24話 薬物調査
ギルド長から手渡された資料を、ヴィクトルはパラパラとめくる。
国境沿い近隣の村や町の情報が書いてあった。
騒ぎを起こして捕まえた者。
行方不明者。
救護者として運ばれたもの。
死者。
それぞれの数字が、村や町ごとに2ヶ月分。よく集めたなと関心さえする量だ。
「……コラ、髪の毛ちゃんと拭け。副ギルド長直々の資料の原本だぞ、濡れるだろうが」
「……っ」
ギルド長が乱暴にヴィクトルの髪を拭く。
あらかた拭いて満足したのか、そのままソファに腰かけた。
ぼさぼさになった髪を軽く、前が見やすいように整えて、ヴィクトルはギルド長に訊ねる。
「これは?」
「ここ最近、特に国境沿いに多いんだよ。……んで、調査することになった。最初は依頼を出して、冒険者を使ったんだが行方不明者が出てな。で、副ギルド長が出向いた。ほらアイツ、ずっと居なかったろ?今も現地だ」
アイツとは、副ギルド長のことだろう。
そう言えば見かけないなと、言われて気づいた。
「最近の調査で、ノルド王国側も関与してるのが確定してなー。別に、お前らは疑ってねぇ。むしろ、ほんとは巻き込みたくなかったってのが本音だな」
長くなるから座れと促され、ヴィクトルもソファに座る。
「が、今日のアレだろ?どういうこった?」
「知らない。こっちが聞きたい」
「んじゃ、言い方を変えるわ。嬢ちゃんも薬物を摂取した可能性がある。心当たりは?」
「無いに決まってるだろ!」
カッとなり立ち上がってヴィクトルが言えば、ギルド長は静かに座れと促した。
ティールの食事は、ヴィクトル自身が用意している。薬物なんて、そんなものを口にするはずがない。
「ここに来る前の話だ。夜会に茶会、お前がいない間になら、ありえるだろ。かなり"残る"らしいぞ。今判明してる分だけでも酒に、菓子に盛られてる」
言われて思い当たった事が一つ。
魔力暴走を起こしたきっかけだ。彼女は何て言っていた?
「シャンパン。……シャンパンを少しと、言っていた。そのわりには合流した時に、匂いがキツイと思った」
「まぁ、異変にお前が気づいてないってことと嬢ちゃんの様子を見るに、慢性的にでも中毒を起こすほどでもなかったんだろ」
ヴィクトルは手で顔を覆い、項垂れた。
そのまま、とつとつと当時の話をギルド長にした。そう言えば詳細を誰かに話すのは、初めてだ。
おかしいとは思っていた。ティールは酒に強いはずなのに、と。
記憶が混濁していて、シャンパンではなく別の度数の高い酒と、間違えたんじゃないかと。
「……はぁ?オルドじゃ王宮までいってんのかよ。仕事しろよ。あの野郎」
ヴィクトルの話を最後まで聞き、だんだんと声が低くなっていくギルド長。
立ち上がると、棚からグラスとブランデーを取り出した。
「おい、ヴィクトル。氷出せ」
「はぁ?」
「良いから出せ!……あの野郎のことは毎度毎度、自然災害だと思ってたがっ!!」
勢いに負けてグラスに氷を出すと、グビグビとギルド長は飲み干し、勢いのままグラスをテーブルに置いた。かなり、思うところがあるらしい。
ーーそれ。銘柄的に度数かなり高い酒だろ。
ギルド長の突然の怒りに呆気に取られ、ヴィクトルは毒気を抜かれた気分になる。
ギルド長の中では、ローグル・ジグラズル公爵は自然災害らしい。そうか、自然災害。
圧倒的力と権力。何を考えてるか分からないあの冷徹な言動。なるほどと何処か納得してしまった。
「今回はマジで頭に来たぞっ!娘まで危険にさらして何やってんだ!それでも親かぁ!!!嫁が泣くとか思わないのか!!」
ギルド長の怒りの矛先は全て、ティールの父であり宰相のローグル公爵だった。
そこにヴィクトルを責める言葉は一切無い。
お前も飲め!と差し出されたグラス、受け取ろうと顔を上げれば、ギルド長はヴィクトルを見ていなかった。
水面に映る自分の顔は、今にも泣きそうだった。
「……度を越さなきゃ。今のところは大丈夫だ。話からすると、嬢ちゃんは初期の陶酔感辺りだろうよ」
ひとしきり叫んだ後、切り替えるように息を吐きギルド長は言った。だから、ティールは大丈夫だと。
ヴィクトルを、安心させるように。
その言葉に、静かに頷いた。
中度になると錯乱、薄弱、興奮、幻覚、幻聴等の精神異常、強い依存性も比例してみられるそうだ。
国境沿いの町や村で現在、中度中毒者の対応に手を焼いているらしい。
「重度は……、見ただろう。薬に対して異常に反応する中毒者だ。その後は……死に至る報告を受けてる。末期は今のとこ治療法がねぇ」
そして、薬物中毒と同時に行方不明者も増えてるとのことだ。
「お前に頼みたいのは、副ギルド長の補佐だ。被害は増える一方だからな。いつ村一つ消えてもおかしくねぇ。何とかしないとマズい」
副ギルド長は現在、町村への情報収集を終え、薬物の出所を探っているところだと言う。
そこへ加わり、まずは薬物の流通阻止、関係者の可能な限りの捕縛が依頼内容だと告げられた。
「……頼んだぞ」
ギルド長の視線に、ヴィクトルはまっすぐ返した。




