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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
92/124

92.”美”の巨匠。

2025.01.23 微妙に解り難くなっていた箇所を修正。




 ”楽団”と”社交舞踊”のお披露目は、大成功だった。


 ……と、思う。


 <祭りと舞踊の女神(フェブトゥーニア)>本人に聞いてみた結果、確かに”権能(ちから)”が上がったのだと言ってたし。

 その言葉を信じれば、になるけれど。


 でも、その後の対応が本当に疲れましたわ。


 楽器を譲ってくれというお話でしたら、幾らでも応じて差し上げられるのですれど。

 ただし、今現在”講師”の数が正直全然足りておりませんので、少しだけお時間戴けますかしら?

 という、そんなお手続き関係の方で、色々と。


 ”楽団”そのものを寄越せ……等と平気で言ってくる様な勘違いした馬鹿野郎まで出るとは、流石に思いもしませんでしたが。

 まぁ、そんな大馬鹿野郎なお方の対応は、しっかり録画録音して差し上げた例のアレを含め、王家へと全部丸投げした訳ですが。


 『所詮辺境の成り上がりインスタント子爵家め』


 ……などと、こちらに対し舐め腐った態度をおとりになった、貴方方の自業自得でございますわ。


 王家は、無駄な貴族家(扶養家族)を減らし財産没収の口実を得られてウハウハ。

 我がリート家は、要らぬちょっかいをかけてくる馬鹿相手には徹底的に()()危険な家なのだと周囲に威嚇を込めた宣伝ができてヒャッハー。


 お互いがwinーwinの良い関係、という奴でございます。


 まぁ、要らぬ怨みまで一緒くたに大量購入した気がしなくもないけれど。


 でも。

 それだって、すでにフィリップ卿のファンの方々からたっぷりと頂戴しておりますので。

 本当に、今更過ぎるお話。


 何度、オブラートに包まれた嫌味と、歯に衣着せぬ意地悪だけでなく、お酒の入ったグラスが”ヴィクトーリア”目掛け飛んできたことやら。


 嫌味に対しては、更に苛烈な嫌味をぶつけ。

 意地悪に対しては、フィリップさまへ泣きつき逆襲。


 そして、物理(グラス)攻撃に対しては。


 子爵家以下のご令嬢の場合、飛んでいらしたグラスを、零れ出た中身を空中で綺麗に攫った上でそのまま投げ返して差し上げて。

 伯爵家以上のご令嬢の場合、グラスを避けた上で、仕掛けてきた映像をご本人にお見せしながらフィリップさまと一緒になって問い詰める。


 幼稚でお転婆なところが未だ残っていらっしゃるご令嬢はともかく。

 さすがにご夫人ともなれば、きっと弁えておられるでしょうからそんなことには。


 ……なんてことも一切無く。


 勿論、同様の手段を取らさせて戴きましたとも。ええ。

 ただ、こちらの場合は、旦那様もご同席しての修羅場と化して。

 正に地獄の様相でございましたわ。とだけ、ここに明記しておきます。


 そんな訳で。

 この日のデルラント王国の社交界は、粛正の暴風が吹き荒れましたとさ。南無。



 「ふぅ。これでこの国も少しは綺麗になりましたわ。有り難うね、ヴィー?」


 「はっ、はいぃ……お義母(かあ)、さま?」


 婚約発表があってからというもの。

 辺境伯夫人(エレオノールさま)の態度が、本当に気安く。

 完全に自分の娘に対するそれに。


 まぁ、変に姑ぶられず、それこそ”嫁姑大戦争”。

 みたいなドロドロな展開が今後も無さそうなので大助かりだと云えば、きっとそうなのだろうけれど。


 でも、これはちょっと。


 「母上。そのひとは、私の、妻。そのはず、です、よ……ね?」


 「ええ、勿論。息子である貴方の”お嫁さん”。ということは、わたくしの”娘”。何処にもおかしいところは無くてよ?」


 旦那様(フィリップ卿)(予定)置いてきぼりの、この猫可愛がりは、流石にどうなのかと……直接は云えないけれど。


 多少の災禍(トラブル)はありましたが。

 一応は、当初の目論み通りに話は進み。


 『”大地の人(ドワーフ)”を筆頭に、此の国に住まう全ての亜人種の地位と安全。此を余、ディーデリックⅢの名において安堵する』


 これは嬉しい想定外。 

 国王陛下にここまで言わしめたのだから、最早大勝利だと云って良いだろう。

 

 「多分、この宣言でまた増えると思うが、よろしく頼むぞ嬢ちゃん」


 「……要らない」


 我がリート子爵領において。

 ”大地の人”の占める人口割合は、すでに3割を軽く突破しているっつーのに。


 国王陛下のこの宣言を皮切りに。

 未だ移住の決断を躊躇していた”大地の人”が、大挙してリート子爵領へ押しかけてくる可能性があるのだとアウグストが。


 まぁ、このままウチが”大地の人”天国になってしまっても”わたし”は一向に構わないのだけれど。


 「……やっぱり、原材料が全然足りないだろうなぁ」


 お酒にしても、各種工芸品にしても。

 今後は原材料の大量輸入を、検討していかねばならないだろう。


 そうでなくとも、職人枠のキャパ自体がオーバーフロー気味だってのに。


 てゆか、<炎と鉄の神(ファライ=アズン)>よ。

 まさかここまでがお前の計画の内だった、とか云わないよね?


 ────じぃじ。

 たぶん、”わたし”たちは。

 今後もずっと忙しいままになりそうだよ?


 死因が過労死って、”聖女”だった時以来かなぁ……




 ◇◆◇




 『さて。では、まず”美”とはなんぞや? から、皆で大いに語っていくことにしようか』


 ────あのさ?


 『うん、何だね?』


 まさか眠りに就いて秒で喚び出されるたぁ、流石に”俺も”思っていなかったけれど。

 何でそんなにノリノリなのさ、<本と知識の女神(インディグレイス)>?


 『それは勿論。美の”定義”ともなれば、それは即ちわたしが司るべき”権能”だろうよ?』


 まぁ、”概念の定義”という狭義の話なら、確かにそうなのかも知れないけれど。

 ”美”に限って云えば、お前さんはジャンル違いだろうが。


 『失敬な。君の眼を通した”わたし”は、充分に美しいだろう?』


 うん。そこは全然否定しない。

 銀縁眼鏡がとても似合う知的美女だよね────黙ってさえいれば。


 『何故だろう。最大限の侮辱の言葉を、今まさに君から戴いた気がするのだが?』


 気にすんな。君が美人だと云うのは、認めているんだから。

 だからさ、<魔法と自然法則の女神(マギカ=ゲゼッツィー)>?

 ”俺”の真後ろに立って手刀を構えるの、できればやめてくれないかな。


 『いや、<本と知識の女神(我が本体)>を思いっきり腐したみたいだから、ワタシも一応、ね? 備えておこうかと』


 ……それより、”俺”の知らない方々も、結構おられるみたいですけれど?


 『無視か……それは当たり前に決まっているだろう。此処にいる皆、全て女神なのだから。”美”について無関心でいられるものか』


 『<夜と月の女神(モナ=ハルーナ)>に<獣の女神(ベスティエッラ)>辺りは、君も初対面になるかのな?』


 そうですね。

 初めまして、になりますね。


 ────失礼ですが、今後は貴女方の神像も造らせて戴いても?


 『ええ、それは勿論。貴女のお陰で、私達はまだ”世界”に存在していられる。大変喜ばしいことです』


 『そうだね。それに、この”世界”は、獣人たちには厳し過ぎる。オレが”権能(ちから)”をつけることができれば、もしかしたら良い方向に持っていけるかも知れない。だから、君の申し出はとても有り難いよ』


 そう言って戴けると。

 まぁ、こちらも下心があっての行いなので、存分に利用して下さいな。


 『名を失い、今は姿も朧気な影を残すのみとなってしまった<愛と美の女神>よ。きっとこの場が君の復活への転機となろう。ともに語り合おうではないか』


 へぇ。<愛と美の女神>って、元々は<大地母神(エーナ=ムッダ)>の別側面(アナザー)だったのか。だから今も消えずに残っていられた、と。


 『逆を云えば、そのせいで現状彼女自身も大幅に”権能”を削がれているのだがね。今回の”美の再定義”で、双方に良い影響が出てくれるのではないかと、ワタシは信じているよ』


 再定義、ねぇ。


 『そもそも”美しい”と感じるモノは、個人個人で違うものであり、決して普遍的なものとなり得はしないのだから。確かに難しいと云えば、難しい話なになるのだがね』


 『それでも、最大公約数的な見解はきっと見出せる筈、なのだよ。まずはそこを詰めていきたい』


 それこそ、乱暴な話にはなりますが。


 『何でしょう、何でしょうっ?』


 『ほれ、言ってみな』


 『はよぅ』


 ────どんだけ。

 ああ、いや。皆さんの良いとこ取り、みたいな。これこれこんな感じで……


 『おや?』


 『まぁ』


 『へぇ』


 『──なんだか』


 『ですねぇ?』


 『うむ……』


 ……何?

 皆してその微妙な反応。

 もしかして、お気に召しませんでした?


 『いやぁ、ねぇ?』


 『そうですねぇ』


 じゃあ、没で。


 『いやいやいや。待て待て。誰もダメだとは言っていないだろう。むしろとても良いくらいだ。だけれど、これは────』


 『この際はっきり言ってやるべきだ。それ、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのものではないかね?』


 ────え?

 いやいや、まさか。そんな馬鹿な話が。


 ……あれ?


 『ですねぇ。<秩序と契約の女神(フェアトヌング)>お姉様のご指摘の通りかと』


 待って。

 待って、待って、待って。


 ”俺”が、貴女たち女神さまの良いなって思った所を、一纏めにして絵に起こしただけ。なんですけれど、これ?


 『ええ、とても。わたくしの別側面に相応しい絵姿だと思います。是非これで』


 うえぇ。マジか-?!


 『……』


 え?

 ”胸とお尻は、できればもう気持ち増量してくれると嬉しい?”


 良いのかなぁ。


 『本人たっての希望なのだ。叶えてやってくれたまえ。しかし、そうか。君の整った容姿とは、元々わたしたち女神からの良いトコ取りの結果だったという訳、なのか』


 卵が先かにわとりが先か、の話になりそうですけれど。

 そもそもの極論になりますけれど、今”俺”の眼に映って見えている貴女方の姿自体、半分以上は”俺”の願望で構成されている訳ですし。


 『ふむ。そうか。ワタシたちは君の好みのタイプのそれぞれと云う訳だな。そうかー、それじゃあ仕方が無いなぁ』


 うっへ。

 なんだか女神さま方を見るのが、スッゲ気恥ずかしくなってきちゃったぞ。


 『気にするな。我々のこの姿自体が君の好みのタイプ、その集大成なのだと理解できたのは、かなりの収穫だったよ』


 『このネタだけで当分は楽しめそうですネー』


 うっせ、<祭りと舞踊の女神>っ!

 やっぱお前、”絶壁の刑”な?


 『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ』



 君、ええ加減学習しようやぁ。な?


 でも、それってさ。

 ”俺”ってば、いわゆるナルシスト……だったってこと。なのでは?

 なんて。

 とても嫌な結論が。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 えっなにを今更。  “ヴィクトーリア”に転生しておきながら主人公の意識と“わたし”としての意識が混濁せず分かたれている時点で相当な強い自我だと思う。 どっちも。
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