29話 密輸ルート攻略①
森の中を、静かに進む。朝日に照らされて見通しが良い。
昨日、そのまま出ようとしたら、ハルドゥルに止められた。
『冒険者は身体が資本!寝なくてどうする!?』
耳にあの大音量が響くようで、ため息をついた。
歓迎されていない国境警備詰所で、寝れるわけが無いだろう。
そうでなくとも、寝れないのだ。
そっとしてほしい。
案内された部屋では、横になることはせず、目をつむって時間を数えていた。
朝日が顔を覗かせた夜明け、朝食の誘いを受ける前にと、出てきた形だった。
街を出て2日目。保存食もまだある。安全性が分からない物を食べるより、ずっといい。
ハルドゥルの話では、森のルートは日が出ている間は動きが少ないとのことだった。
実際通ってみて、ハルドゥルの憤りもよく分かった。
森の中、普通なら道など無いのだ。それが人の足で踏み固められ、確かな道が出来ていた。
継続的に、使っている証拠だろう。
相手が油断しきっている、とも言える。
ーー道は固定か、複数か、規模は……。
殲滅を許可されたのだ。確実に、仕留めたい。
そうでなくとも、憂いは払わなければ。
村と森との位置関係を頭に浮かべ、念入りに探索をする。昼には1度、ハルドゥルから聞いたオルドの拠点の位置も確認している。
そして、2日目の夜になる。
薬物の拠点、そこが見下ろせる木の上で身を潜めた。
そこまで待たず、一台の馬車が出ていくのが見えた。
街道を外れ、進む馬車は森の入り口で止まった。馬車から数人が出て歩き始める。背には荷物を背負っていた。向かう先は森。
人数を把握した後、再び出発した馬車をつけた。馬車が拠点に戻ったことを確認すると、ヴィクトルは森へと向かう。
しばらく歩いた森の中、あらかじめ目星を付けていた場所を集団が差し掛かったところで、最後尾の男を瞬時に凍らせた。
足取りも覚束ず、列もまばらな集団の最後尾、フード付きマントを羽織り、男と入れ替わったヴィクトルは歩き出した。
ーー運搬は予想通り、中毒者か。
足取りや動きからして、まともではないと思っていたが、近くに来てさらにそれが分かる。
目は虚ろ、口からはよだれが滴り、異臭を放つ。正気を保っている者は、1人も居ないようだ。
深夜に差し掛かったところで、1つの街に入る。外を出歩く人は居らず閑散としている。
細い路地の先、迷うことなく一行は何の変哲もない石造りの家屋の裏口に着いた。
商家の従業員出入口だろう。従業員とおぼしき男が、扉を開け中へと促した。
ヴィクトルは最後尾にそのまま紛れ、ざっと見渡して、1階の様子を把握する。よくある住居兼店の間取りだった。見渡す限り、他に人は居ないようだ。
2階へ上がる階段を背に、表に見えない部分の荷物を男がどけると、地下への入り口が見えた。
運搬人達はそのまま地下へと降りていく。
「おい。お前も下にーーっ!」
立ち止まるヴィクトルに、気づいた男が声をあげる前に、手を突きだしその口を氷で塞ぐ。首筋には仕込みナイフを当て、男を壁際に立たせた。
足元、地下への入り口も氷で塞ぐ。
男はよほど驚いたのか、目を見開き固まっている。
「頭は上か下か?」
「んゔ!!」
答えない男の口の奥、さらに氷塊を増やせば男は仰け反った。震える手で、下と表す。
視線だけで確認しナイフを離すと、男は安堵を浮かべた。
が、もう用はないと興味を無くしたヴィクトルによって、その心臓を氷漬けにされ、男はズルズルと座り込むように倒れた。
さらに、ここから先逃げられないよう建物の内側を氷で覆った。触れば凍傷になるだろう。
上階に人の気配はあるが、寝ているのか動く気配は無い。後回しで良いだろう。
塞いだ氷を溶かし、階下へと静かに降りる。
「なんだぁ!お前はぁ!!」
「アンタがここの頭?」
階段を背に降り立つと、周りを見渡す。倉庫になっているようだ。抜け道になるような地下通路は見受けられない。
中毒者を除けば、人数は4人。
荷物を改めている者。
酒瓶の中身を床に流す者。
ヴィクトルに怒声を浴びせたーー指示をしている者。
その横に立つ用心棒風のガタイのデカイ者。
ーーまるで犬だな。
中毒者達は、床に出来た水溜まりを必死にすすっている。男が床に注いでいる酒瓶の中身はおそらく薬物なのだろう。褒美のつもりなのか。見るに耐えない光景だ。
ナイフをちらつかせて、ヴィクトルは問う。
「質問に対して話すなら、殺さないけど。どうする?」
「のこのこ1人で来てから、何を言ってる!しかもそんなナイフ1本でっ!こんな上手い商売、ほいほいと手放すヤツがおるかぁ!!」
男が言い終わる前から、横に居たガタイのいい男がヴィクトルに向かってくる。
他の者も手を止めて加勢するようだ、動かないのは指示役の1人身なりのいい男。やはり頭で間違い無いらしい。
「悪党ってさ、やることだいたい、一緒だよな」
ヴィクトルの金の眼がキラリと光り、頭以外の人間が氷像と化した。




