33話 途絶えた繋がり
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お嬢様、私に拾わせていただけませんか - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/822139840765447449
ヴィクトルが拠点を潰して戻った翌日。
ハルドゥルに押収した書類を提出し、調査報告をした。
「ほぉ。"星"は海から運ばれていたか」
「ああ。オルド王国港町から国境拠点へ、そこから森経由でダザル帝国の町村だったな。……港町も探るか?」
「ルートを1つ潰したのだ。今は、それで良かろう。
国境伯と辺境伯へは、国境閉鎖の進捗と合わせ、俺が報告を請け負おう。前菜と一緒にな」
「オルド王国側もダザル帝国ほどじゃないが、中毒者が増えていたな。
にしても"星"と例えるか、随分と詩的だな?」
ヴィクトルが聞けば、ハルドゥルは、ご機嫌だ。1つの区切りに高ぶった気も落ち着いたのだろう。……もしくは前菜の効果か。
「貴殿の前菜のお陰だ。酒や菓子以外にも含まれていてな。数の多さもさることながら、事柄が多岐にわたるでなぁ。
"星"と見立てたのよ!」
ーーそんな綺麗な物か?
ヴィクトルの不満を汲み取ったのだろう、ハルドゥルは苦笑いする。その目は痛みをはらんでいた。
「……悪用ばかりでも、なかったのだ。教会、病院では末期の患者の痛みと苦痛を和らげるとして、薬となっておったわ」
「それはなんとも。面倒、この上無いな」
策略、陰謀、偽善、人のやることは面倒だ。ヴィクトルは、くだらないと頭を振る。
そのせいでもう、1ヶ月は戻れないでいた。
「子どもはそれで良いのだ。酸いも甘いも大人の仕事よ」
「……」
子ども扱いするな!そう言い掛けて口を噤む。
耳に何かが引っ掛かった気がして、ヴィクトルは顔を上げた。
いつも意識すれば、そこに感じることの出来た繋がりが、途絶えたのが分かる。
感じたことの無い焦燥が、じわじわと胸に広がった。
「どうした?」
「いや、……なんでもない」
気のせいだ。そうヴィクトルは自分に言い聞かせる。
「ハルドゥル殿、これは……」
隈が幾分消え、顔色がマシになった国境警備兵の隊長、彼が資料の山から手にした資料の1つを渡され、ハルドゥルも頷く。
「ほぉ?奥方との証言にも、符合するなぁ」
「……人を商品とするなど、甚だしく忌まわしき事案であります」
乙のが失態を悔いているのだろう、隊長の拳は力を入れすぎ震え、真っ白だった。
オルド王国と違い多種族国家のダザル帝国としては、受け入れがたい事実なのだろう。
無言で聞き流していたヴィクトルに、ハルドゥルが説明する。
「銀狼が連れてきた奥方がな。
深夜、行方不明者が揃ってどこかへ歩いて行くのを窓から見ておったと証言していてなぁ。
自分の足で、家から出歩いて戻らぬそうだ。発見も遅れるわけよなぁ。
……その行き先の1つが、分かったぞ」
ハルドゥルから渡された資料を見れば、自分が潰した拠点で押収した物だった。
性別、年齢、身長、体格、髪の色に目の色、耳の有無、健康状態。
商品の詳細とおぼしきリストのそれは、どう見ても人のデータだ。
拠点倉庫にはそれらしい者は居なかったが、どうやら、人身売買にも関与していたらしい。
関係ない話のはずなのに、ヴィクトルの背筋に氷塊が落ちるような冷気が走った。
喉の奥が閉塞感で息が詰まる。
ーー違う。
追えない繋がりが、不安が、ヴィクトルを苛んだ。
けれど信じたくなくて、否定する。違う。
「伝令!伝令っ!!」
日が暮れようとする夕方。詰所の入り口、息を切った男が叫び、駆け込んできた。その身は冒険者ギルドの制服に身を包んでいた。
「何事だ」
「副、ギルド長っ!!」
飛ばして来た男は汗だくで、息も絶え絶えだった。
男は、ハルドゥルの後ろに現れたヴィクトルに気づくと額を床に擦り、平伏した。まるで、謝るように。
そう。事情を知る数少ないギルド職員の1人。
「グレディにて行方不明者発生っ!銀狼、戻られたし!!」
その声は詰所に轟き、落雷に撃たれたような衝撃が、ヴィクトルを貫いた。
「銀狼、戻ら、れ……」
ヒューヒューと乾いた呼吸を繰り返し、男は言葉を繰り返し、懇願した。
額も音を紡ぐ口からも僅かに血が滲む。それでも男は顔を上げなかった。
言葉の意味がヴィクトルは理解出来ないーーいや、したくない。




