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【2章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
1章

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32話 忍び寄る音

「ふー」


 子守唄の謎が解けた後、ティールは残りの仕事を終わらせた。

 宿舎の自室で、ごろんとベッドに寝転がる。最近の習慣だった。


 見慣れてしまった天井を見て、ティールはぼんやりとする。 


「いつ」


 いつ帰ってくる。その呟きは、音にならなかった。

 一人になると考えてしまうのは、ヴィクトルのこと。

 依頼が一つ片付いた、そうギルド長に聞いたのは何日も前。


 ドリィやギルド長と毎日会って話してる。仕事も手伝わせてもらってる。充実しているはずなのに。

 モヤモヤと広がるわだかまりに、布団をぎゅっと胸に抱える。


 視線の先では、連れ帰った木彫りの子犬がベッドに同じく転がっている。


「そう言えば昔、黒い子犬を拾ったわ」


 思い出して言えば、ティールの霞がかった記憶が鮮明になる。

 木彫りの子犬が、あの時の子犬と重なった。


「ぐったりしてたから、連れて帰ったのよね?」


 お父様が公爵位を継ぐ前、領地の別邸に住んでた頃だ。

 何かに呼ばれるように歩いた先で子犬を見つけた。


 あの時はなぜか、そうしなければと強く思って子犬の口に指を入れて噛ませた。


 メイドと護衛騎士に、その後かなり怒られた記憶がある。獣につけられた傷は、危ないのだと。

 念入りに手当てされ、傷跡は残らなかったが。


 かなり駄々をこねて、子犬を手ずから洗い、元気になるようにと、付き添ってたように思う。


 子犬はそのうち、居なくなっていた。

 探し回って、それでも居なくて、屋敷の者にも抗議した気がする。


『探さなくて良い。しかるべき時に、また会える。必ずだ』


 会えると、お父様が断言したから、ティールは探すのを止めた。そうかと、思うことにしたのかもしれない。

 それでもしばらくは、心に開いた穴を抱えていた気がする。そう、今のように。


「そっか。寂しいのね。私」


 あの時の子犬は、もう子犬ではないはずだ。元気だろうか。

 いつかまた会えるだろうか。

 ベッドに寝転んだまま、ティールはうとうと、と眠りに落ちてしまう。


 夕食を運んだドリィが様子を見れば、木彫の子犬を抱いたティールが寝息を立てていた。

 ベッドにしっかりと寝かせ、布団を被せ、ドリィは静かに部屋を後にした。




《ーーーーーー》


 遠くで何か、音が聞こえた気がする。

寝ていた意識が呼び起こされ、ティールは目を開く。

 窓を見ようと起き上がると同時に、頭に強い痛みが走る。


「っ!」


 痛む頭を手で抑え窓を見れば、家からそろそろと出てくる素足の子どもたちを、見つけた。


ーードリィに言わなくちゃ!


《ーーーーーー》


 ティールがドアノブに手を掛けると、再び音が聞こえた。それは笛の音だった。

 激しい頭痛に、足元がぐらついた。


「……」


 ドアノブから手が離れる。

 ティールはのろのろと覚束ない足取りで、窓の方へと歩き出す。


 窓に手を掛け、大きく開ける。冷たい風が部屋の中へと吸い込まれた。

 その目は虚ろで、どこも見ていない。


ーーなんで。どうして!?


 見えているのに、口も手も足も、ティールは何一つ、自分の意思で動かせない。

 何が起こったのか、ただ目の前の光景を見ることしか出来ない。


 ティールの身体は窓から身を乗り出し、ずるりとそのまま落ちた。

 その際、引っ掛かって落ちたものがある。

 けれどティールは、振り返ることもなく虚ろな目をして歩き出した。


 ベッドには木彫の子犬とチェーンが切れたリングが、落ちていた。


 ひた、ひた、ひた。


 月明かりもない闇の中、笛の音が静かに響く。

 空気は冷たく湿っていて、辺りには霧が立ち込めていた。


 虚ろな目をした子どもたちが、裸足で街道を歩いている。

 その後ろ、寝間着に身を包んだティールが歩いていた。

 その頬を、雫が線を描いて落ちていった。


ーーやだ。やだよぉ。


 心の内で、ティールは悲痛な声をあげる。歩く足は、止まらない。




◇◆◇◆◇◆◇


 耳に何かが引っ掛かった気がして、ヴィクトルは顔を上げた。

 いつも意識すれば感じることの出来た繋がりが、途絶えたのが分かる。

 感じたことの無い焦燥が、胸に広がった。

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