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【1章完結】お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ
1章

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17話 優しさの距離

 採取した薬草を抱えティールが向かうと、木の影になっている芝生の上、布が敷かれていた。


「ここに座ったら良い?」


「はい。……椅子がご用意出来ず、申し訳ございません」


「大丈夫よ。……何度も言うけれど、私はもう公爵令嬢じゃないわ」


 ティールは薬草をヴィクトルに手渡して、布の上に、躊躇いなく腰を下ろす。


 それを見た彼は、少し肩をすくめ苦顔をすると、薬草を手早く処理して片付ける。

 続いてヴィクトルはリュックから水筒を出して、ティールに手渡してくれた。

 スッキリとした果実酒が、喉を心地よく潤す。


 コルセットを着けてのドレスは、久しく着ていない。今日は、初めてズボンをはいた。


ーー動きやすくて、好きだわ。


 体調が整うまでは、と治療食が続いたのもあるけど、コース料理だって食べてない。

 回復を確認したヴィクトルに、1度尋ねられたことがある。

 元々、食も細かったからコースは要らないと、ティールがそれを断ったのだ。


 代わりに希望したのは、ヴィクトルと食を共にすること。食べているものも同じものを、と。


 普段、ティールの希望通りにしてくれることが多いヴィクトルだったが、これにはなかなか難色を示していた。

 ドリィに話したところ、すんなりと解決したように思う。

 その日から、ヴィクトルと一緒に食べることになったからだ。


ーー何て、言ったのかなぁ……。


「本日は、ローストビーフ、チーズのサンドイッチです」


 包みを開けると、ティールはパクリと頬張る。塩味が効いていて美味しい。

 そしてこれを作った彼は、いつ寝てるのだろう……。


 街の外へ出掛ける時にも、忙しなく動いている人達を見かけた。その事に内心驚いた。

 貴族の朝は遅く、夜会の翌日など、さらに遅いからだ。


 チラリと見れば、ティールの正面、彼はやや横を向いて座り、サンドイッチにかぶりついていた。


 いつものテーブルを挟んでの、背筋を正し、視線を落として食事を取る姿とはまた違う。

 片手を床につき、食べながらも周囲に気を配っているのだろう、その横顔は、森の空気に溶け込むように自然で――A級冒険者としての彼を意識してしまう。


ーーどちらが、本当の彼なのだろうか。


「……外で、こうやって食べるのも、良いわね」


「ティー様がそう言うのであれば。天気が良い日は、今日のように薬草採取に出掛けて、食べましょう」


「次は、私もサンドイッチを作るのを手伝うわ」


「……、生活に慣れたらで、お願いいたします」


 間をあけた後、いい笑顔をヴィクトルに向けられてしまった。これは作らせてもらえない、と言うことだろう。


 言葉通り、いつか慣れたら作らせてもらえるのか。

 普段の調理もまだ手伝わせてもらえていない。いつかを夢見るだけで、いいのだろうか。


「ずっと私の執事だったのに、ヴィクトルはいつA級になったの?大変だったんじゃない?」


 話題を変えようと、気になっていたことをティールは聞いてみた。


「B級までは、お嬢様の執事になる前ですね。

……師匠、公爵様の侍従の方が鍛えてくれたのですが、実戦が何よりの鍛練になると言って、よく依頼に行かされていました」


ーーえ?執事だよね?それは、なんだろう。護衛かなにかと間違えてないだろうか……?

実戦って、何を想定しているの?


「侍従の方から合格をもらって、お嬢様つきの執事になりましたので。

それ以降は、お側に居れない時に憂さーー人助けとして、簡単な依頼を受けていました。A級になったのも、それからです」


 ヴィクトルが執事として顔を合わせた時、ティールは7歳くらい。幾つかは分からないけれど、彼も子供だった気がする。

 昨日のギルドでの説明からしても、それは普通ではないだろう。余計に謎が、深まった気がする。


 お義母様が嫌がらせとして、メイドを最低限しかつけなかったり、一人で放置されたことがよくあったが、そう言うときはこのヴィクトルがよくついていた。


 私によくしてくれたメイドは、お義母様が暇を出していた。

 けれどもヴィクトルは執事で、公爵であるお父様に人事権があり、それが出来なかった。


 お茶会や夜会、その他で、理由をつけて同行を許可しないという嫌がらせしか、出来なかったのだろうと思う。


「貴方、昔からすごかったのね」


「お嬢様のためならば、当然でございます」


 そう言って食べ終わった彼は、口元を指で拭い、指先を軽く舐めるようにして塩を拭き取った。


「ゆっくりと、食べていて下さい。少しあちらで、狩った角兎の処理をしてまいりますので」


 反対の手、綺麗な方で、ティールにハンカチを差し出す。


 あちらと指した方は、木の影になってこちらからはうまく見えない。

 処理を見せないよう、ティールに配慮してだろう。


「ありがとう。気をつけてね」


 私に対して、いつも優しい彼。

 差し出されたハンカチを受け取り、その背を見送った。

 無意識に伸びた指が、唇に触れた。


ーーここで目覚めて最初に食べた時は、ハンカチで口元を拭ってくれたのに。


 その事を思い出して、チクリとした痛みが胸を刺す。どうして?と理由が分からずに首を傾げた。


 その優しさが、少しだけ遠く感じられた。

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