21話 凍える怒り
「……ドリィに任せろ。こういうのは、同性の仕事だ」
そう言って、ヴィクトルの肩に手をかけたのは、ギルド長だ。
それを払うでもなく、視線の先、ティールをヴィクトルは静かに見つめていた。
気を失ったらしいティールの側、ドリィと女性職員が並ぶ。自分もそばに駆け寄りたい衝動をなんとか抑えた。
本当なら、自ら部屋に運んで、目覚めるまでその手を握って、そばに居たい。
目覚めた彼女に、もう大丈夫だと告げたい。
「……」
血のついた己の手を見る。こんな手で触れたら、彼女の身体が汚れてしまう。
……それは、ダメだ。
ギリと、噛んだ唇に僅かに血が滲んだ。
「わりぃ。衛兵に突き出すところだったんだが。直前まで糸が切れた人形みたいだったんでな。……油断した。急に動き出しやがって」
ギルドに入る前から、会話は聞こえていた。
端から見れば、ただの酔っ払いの引き渡しだった。
が、ただの酔っ払いぐらいでは、ギルド長は出てこない。
だから、ヴィクトルは警戒した。
こんなことになるならば、時間をずらせば良かった。
帰り道のティール笑顔が、脳裏によぎって消える。
行きたがった、どこか露店へ連れていけば良かった。
見てないはずなのに、目蓋の裏に怯える彼女の姿が、焼き付いている。
自責の念が、後悔が、その胸に押し寄せた。
ギルド職員が、駆けつけた増援の衛兵と一緒に、持ってきた縄で頑丈に手足を縛っている。これで暴れることも、男は出来ないだろう。
ティールが何かを持っていると、確信していたような動きだった。
ヴィクトルが初手、地面へと抑えつけただけで、本来並みの人間は動けない。
だが、コイツは痛みを感じないのか、いくら力を強めても、腕が折れても、不気味に動いていた。
「詳しいことは、またあとで、だ。……が、今言えるのは、おそらくコイツは、最近騒がせている中毒者だ」
ぼそりと周囲には聞こえないよう、ギルド長は耳元で告げる。
ティールに襲いかかろうとした時点で、本当はひと思いに、殺してしまいたかった。
汚い声を、言葉を、聞かせる前に口を封じたかった。
あんな顔を、させたくなかった。
それが出来なかったのは、ここがギルドで、この男に、ギルド長が関わっていたからだ。
けれど、ティールの涙で全て吹き飛んだ。
あと一呼吸でもギルド長が遅ければ、頭を砕き、その身を氷漬けにしていただろう。
彼女の気持ちを踏みにじった男が、許せなかった。
握った拳から、パタリと赤が滴った。
「お前が殺さなくて助かったよ。コイツにはまだ、用があるからな」
今でも殺してしまいたい衝動を、ぐっと目を瞑りヴィクトルは堪えた。




