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お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ


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10/40

10話 あなたと共に




「……お嬢様は、いったい、何があったのですか?」


身体のダメージも深刻で、寝ていた時間が長い、負担にならないよう考えられた少量のスープは、あっという間に空になった。


スープを飲み終えた彼女の口元、ハンカチで拭いながら、ずっと気になっていたことを聞く。


「……分からないわ」


そう答えた彼女は眉間に皺を寄せ、記憶を探しているようだ。


「シャンパンを、飲んだのは覚えているの」


抱き上げた時に、アルコールの匂いを嗅いだことを思い出す。

あれはシャンパンだったのか、それにしては、香りが強く度数が高い気がした。


そもそもシャンパン程度でお嬢様が酔われるはずもない。デザートワインを好まれていたからだ。



「本当に、シャンパンでしたか?それよりも強いお酒、と言う可能性は?」


「夜会で、令嬢に強い酒を勧めるなんて無いわ。それに飲みきるなんてマナー違反よ。いつもグラス半分も飲んでないもの」


「あの時もそうよ」と、酔ったことによる、魔力の暴走説を却下された。


「でも、その後から……、なんだか変だったわ。……ああ、そう。婚約破棄されたわね」


さらりと爆弾発言をする。一瞬自分の願望か、聞き間違えかと耳を疑った。

相手は確か、第二王子だったか。


「義妹のフレイと婚約を結び直すと、ダンスも踊っていたわ。お義母様に言われて私は……。気づいたら、馬車に揺られていたの」


話して疲れたのだろう。

ティールはふうと、息を吐き出している。

その手は公爵のネックレスに触れ、遊んでいた。


「馬車で、涙が出て、驚いたわ。そこからは本当に、よく覚えてなくて。ーーって私、ここで起きてから、泣いてばかりね」


くすりと笑い恥じはらうその姿は、年相応の少女だ。

お嬢様を狙っていたごろつきには、どうやらまったく気づいていないらしい。

婚約破棄直後の襲撃未遂。首謀者が公爵ではないのなら、その相手は。

なら、……彼女には気づかないままで、いてほしい。

芽生えたばかりの心に、後ろ暗い思惑など不要だ。


「お嬢様はこれまで、魔力過多のために魔力と感情を封じられておりました。先日の魔力暴走の際に魔道具が壊れましたので……。これからは、ご自身の感情に、戸惑いになることもあるかと存じます」


ヴィクトルと出会う前、幼いティールは多すぎる魔力に並みの魔道具では対処できず、感情も封じるしかーー、無かったのかもしれない。


出会った時の彼女の無表情を思い出す。背丈も、かなり小さかったはずだ。あの時にはすでに、ピアスをはめていたのだろう。


「感情が揺れた時の魔力の暴発に関しては、先程のピアス、それから小指のリングが防いでくれます」


冷たくなった彼女を思い出す。もう二度と、あんな目にあってほしくない。

けれどそのために、この笑顔を無かったことには、もう、したくない。


「お嬢様にはこれから、魔力の暴走を起こさないよう、魔力制御を覚えていただきます」


笑う彼女のそばに、……願わくば、ずっと居たいと思う。


「ダザル帝国は温暖で魔物も多くいます。そのため冒険者などの活動が活発で、魔力制御の訓練にも適しているかと。一方で公爵領であれば前公爵夫妻がおりますので、何かと心強いかと思います。どちらにいたしましても、私がお嬢様の身の安全をお守りしますので、ご安心くださいませ」


「本邸には、まだ戻られない方が良いでしょう」と続けると、彼女は、そうねと返した。


「この国にいて良いのなら、ここで良いのではないしら?」


と答えてから、「あ、」と彼女はちょっと慌てる。


「違うのよ。自暴自棄とか……、そうではないわ!第二王子との婚約破棄、政治的意味合いでのものだったから、私はなんとも思ってないの。政治的にも恋愛的にも、義妹フレイの方が良いのなら、それがまるく収まるでしょうし」


手を左右にブンブンと振りながら必死に弁解をしている。その顔は少し赤く、きっと今、必死に慣れない感情と向き合いながら考えているのだろう。


「婚約破棄された公爵令嬢なんて……。公爵家には、まだ幼いけれど義弟もいるのよ。私が"事故でいなくなった"にしておいた方が、お互いに都合が良いと思うのよ」


事故?と言って良いのかしら?とティールは頬に手をあて本気で考えている。その一生懸命な仕草と陰った瞳に、ーー思わず手が伸びた。


「たとえ公爵家から離れようとも。どうなろうとも、お嬢様が望まれる限り。私は、……私は。ティール様のお側にずっと……、ずっといます」


「そう?……なら、とっても心強いわね!」


抱きしめられたことに、目をまんまるに身を固くしたティールだったが、へにゃっと笑った。


「あの……今の私、その、実はね。……ちょっと、冒険者になってみたいと思ってたの!」


その顔はとても無邪気で、泣き出しそうで……、綺麗で胸が締め付けられるほど愛おしかった。




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