35話 時間が惜しい
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お嬢様、私に拾わせていただけませんか - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/822139840765447449
転移スクロールを使い、光に包まれてヴィクトルが目を開けたそこは、ギルド長の執務室。
部屋には誰も居らず静まり返り、下が騒がしい。
射し込む夕日が、周囲を明々と照らしていた。
いつもなら迷わず向かう隣の転移陣の部屋、そこへ視線を向けることもなく、下の階へ向かった。
「どーだ?行方不明者の数は出たかぁ。後方。リストが出来たら、居住、年齢、性別、全部分布図、数値で出せぇ。ここで止めるぞ。ヒントは見逃すなー。手当ては出す。寝るな、調べろ」
ざわつくフロアで、ギルド長は各担当にそれぞれ声をかけて歩いている。
いつも彼の隣に居るドリィは、今、見当たらない。
「受付、案内担当、行方不明者が一段落したら次は冒険者共が報告に戻ってくるぞ。次に備えろ。今の間に飯食っとけー」
ギルド長は、職員一人一人の顔を見ていた。その本人も、疲労の色が濃い。普段、少し着崩している服は今はきっちりと着込んでいる。
掴まれたのだろう皺が、シャツには残っていた。
「下位からは街の様子を詳しく聞け。浮浪者や孤児、無人の痕跡、数に上がってない行方不明者の手がかりになる」
ギルド長は指示の間、顔色が悪い者、夜間家族だけを置いておけない者、それぞれに声をかけ休息、帰宅を促している。
「中堅には足跡、轍の跡、人影以外の気になるものが無かったか、情報を聞き出せー。
上位が調べた場所は地図にその都度印を入れろ。貴重な情報源だ」
ヴィクトルは邪魔にならないよう、階段から静かに見守る。
スッとフロアを見渡したギルド長が、ヴィクトルを見つける。
「……少し上に行く。何かあったらすぐに呼べ。良いなー?」
職員全員へ声をかけ、ギルド長はヴィクトルの隣に来た。
腰を折り、頭を下げる。それは今日彼にとって、何回目の謝罪なのだろうか。
「……すまん」
「招集に応じただけだ。1番速いヤツを寄越しただろう。俺のために」
「ああ、遠いからな。来るまでに終えられたら、理想だったんだが。早いな。……なぁ、怒って良いんだぞ」
顔を上げたギルド長、その目は酷く淀んでいた。殴ってくれと言わんばかりに。
「……見つけるのが先だ。それに、今にも倒れそうなヤツを殴る趣味は無い」
治さないのか、とギルド長の切れた口元をヴィクトルが指差せば、ああ、と返事が返ってくる。
「これを消すとしたら、全部終わってからだ。俺の罪だからな。誰にも代わる気はねぇよ」
そう言ってギルド長は、再び頭を下げた。
「ドリィが現場に復帰した。今、捜索に行ってる。……アイツを、責めないでやってくれ」
文句は全部俺に、と頭を下げたままギルド長は言う。先ほどよりも言葉が重い。
ドリィがティールを大切にしていたのは、ヴィクトルも知っていた。
だからこそ、ヴィクトルはギルド長から視線を外し、口を開く。見つめるのは窓の外。その向こう。
「今、無駄に労力は割きたくない。ハルドゥルの転移スクロールで来たんだ。時間が惜しい」
「……助かる。室内に争った形跡は無し、忽然と人だけが消えてる。嬢ちゃんだけ、布団がドアの方へ乱れてた。が、出てったのはおそらく反対の窓だ。窓が開いてて……これが、落ちてた」
そう言って渡されたのは、ドリィに預けたリングのペンダント。そのチェーンが切れていた。
受け取ったそれを、無言で握りしめる。
リングに彫られた、龍とバラがあしらわれたシグラズルの家紋が目に入る。
ーーもしもの時は。
「消えてない。自分から出ていったんだ。潰した商家で軟禁されてた女が見てた。
何かしらの方法で操られてる可能性がある。裏取りはハルドゥルが、これからするそうだ」
「なるほどな。なら、こっちでもその線で調査を進める。あとな、お前の意見を聞きたい。SSー公爵へは、どうする?」
「あの人が出る時は、もう全て終わってる」
良くも悪くも結果が出るだろう、魔力暴走を起こした時の対応を思い出し、渇いた笑みを、どちらからともなく浮かべた。
最終話、エピローグはこちら
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