28話 情報共有
「ええと……、それでは現状を、もう一度共有したいと思います」
ハルドゥルに促された隊長は、話し始めようとしているが、ヴィクトルを気にしているようだ。
チラチラと探りを入れるように見てくるその目は、あまり気分の良いものではない。
テーブル上の地図は、地形を含め近辺の詳細が書かれたものだった。
パッと見ただけでも、村や町のある場所、国境に近いほど赤が目立ち、中程は黄、グレディの近くに緑の駒が、幾つか順に置かれていた。
危険度の指標だろう。
それを手に取って、ヴィクトルが口火を切る。
「俺から。今朝グレディのギルド支部を出て、直線距離でここまで来た。道中の魔物は全て始末済。魔法で氷漬けにしてある。急ぎではない。……こことここ、あとここもか、村が壊滅していた。魔物の出入りも確認済み。火魔法が使える者がいれば後始末を頼みたい。……ここの村から街までの間は、まだ希望がある、人手があれば間に合うかもな」
地図を指差し、自分の辿ったルートを提示した。
壊滅した村は赤から黒へ駒を変えた。
他にも立ち寄った場所の駒を、無言で次々と入れ替えていく。
人にしろ魔物にしろ、腐敗すれば疫病が流行る。対処は迅速さが求められる、なのにーー。
「嘘だ!コイツは街道を歩いてた!!馬もなしに1日!?グレディから、来れるわけがないっ!」
そう言ったのは、最初に武器を向けて来た鎧の兵だ。甲冑で顔は分からないが、声からして若い。
部屋へ通した後、巡回には戻らず、この場に留まっていたらしい。
それに数人が同じ考えなのだろう、訝しげな目をヴィクトルに向けてきていた。
ーー無能が。
ヴィクトルは冷えた目を向け、口を開く。
「誰と比べてか知らないが、ハルドゥルが言ったように俺はA級、ソロだ。信じないならそれで良い。……黙ってろ」
「ハッハッハッ。相変わらず、足が速いようだな!なるほど。焼いて回るなら、そこまで労でもないな。隊長殿いかがか」
「はい、火魔法であればお任せ下さい。隊を編成します。おい、巡回の続きだろう。……行け!」
ハルドゥルに比べ疲労の色が濃い隊長は、覇気の無い声で若い兵へと指示を出す。
渋々出ていった兵を見届け、隊長は形式的な謝罪をした。
「部下が、申し訳ない」
「長らく平和であった証拠よ。荒事に慣れてないのだから、仕方なかろう。貴殿の大変さも分かろうぞ!若人は活きが良いのでな!」
ハルドゥルは先ほどの兵には触れず、ヴィクトルの背を力強く豪快に叩く。
ーー痛い。しかも、俺に振るな。
「……おい。茶番が続くなら俺は出る。任せたいことがあるって、なんだ」
「性格がせっかちなのは考えものよ。銀狼!コミュニケーションは大切だっ!!」
「無駄を嫌っているだけだ。何が悪い」
「貴殿はSにも届くだろうに、性格が残念でならんぞ!」
「ハルドゥルは声がでかいな。で?」
本気で、残念そうな目をしないでほしい。
続きを促せば、ハルドゥルは苦笑いを返した。
「銀狼。貴殿には俺の代わりに、密輸ルートを一つ潰してもらおう!なに、道はもう突き止めていてな。オルドの詰所にも話も通しておる。そこからオルドまで行って、拠点も潰して帰ってこい。簡単だろう?」
元々は、ハルドゥルが行くつもりだったらしい。身体が一つしかなく、困っていたところだと言われた。
「国境の詰所はどちらも、中毒者多数で機能してなくてなぁ。あてにならんのだ。
あぁ、拠点のトップだけは生かして、オルドの詰所に放り込んどいてくれれば良い。その後は、俺が請け負おう。後はそうさな。好きにして構わん。俺が許そう!!」
ハルドゥルは豪快に笑っているが、その実かなり国境警備兵を貶している。
隊長他、軍服の何人かの疲労が濃いのは、ハルドゥルに絞られた後なのだろうと想像がついた。
「へぇ。国境が機能してないのか?」
先ほどの生意気な兵を思い出し、ヴィクトルは内心愉快に思いつつ、口にした。
「酒呑み連中が、もう使い物にならんなぁ。形だけは辛うじて保っておるぞ。貴殿はどこまで聞いたのだ?」
「ギルド長からは、酒と菓子は薬物の確認が取れた、とだけ。……後は、行方不明が多い、か」
中毒者が多数は今、聞いた。あと知らないのは行方不明者の情報くらいか。
ーーハルドゥルが使い物にならんと言うなら、それはもう、無いも同然だ。
なるほど、兵が兵なら。隊長も隊長か。
「……ああ。グレディでも中毒者が確認された」
そう付け足して言えば、軍服の兵たちの顔がさらに青くなる。
グレディは大きな街だ。そこまで被害を拡大させたとなれば、責任を取らされるだろう。
「菓子は、つい最近だなぁ。最初は酒だ。詰所と国境に近い村がかなりやられてから、菓子が広まったように思うぞ」
ーー守る立場の者が、最初に落ちたのか。
ティールがグレディのギルド支部で絡まれた背景に、自然と怒りが沸く。
ここで出したところで、旨味はない。ハルドゥルが"好きにして構わん"と言ったのだ。
憂さ晴らし先は決まった、そうヴィクトルは結論づける。
「行方不明者もその辺りからだな。1人では無いのだ。忽然と、まとまった人数が消えるようになったらしい。
が、すまんなぁ!そっちはまだ調査が進んでおらん。なんせまともに聞けるヤツも居らんでな!!密輸ルートを潰せば取りかかるつもりだったのだっ!」
苦い顔をして続けるハルドゥルは、現状にかなり不満そうだ。
「巡回は機能せず、報告は滞り、対応は後手。……はっ、怠慢と言うより崩壊だな」
「なぁに、国境はようやっと封鎖したのだ。だからな。銀狼、行って潰してこい。それで一先ず、新規は止められるだろうて」
声低く威圧するハルドゥルに対し、ヴィクトルは無言で頷いた。




