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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
93/124

93.お茶会には、毒の香りがよく似合う?

2025.01.24 正妃様の名前が間違っていたので慌てて修正。

……なんで元公爵夫人の名前を書いたのだ、俺?




 「ああ、くそ。全然寝た気がしないや……」


 神様集会にご招待された次の日の朝は、本当に頭が重くダルい。

 意識を無理矢理覚醒させられた上で、そのまま天界へとご案内なのだから然もありなん、ってお話。


 それでもまぁ、”ヴィクトーリア”は将来美の女神と同等の容姿に、しかもナイスバディが確約された訳だから全然アリ。

 でもそれは、<祭りと舞踊の女神(フェブトゥーニア)>が要らんことさえしなければ。

 ……という、不安要素が何時までも残るのだけれど。



 将来に抱える不安はともかく、まずは直近の問題を解決しなきゃ。


 今日の予定は、昨日と同様。

 リート子爵家の大事な”商談”だ。


 我が領が誇る特産品”楽器”と”お酒”。


 お酒に関しては、辺境伯夫人(エレオノールさま)の口利きで、今までオリヴィエ商会が独占販売をしてきたのだけれど。

 ”大地の人(ドワーフ)”謹製、各種楽器に関しては、真っ白で何も決まっていない状況。


 何せ、未だ演奏者自体が全然育っていないのだから、楽器だけを売りに出しても……ってお話。


 「やっぱり、教本とかあった方が良いのかなぁ?」


 なんて。

 そんな今更なことを言ってみる。


 「ええ、あるべきでしょうね。俺も楽譜(スコア)を眺めるだけでは不安になる時がまだありますし」


 「【呪歌】ならば発動した、しなかったでまだ判断ができましょうが、純粋に楽器の演奏だけとなりますと、ちゃんと出来ているのかワタシも不安を覚えます」


 たぶんこの世界で”わたし”の次に長く楽器を触ってきた【クリスタル・キング】のふたりですらこんな状況なら、確かに何かあった方が良いのかも知れない。

 とはいえ、教本だけでは楽譜を眺めているのとそんな大差無いだろうしなぁ。

 流石にお手本の曲が流れる様な、それこそレコードみたいなのとか。


 ……いや、それもアリか?


 録音するその仕組み自体は、ただ物理法則に則るだけで良いのだから実はそんなに難しい話でもない。

 それこそ、小学生の夏休みの自由研究に使えるくらいにお手軽なネタだったりも。

 

 問題は、記録した音を再生する方。

 極力周囲の雑音を抑え、欲しい音だけを大きく響かせるための仕組み。


 音の増幅としては、原始的な仕組みで考えるとメガホンとかになるのかな?

 良いスピーカーになればなるほど、動物の内耳の形状により近付いていくのは本当に面白い話。

 でも、元の音が小さ過ぎるのでは、こんなのじゃほとんど効果は無い。

 

 そうなると、外部からパワーを足してやる方式……やはりアンプとかそっち系の話になってくると……うん、”俺”には無理だ。


 一応”大地の人”の職人に大まかな仕組みだけを伝えて、後は丸投げしちゃうか。

 それでも、出て来る音の判断は、結局”俺”がする羽目になるのだろうけれど。


 こんないい加減な与太話程度のモンですら、この世界に蓄音機が登場する時期を大幅に縮めてしまうことになるのだから、本当に変な話。

 また<本と知識の女神(インディグレイス)>大はしゃぎ案件を作っちまったかなぁ。


 「また<継承者(サクセサー)>どのは、自らの首を……」


 「……ねぇ?」


 ふたりとも、うっさい。



 ◇◆◇



 朝から続く”商談”も、昼食の時間のお陰で一旦の小休止。


 この国の地方に住むお貴族さま方は、お昼の時間こそ日に一番食べる。

 夜はもっぱらお酒とつまみって感じで、下戸の人はパンとチーズをモサモサと囓るだけなのだとか。

 だからこそウチの”お酒”に需要があり、他家から色々と”圧力”も喰らっている訳で。


 辺境伯家は王家に習っているのか、他国同様昼は質素に、夜は豪華だった。

 お昼を質素にする分お茶の時間をとても大事にし、特に軽食の種類の充実にはご執心。


 上白糖を使った生クリームたっぷりの生菓子をお茶の席で試しに出してみたら、辺境伯夫人ったら、もう。


 ……うん。

 当分は自重しよう。


 なんて。

 そう後悔するくらいにはすごいことに。


 そして、それが実は未だ続いていたり。


 「マハテルートさまのお茶会にご招待されたから、貴女も付いてきて頂戴ね、ヴィー?」


 まさか正妃様のお茶会にまで出席させられる、だとか。

 それ、何の罰ゲーム?


 いや、確かにあの時”お義母かあさま”にお出しした生菓子のレシピとその材料は、王城に到着した時一緒にお渡ししましたけれど。

 てゆか、そこに”わたし”が同席する必要、何処にも無いじゃないですかーっ! ヤダーっ!!


 「だって。愛娘の自慢、お友達にしたいじゃない♡」


 ────はい。

 そんな屈託の無い笑顔を見せられては、もう抵抗なんかできようはずもありません。


 ”わたし”の今の気分は、まさに売られていく仔牛。

 ドナドナ。


 「レシピはお渡ししましたけれど、ちゃんとできているのか少し心配なので、一度厨房を覗かせていただいても?」


 「心配、ですの?」


 「ええ。火加減とか、色々と繊細なお菓子ですので。念の為に」



 数名の宮中護衛士(インペリアルガーダー)を伴って、王家の厨房を覗かせていただけることに。


 何故か”わたし”の護衛であるクリキンのふたりの同席が赦されなかったのには首を傾げざるを得なかったけれど。

 ここで無駄に我を張ったところで何の意味も無いから、そうなのだと諦めグッと堪える。


 ────マイク、サックス。


 『ほいほーい』


 『どうかして?』


 念の為、”俺”の周囲を見張ってて欲しい。

 宮中護衛士とかほざく此奴ら、全然欠片も信用できんから。


 そもそも”マーマ”(ヴィルヘルミナ)のあの一件自体、此奴らが()()()()仕事をしていたら絶対に起こり得なかったのだ。

 そう考えたら、もうね。


 その間も”俺”の<アクティブ・ソナー>には、色々な反応が。

 

 廊下の天井には、きっと”影”だとか呼ばれているのだろう存在らしき反応に。

 明らかに武器を隠し持っています系の家政婦(メイド)やら。

 そして、目の前には……


 何で王城(こんなところ)をウロウロしてやがんだよ、タマーラ。


 「あらぁ? 可愛いお嬢ちゃんねぇ。ねぇ、飴玉(アメ)ちゃん要るぅ?」


 そうだった。

 こいつ、見た目の割にやたら可愛いモノに目が無い奴だったわ。


 「あ。ありがとう、ございます……」


 今の”俺”は、もう【風の翼】のヨハネスではない。

 目の前の【冒険者】とは何の因縁も無い、ただの子爵令嬢”ヴィクトーリア”なのだから。


 ならば、彼女と揉める理由なぞ端から無い、はずだ。

 彼女が機嫌良くいられる様、精々あざと可愛く振る舞ってやるとしようか。


 ”俺”の視線に合わせる様に彼女がしゃがむと同時に仄かに漂う、薬草の独特な臭い。


 ────どうやら、()()()()()()()相変わらず、か。


 【鑑定】。


 彼女から受け取った飴玉は、粗悪な砂糖と薬草でできてはいるけれど、それ自体は普通のアメだ。


 だけれど。


 ……結構いやらしい毒を使っていやがんな。

 下手すると自滅するっていうのに、よくやるよ。本当に。


 ほんの少し、彼女の指先に付着していたらしい粉末に”俺”の【ギフト】が反応。

 その詳細が出て来る。


 それを何となく斜め読みしていると、ちょっと目眩が。

 これ、昔”俺”が教えた劇毒のレシピまんまじゃねーか!

 何でこういうのだけしっかり覚えていやがんだよ、テメーは。


 「うふっ、素直で大変よろしい。またねっ、可愛い可愛いお嬢ちゃん♡」


 「おねーちゃん、ありがとー」


 ……王城で毒か。

 しかもこの先にあるのは、お城の厨房だ。


 そして宮中護衛士どもは、タマーラに対し何の反応も示さなかった、と。


 何で王城にただの【冒険者】に過ぎないはずのタマーラが、ひとりウロウロしていても誰も咎めないのか?

 着ていた服それ自体は、それなりに上等な物みたいだったし、ひょっとしたら何処かの家に士官した可能性も少しはあるけれど。


 うん。

 やっぱり色々と察してしまうよね、これ。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 ヒャッハークズのオンパレードじゃあ!  しかしこの世界こんなに音楽や楽器が発達していないのも?なところ。  宗教にも娯楽にも政治にも使えるものなのに。  人間の歴史そのものと言ってもいいレベル。 …
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