27話 現地調査
「……ここもか」
閑散とした様子の村に、ヴィクトルは驚くこともせず散策する。
国境に近づくにつれ、村は人が減り、荒れていったからだ。
今居る場所は、街と国境を直線で繋いだーー国境から1番近い村。
家屋の損傷こそ少ないものの、農作物は荒れ、生きた人の気配もなく、捨てられた村といってもいい惨状だ。
夕焼けに染まる景色の中、不自然に赤が濃い場所も見受けられた。
「……」
小さな物音を拾い、物陰に潜んでいた魔獣を、ヴィクトルは手をかざして氷漬けにする。
道中見つけた魔獣は、全て氷漬けにした。解体する手間を省くために、そうそう溶けないように厚くしてある。
後で、回収依頼も出した方がいいだろう。
2ヶ月分の記録を頭に叩き込んできたが、記録をする者が居なくなれば、以後の変化は現地で無いと分からない。
ーー副ギルド長が帰れない理由が、分かったな。
資料以上の酷い惨状に、異常なほどの短期間での変化だと分かる。
救護の依頼も復興の依頼も出さなければいけないだろう。……領主を巻き込む方が、早いかもしれない。
「……副ギルド長とはどうやって、合流すればいいんだ」
足取りを掴もうにも、聞ける人間に出会えて居なかった。
荒れた村では飲食の確保も難しい。
副ギルド長も長居は出来ないだろうと、ヴィクトルは合流を最優先にしていた。
ろくに調べもせず、村はほとんど通り過ぎるに留めている。
ーー国境の詰所、そこを目指すか。
せめて騎士は無事であってほしい。ついでに副ギルド長も居れば、なおいい。そう期待しての事だった。
国境の関所が、見える頃には夜になっていた。
明かりがついていると言うことは、人が居るんだろう。その事に安堵する。
夜目が利くのもあり、灯りもつけず単身歩いているとーー。
「止まれ!!」
ガシャン!と鎧を身にまとった二人組に、武器を向けられた。
鎧には領主の辺境伯家の紋章、国境の警備兵だろう。
「……副ギルド長はいるか?」
冒険者プレートを見えるように二人に見せ、立ち止まったヴィクトルは、逆に問いかけた。
久しぶりにあった人間に敵意を向けられて、内心イラッとしたが表には出さない。
「ハルドゥル殿か、ならば今は、詰所に居るが」
「……ギルド長からの依頼を受けて来た。会わせてくれ」
警戒しているのだろう二人組に、ため息をつきながら、ギルド長からの依頼書を見せる。
偽物か本物かまで疑いだした後、ついてこいと言った兵の後を追う。
兵の無駄の多い動きに辟易し、思わずナイフを抜きかけたが、すぐ袖に戻す。
ーーくだらないな。
早く帰りたい。心の底からそう思った。
「おおー!銀狼。久しぶりだなぁ!!」
通された部屋、そこでは地図を囲むように数人が立っていた。
入り口から近い場所、大柄な男がズカズカと近寄ってきたと思ったらーー抱きつかれた。声が大きい。
「耳が痛い。うるさい」
「そう固いこと言うなぁ!会えて嬉しいぞぉ」
ヴィクトルの抗議も虚しく、「息災でなによりだぁ!」と耳元で叫ばれた。本当にうるさい。
「ハ、ハルドゥル殿……」
気まずそうに止めに入ったのは、目の隈が酷く疲労の色が濃い軍服の男だ。
テーブルを囲む兵は皆、疲労の色が濃い。
1人明るい副ギルド長ーーハルドゥルは、豪快に返事をする。
「おぉ!すまん、すまん。再会が嬉しくてなぁ。で、銀狼。エルの遣いか?」
抱擁から肩組みへと姿勢を変え、ハルドゥルはヴィクトルを見る。
エルとは、ギルド長エルヴィスの事だ。
「いや。ギルド長から、副ギルド長を手伝えと言われた」
「ホントかぁ!!お前はいつも、すぐ帰るだろぉ!?終わるまで居るのか!!!」
よほど驚いたのだろうハルドゥルは、部屋が揺れるほどの大声を出した。
予想していたヴィクトルは耳を手で塞いだが、手遅れの何人かの兵はふらついていた。
日数のかかるもの、任期の分からない長期依頼は特に蹴ってきた自覚があるだけに、ヴィクトルは否定はしなかった。
ーーうるさいのが欠点だよな。絶対に。疲れ知らずめ。
「……連れて帰ってこいとは、言われた。俺は早く帰りたい。何をすればいい?」
帰りたい、そう口にすれば兵たちの何人かが殺気だった。
が、ヴィクトルは気にしない。事実だ。
「おお。そうだな。お前が頭数に入るならちょうど任せたいことがあるぞ!」
そう言うなり、ぐいぐいと部屋の中テーブルへとハルドゥルに連れていかれた。
テーブルには地図、それからいくつかの駒が置かれていた。打ち合わせをしていたのだろう。
「皆の者、待たせてすまない!コイツは銀狼。若いがA級冒険者だ。腕っぷしは、俺が保証しよう!!」
顔繋ぎとしてハルドゥルが、兵たちにヴィクトルを紹介した。そしてそのうちの一人、先ほどの軍服の男に促した。
「では隊長殿。始めてくれ!」




