去ったのだろう。待ても出来ないとは、面白くない。
惨状を見渡し、手近な男に目をつける。
犬の不始末と思えば不愉快だが、娘の仕打ちに対する報復は父の務めだろう。
己が手に作った氷剣で、氷ごと男の腿に穿つ。
男の絶叫が森に響き渡った。
愛しい娘の望む先、一片の穢れも許されない。
そろそろ、綺麗に整える頃合いだろう。
ローグル公爵、その温度を感じさせない目は、冷徹に男を見下ろしていた。




