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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
1章

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34話 混沌のグレディ

「誰か!伝令を休ませよ。……良いか?隊長殿」


 場の空気を破り、声を上げたのはハルドゥル。

 指示を受けた兵と隊長は、それぞれ動く。


 ヴィクトルはそれを、見るとはなしに眺めていた。

 慌ただしく動き出した周り、ヴィクトルだけが動かないでいた。


「さて、銀狼。……貴殿はどうする?」


 いつもと違う、ハルドゥルの静かな声。けれどそこには、確かな重みがあった。


「時期に、夜だ。いつ行くも、貴殿の自由ぞ」


 選択を委ねられ、ヴィクトルは目を閉じた。


 いつも感じていた繋がりが、今は追うことが出来ない。

 何かに遮られるように、彼女の匂いがまるで感じられない。


ーーこんなことは初めてだ。


 どんなに師匠にしごかれても、依頼で一人でも、彼女の匂いが心の拠り所だった。


 ハッキリと、それらを自覚する。

 グレディに着いた時の、傷ついた彼女を思い出す。

 彼女の無事ーーそれ以外は全て些事だ。


「悪い、取り乱した。すぐに出る」


 ハルドゥルをまっすぐに見つめ返し、ヴィクトルは宣言した。


「荷物を取りに行ってくる。ギルド長に伝言があれば、出る時に……」


「伝言など、伝令が帰する時で十分よ……銀狼」


 詰所の割り振られた部屋、荷物を取りに向かおうと口にし、ハルドゥルに遮られた。

 ハルドゥルは胸元のポケットから、小さい巻き紙を取り出した。


「一度限り、一人用。転移のスクロール。

行き先は、グレディのエルの執務室だ。貴殿にやろう」


 軽く投げて寄越したそれにヴィクトルは慌てて受け取った。かなりの貴重品である。


「いくら足の早い貴殿でも、これには負けよう。使い方は分かるな?

……おおそうだ、別れの挨拶は不要ぞ!」


「ああ!」


 スクロールを握りしめ、駆け出した銀の青年。

 それを見送るハルドゥルは、目を細めた。その声は風に溶ける。


「男になるか。此度の褒賞はSの打診でも良さそうだな」




◇◆◇◆◇◆◇


 冒険者ギルド、グレディ支部。

 夜明け前、そこは混乱と騒ぎの中心にあった。

 緊急時対応もあるため、当直のギルド職員は何名かいる。食堂やロビーでたむろする冒険者も居る。

 その、動ける者を全て動かし、ギルド長は腹から声を出し指揮を取る。


「行方不明者の受付、対応は窓口で受けろ!

名前、年齢、性別、髪色、種族!居住区は4分割!

適当な紙に書いて後方に回せ!

後方!受付済みから行方不明者のリストを作れ!!

初手が肝心だぞ。気合いれろ!!」


 家族が居ないと押し寄せ混乱する住民に、一人一人職員が捕まっては、意味がない。

 整理係も動員し、流れを作る。


「冒険者緊急招集かけろ。ボーナスは弾むぞぉ!!稼げバカ共!!仕事しろっ!!

下位は街中!中堅は近辺!!上位は森や川、怪しいとこを重点的に索敵だ」


 まだ遠くに行ってない、そう祈るだけだ。

 こればかりは、速さが求められるだろう。


「伝令!早馬を国境警備兵詰所と辺境伯にそれぞーー」


「ギルド長っ!!」


 一階フロアで声を張り上げるギルド長の後ろ、階段からドリィがその声を遮った。

 振り返って見れば、その手に握られてるものが信じられず目を見開く、ギルド長は青ざめた。


「おいおいおい。マジかよ……」


 普通の住居とは違うんだぞ。あそこは三階で、下へ降りるためには魔法陣が必要だ。

 彼女はそれを単身では使えない。

 けれどドリィの手にあるのは、ヴィクトルと別れてからずっと、彼女の胸元で揺れていた物だ。

 そのチェーンが切れている。


「っおい!フォートル!!早馬で伝令!国境警備兵詰所で銀狼を呼べぇ!!!」


 普段は事務員だが宿舎の存在を知る数少ない職員の一人。

 実はギルドで一番馬を乗りこなす若い男。住人の整理を担当していた。

 その男を名指しして、ヴィクトルを呼びに行かせた。

 代わりに自分がそこへ入り、一人一人流れを作る。

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