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お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ


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34話 混沌のグレディ

最新話カクヨムにて掲載中です

お嬢様、私に拾わせていただけませんか - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/822139840765447449

「誰か!伝令を休ませよ。……良いか?隊長殿」


場の空気を破り、声を上げたのはハルドゥル。

指示を受けた兵と隊長は、それぞれ動く。

ヴィクトルはそれを、見るとはなしに眺めていた。

慌ただしく動き出した周り、ヴィクトルだけが動かないでいた。


「さて、銀狼。……貴殿はどうする?」


いつもと違う、ハルドゥルの静かな声。けれどそこには、確かな重みがあった。


「時期に、夜だ。いつ行くも、貴殿の自由ぞ」


選択を委ねられ、ヴィクトルは目を閉じた。


いつも感じていた繋がりが、今は追うことが出来ない。

何かに遮られるように、彼女の匂いがまるで感じられない。


こんなことは初めてだ。


どんなに師匠にしごかれても、依頼で1人でも、彼女の匂いが心の拠り所だった。


ハッキリと、それらを自覚する。


グレディに着いた時の、傷ついた彼女を思い出す。


彼女の無事。ーーそれ以外は全て些事だ。


「悪い、取り乱した。すぐに出る」


ハルドゥルをまっすぐに見つめ返し、ヴィクトルは宣言した。


「荷物を取りに行ってくる。ギルド長に伝言があれば、出る時に……」


「伝言など、伝令が帰する時で十分よ。……銀狼」


詰所の割り振られた部屋、荷物を取りに向かおうと口にし、ハルドゥルに遮られた。

ハルドゥルは胸元のポケットから、小さい巻き紙を取り出した。


「1度限り、1人用。転移のスクロール。行き先は、グレディのエルの執務室だ。貴殿にやろう」


軽く投げて寄越したそれにヴィクトルは慌てて受け取った。かなりの貴重品である。


「いくら足の早い貴殿でも、これには負けよう。使い方は分かるな?……おおそうだ、挨拶は不要だぞ」


「ああ!」


スクロールを握りしめ、駆け出した銀の青年。

それを見送るハルドゥルは、目を細めた。その声は風に溶ける。


「男になるか。此度の褒賞はSの打診でも良さそうだな」




◇◆◇◆◇◆◇


冒険者ギルド、グレディ支部。

夜明け前、そこは混乱と騒ぎの中心にあった。

緊急時対応もあるため、当直のギルド職員は何名かいる。食堂やロビーでたむろする冒険者も居る。

その、動ける者を全て動かし、ギルド長は腹から声を出し指揮を取る。


「行方不明者の受付、対応は窓口で受けろ!

名前、年齢、性別、髪色、種族!居住区は4分割!

適当な紙に書いて後方に回せ!

後方!受付済みから行方不明者のリストを作れ!!

初手が肝心だぞ。気合いれろ!!」


家族が居ないと押し寄せ混乱する住民に、一人一人職員が捕まっては、意味がない。整理係も動員し流れを作る。


「冒険者緊急招集かけろ。ボーナスは弾むぞぉ!!稼げバカ共!!仕事しろっ!!

下位は街中!中堅は近辺!!上位は森や川、怪しいとこを重点的に索敵だ」


まだ遠くに行ってない、そう祈るだけだ。

こればかりは、速さが求められるだろう。


「伝令!早馬を国境警備兵詰所と辺境伯にそれぞーー」


「ギルド長っ!!」


1階フロアで声を張り上げるギルド長の後ろ、階段からドリィがその声を遮った。

振り返って見れば、その手に握られてるものが信じられず目を見開く、ギルド長は青ざめた。


「おいおいおい。マジかよ……」


普通の住居とは違うんだぞ。あそこは3階で、下へ降りるためには魔方陣が必要だ。彼女はそれを単身では使えない。

けれどドリィの手にあるのは、ヴィクトルと別れてからずっと彼女の胸元で揺れていた物だ。

そのチェーンが引き切れている。


「っおい!フォートル!!早馬で伝令!国境警備兵詰所で銀狼を呼べぇ!!!」


普段は事務員だが宿舎の存在を知る数少ない職員の1人、実はギルドで1番馬を乗りこなす若い男。住人の整理を担当していた。

その男を名指しして、ヴィクトルを呼びに行かせた。代わりに自分がそこへ入り、一人一人流れを作る。

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