表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/39

12話 暁色に変わる髪

鼻歌交じりに、くるくると肩につくくらいの短い髪を指先で巻いてティールは遊ぶ。


冒険者になってみたいと話をしてから1ヶ月。

もう大丈夫だと、いくら伝えてもヴィクトルは許可してくれず、なかなか部屋を出してもらえなかった。


ここ半月に至っては、話し相手にと冒険者ギルドのお姉さん、ドリィまで呼んできた。

部屋から絶対に出す気はないらしい。と、ティールが悟った瞬間である。


そして、ドリィを呼ぶとヴィクトルは、ギルドの依頼を受けて、丸1日と出掛けてしまうこともあった。


「彼にしか出来ない依頼もあるから」と、申し訳なさそうに謝るドリィを見ていると、ティールは怒るに怒れない。

「部屋で一人、大人しくしているから帰って良いよ」と何度か伝えたが、その度に「一人にはさせないとヴィクトルさんとギルド長の交換条件なので。……ふふ。愛されてますねぇ」と微笑まれてしまった。


なので、最近はヴィクトルと過ごす時間よりドリィと過ごす時間の方が長いかもしれない。


ーー愛されてるのだろうか?


人の機微が、よく分からないのが本音だった。


初めの一週間は起きている間、たくさんヴィクトルと話をした。公爵家や家族や領地のこと、なんでも、だ。

そして、「感情を封印していた期間がとても長く、公爵令嬢としての知識や教養は確かに身についておられますが、感情面では封印前に引っ張られていて、幼くなっているようです」と、ヴィクトルは言った。


確かに、公爵家の本邸に住んでいた頃の記憶はとてもあやふやだ。毎日毎日、同じことをしていたような気もするくらいには。

ヴィクトルと顔合わせした時のことも、正確なことは覚えていない。ずっと側にいたのは知っていたが、それだけだ。話したことはほとんど無かった。


それよりも、お父様とお母様と過ごした、領地でのことの方が、記憶がとても鮮明でーー。

あの時のことを思い出すと、今もまだ胸の奥がじんわりと痛くなる。

ヴィクトルとお母様との話をする中で、よく泣いた気もする。

でも、彼はその度にいつも笑って、頭を撫でてくれたり抱き締めてくれていた。


あまり泣かなくなってからだろうか、彼との距離が戻り始めたのは……。

以前の、公爵令嬢の時の距離ほど、遠くはないけれど、一定の距離があるように思う。

執事としての節度を、彼が取り始めた。


今までは献身的に看病をしてくれただけ、だから、今の距離感が男女としても正しい、と思うのに。

それが寂しいと思うのは、やはり子供になってしまったのだろうか……。


ドリィに聞いてみたい。いや、彼自身のことだ、ヴィクトル本人に聞いてみたら良いのでは?と思うのに、ティールは言えずにいる。


なぜ言えないのか、この気持ちはなんなのか。どこかに答えが落ちていないか。

そんな小さな心の引っ掛かりを、どうしたら良いのかティールは分からずにいた。


昨日の夜、唐突に冒険者登録をしに行ってもいいと、ヴィクトルに言われた。


そして今日は、待ちに待った部屋の外へ行く日である。


実はこの数日で、ローズクオーツを思わせる薄桃の髪は、かなり変わった。

上から青、毛先に向かっていくにつれ薄桃へとティールの髪は、グラデーションに彩られているのだ。「暁の色ですね」と、ヴィクトルは例えていた。


頭の頂点からの変化のため、最初はティールは気づかなかったが、毎日髪を梳かしてくれるヴィクトルが最初に気づいた。

身体に十分に魔力が巡ると、髪にも魔力が行き渡り始め、魔力の濃さで髪色が変わることがあるらしい。

ヴィクトルの黒髪と銀髪を思い浮かべ、説明された時は納得したものだ。


その時、ヴィクトルは何かを言いかけ、ティールの髪をじっと眉根を寄せて見ていた。

不思議に思って聞いたら、「なんでもない」と、はぐらかされてしまった。


今は耳上辺りを境目に、青と桃色が分かれている。

ここ一週間ほど髪色の変化が止まっていた。


魔力過多を抑える魔道具をつけていることから、これ以上は色が変わることがないだろうと、彼は言っていた。


魔力制御を完全に身につけ魔道具を外したら、もしかしたらお父様と同じ蒼い髪色になるかもしれない。それはティールにとって、実はちょっと楽しみだ。


公爵家で、ローズクオーツを思わせる髪はティールだけだったから。

母も、母の父の前公爵であるお祖父様もうす青の髪色だった。

父も、空を思わせる蒼い髪色である。母達より父の方が、光に当たると蒼がキラキラと輝いていたようにも思う。


ちなみに後妻、義妹、義弟は、オルド王国では珍しくもない、よくある茶色の髪だ。

三人は三人で同じ色なので、ちょっと羨ましいと思っていた。


魔道具をつける前、もしかしたらティールも蒼い髪だったのか?と思ったこともある。

それを聞ける人は今、身近にはいない。


いつか誰かに聞いてみるよりも先に、魔力制御を覚えたいと、実は密かな目標をティールは立てていた。


「お嬢様、お待たせしました。そろそろ、行きましょうか?」


ノックの音がする。返事をすれば、カチャリとヴィクトルが姿を見せた。

ティールは、その後ろをついていく。


ワクワクと弾む気持ちのまま、ティールはふと思い出す。

幼い頃に、お母様が語ってくれた冒険のお話。


『世界中を凍らせるくらい強い男の子がいました。

氷の世界で助けた女の子が、冷たい風にあたって風邪を引いてしまいます。

すると男の子は、氷の剣を作りました。

女の子がもう寒くないように。


そして男の子は氷の剣を手に冒険に出掛けました。

女の子の枕元へ、たくさんのあたたかいお話を届けるために』


いつもここから始まる、たくさんの冒険の話を聞いた。

自分もそんな冒険者になりたい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ