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お嬢様、私に拾わせていただけませんか  作者: 松平 ちこ


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1話 暴走する魔力

ある夜会の帰り、何者かに誘拐されたティールは、馬車の中で突然あふれ出した“感情”とともに魔力暴走を起こす。

耳飾りに仕込まれていた術式ーー《感情封印》《魔力隠蔽》が壊れ、長年押し込められていた全てが爆発したのだ。


暴走の中心で泣き崩れる彼女に最初に駆けつけたのは、唯一の味方であり幼い頃から仕えてきた執事ヴィクトル。

彼はティールを抱きとめ、暴走を鎮めると、彼女を連れて国を出る決意をする。


もどかしくて、重い、お話です

パタタ、と何かが膝に落ちる音を聞き、なんだろう?と視線を落として、私は瞬きをした。


月明かりが射し込む馬車の中、ドレスには幾つもの丸い染みが出来ていた。


……これ、涙?


頬に触れた指先に温かい雫が溢れる。


ガタガタと、森を荒く進む馬車の中。

窓に映り込んだのは、ローズクオーツを思わせる薄いピンクの髪。

泣き腫らしてなお煌めくアメジストの瞳の少女。

泣いているのは、私。


ーーなぜ、泣いているのだろう…?


ぼんやりとした思考の中で、考えがまとまらない。

夜会に居たはずなのに、なぜ今馬車に揺られているのか…。

ただ、涙だけが静かに、絶え間なく零れ続けていた。


パキッと何かが壊れる音がする。

耳からスルリと落ちたそれは小振りの宝石がついた意匠の施された金のピアス。


ピアスを拾おうと手を伸ばし、瞬間、身体の奥を言い知れぬ熱が焼く。

視界が白く染まり、轟音が世界を押しつぶしていく。


「これは、ティールを守るための魔道具だよ」


ずっと昔に聞いた父の声が鮮明に耳に甦る。

私の中で何かが弾けた。




◇◆◇◆◇◆◇




「思ったより時間がかかりましたね」


出てきた扉を閉め、人混みに紛れながら男は指にリングを嵌める。


月に照らされた王城の方を見やってから、スンと息を吸う。

邸へ向けていた足を止める。


「お嬢様が、王城に居ない…?」


おかしい。この時間はまだ夜会のはず。

それなのに王城と離れた場所からお嬢様の匂いがする。

しかもお嬢様の匂いの他、近くに嗅ぎ慣れない臭いが複数。移動しているようだ。


「……郊外、ですか?」


足を動かしながら、さっきつけたばかりのリングを外し、チェーンに通すと首にかける。

漆黒から、本来の銀髪へと瞬く間に髪色が変わる。


身体に魔力が巡るのを確認しながら、身体強化をかけた。

首もとでネームタグとリングが擦れ、音を鳴らす。


王都から離れた、うっそうとした森の方へと迷わず駆けた。

近づくにつれ、鼻につく異臭に眉をひそめる。


ーーお嬢様に臭い移りなど…。


断じて許さない。金の瞳に殺気が宿る。




「ーー、中にいるのか?」

「手筈…に、報酬はー…」


月明かりも届かない暗がりの中、男たちの声が聞こえ始めた。


馬車を囲むように四人。

酒場で金貨にでもつられたか、ごろつきと呼んで遜色無い風体の男たち。

武器もなく、辺りを警戒する様子もない。


ーー間に合った。


その事に人知れず安堵する。だが、なぜだろう嫌な予感が消えない。


お嬢様に危害を加えようなどと、殺してしまいたいが、情報を吐かせなければいけない。

ズボンの裾から、ナイフを数本取り出した、その瞬間ーー。


ゾクッ。


大気が震え、強烈で濃い魔力が森を満たす。



「ーーっ!!」


馬車を中心に暴風が吹き荒れる。視線を走らせると、男たちは木に叩きつけられ、気絶していた。


続いて馬車が内側から爆発、破片が散り、濃密な魔力が光となり夜空を裂いた。


「お嬢様っ!!」


魔力暴走ーー。

だが、お嬢様は平凡な魔力量のはず。

この規模など本来あり得ない。


凝らした視線の先、光の中に涙をこぼす少女の姿。


「くっ!」


お嬢様の姿を捉えた瞬間、内包する魔力が暴発しかかるのを歯を食いしばって抑え込む。

ぶつけてしまえば、彼女がどうなるか分からない。

そうでなくとも、魔力暴走は命を削ると言われている。


光柱に近づくと衣服の先、皮膚も刻むが、さらに濃い魔力を纏わせることでやり過ごす。

お嬢様の涙に比べれば、大したことはない。


「泣かないで、もう…」


あなたに泣かれるのは、耐えられない。

彼女の手を取り、首にかけていたリングを引きちぎって指にはめる。リングが強く光り魔力が抑えられる。


光柱が消え、月明かりに照らされた静かな森に戻る。とはいえ地面はえぐれ木々は薙ぎ倒されているが。


少女をしっかりと抱え直し息をつく。

青白い肌には大小の傷。

長く綺麗だった髪は、無惨に散り、揺れている。

けれども僅かに胸が上下しており、かすかな呼吸が、確かに生を示していた。


ーー良かった。生きてる。




「……ヴィー?」


「はい、お嬢様。あなたのヴィーです」




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