91.視線だけで人が殺せたら。
近い将来、つるぺた貧乳になってしまうことが確定してしまい、正直ショックが抜けきれません。
仕返しとばかりに、そんな元凶を招きやがった<祭りと舞踊の女神>には”わたし”以上の絶壁になる呪いをかけて差し上げる方針でいくことに決めた。
……までは、良いのだけれど。
『ごめんなさい、赦してっ。ごめんなさい、助けてっ。ごめんなさい、愛してるっ』
ずっと女神さまからの念話が止まらない不具合が。
てゆか、夢枕に立つ以外の接触方法って時点で、すでにズルだったのではありませんでしたっけ。
ねぇ、<本と知識の女神>?
────当然、返事はない。
うん。
神様自身が決めたルールに則っているのであれば、きっとこれが正しい反応……の、はずだよね。
だったら……
『ごめんなさい、大好きっ。ごめんなさい、ごめんなさい。だからっ……』
────君、ええ加減黙ろうか?
『ふえ? ゆ、赦していただけるのですかぁ……?』
絶対無理。
てゆか、そこまで必死になるくらい嫌なモンを”産みの親”に無断で仕掛けてこれる君の神経が、”俺”は本当に信じられないのだけれど?
『ううぅ。でも、でもっ。本当に余計な脂肪って、踊りには邪魔。なんですよぉ?』
”女性的な魅惑のライン”というものも、踊りには重要な要素のひとつになり得るの。
人眼を惹き付ける手法と云うのは、何も技巧に頼るだけが全てではないのだよ?
そこら辺の機微が理解できていない様じゃ、君は芸術の神としてもまだまだ、だな。
てゆかさ、邪魔だときっぱり断じれるのなら、良かったじゃないか。
もうそんな煩わしいモノに悩む必要がなくなるんだからさぁ。
『ううぅ、いぢわる云わないでくださいよぉ……その魅惑のライン、わたくしも欲しいですぅ』
本当にそれが欲しいなら、”わたし”に云うこと、当然あるよね?
『無断で貴女様の身体を弄ってしまい、誠に申し訳ありませんでしたぁっ!』
……よござんす。
あなたの外観は、わたしの成長具合に応じて、順次変えていくことにするつもりです。
あなたにとっての”理想の姿”がおありならば、なるだけ”ヴィクトーリア”をそこに近い姿へと持って行くことね。
まぁ。”成長する神様”がいても、この際良いでしょう。
『っ! は、はいっ! わたくし、頑張りますっ!!』
────ただしっ! ”極端”は絶対に赦しませんからねっ?!
こういう時、”美の女神”みたいな存在がいたら、きっと解り易い参考資料になるんだろうけどなぁ……
『え? いらっしゃいますよ?』
マジかよっ!? 言ってみるモンだなぁ。
『ただ、そのお方は、すでに名を失ってしまい……』
ああ、またそのパターン。
でも、まぁそうだよね。
”美のイメージ”なんて、時代時代でコロコロと移り変わるっていうのに、明確な姿を描いたものが世に残っていなければ、そうもなっちゃうかぁ……
……解った。
それも含めて、こっちで何とかしてみる。
『とても助かりますぅ。お姉様方には、わたくしの方からお伝えしておきますね-?』
しかし、誕生したばかりだとはいえ<祭りと舞踊の女神>は、色々と問題ありやがるなぁ。
今夜はちゃんとした睡眠が確保できるか、心配になってきたわ……
「我が美姫。本当に大丈夫ですか?」
「えっ、あ……ああ、はい。わたくしは大丈夫ですわ、フィリップさま」
あー、チキショー。
あんニャロめ、こんな大事な時に念話なんかしてきやがって。
フィリップ卿の心配げな表情が、胸を締め付ける。
『今まで女神さまと交信してました』
なんて。
正直に云えるはずもなく。
「それに、こんなところで休憩する訳には参りません。お祖父さまのお手伝いをしないと……」
名義上、じぃじが全て発表したことになってはいるけれど。
”楽団”と”社交舞踊”の実質的責任者は”俺”なのだ。
一応は、【クリスタル・キング】のふたりが窓口になる予定ではいるけれど。
多分、ふたりだけでは場が回らないと思うの。
だって。
”俺”たちを囲む様にいるお貴族さまたちってば。
今にも飛びかからんばかりに皆、ぎらぎらした眼をしてるんだもの。
「きっと、これから忙しくなると思います。フィリップさま、わたくしを支えていてくださいね?」
「勿論。僕は生涯、君を護り、支えていくことを此処に誓うよ」
……誰もそこまで言っていないというのに。
もう、本当に。
仕方のない男性だなぁ。
◇◆◇
国王陛下のお口から直接、レーンクヴィスト辺境伯子フィリップ卿と、リート子爵令嬢ヴィクトーリアの婚約の発表があって。
場はまるでこの世の終わりかの如く、多くの婦女子の方々の悲鳴が轟いた。
「こりゃあ、随分と周りから怨まれちまっただろうねぇ、お嬢?」
「……云わないで、アーダ……」
だからこそ屈強な”大地の人”たちを”わたし”の周囲に置いてもらったのだけれど。
物理だけで考えたら、彼らを抜くのは例え正騎士であっも至難の業。
「貴女だけは、何があっても僕が護ります。だから安心してください」
「できれば、何も無い様にお願いいたしますわ……」
まだ十代にもなっていないというのに、未亡人になるのだけは本当に勘弁だぞ?
騎士道精神も大変結構だけれど、妻(予定)としては、例え泥水を啜ってでも旦那には生き汚くしぶとくいて欲しいのだよ。
その辺を、彼とは一度しっかりと話し合いたいものだ。
実際この世に、視線だけで人が殺せる能力があると云うのなら。
きっと”わたし”は、今まさに毎秒ダース単位で”残機”が減っていってる、はず。
無限増殖ポイント、何処かにありませんかねぇ?
婚約発表自体、辺境伯夫人待望の瞬間だったのだから、そこに”わたし”も異論はない。
それに、リート子爵家がレーンクヴィスト辺境伯家の傘に入り、名実共に縁続きになったのだと明確に周囲へアピールしたことによって、今後”マーマ”への要らぬちょっかいが減るはず。
なんせ、次代のリート子爵家には継承者の予約がすでに入った訳、だからね。
そこに強引に割り込もうとするならば、正面切ってレーンクヴィスト家と敵対するということに。
さて、そんな大胆なことをしでかせる家は、この国にどれだけいることやら。
……というお話。
その一点だけでも、此処に来た甲斐があったというもので。
ただ……
「悪意どころか、殺意の視線があまりにも凄いのですけれど……」
社交界では、どれだけおモテになっていらしたのかしら、フィリップさま?
貴方の返答次第では、早速今夜から”調教”が始まりましてよ?
「い、いや。僕も、何でこんなに……」
ああ。
”推し”のアイドルの結婚話が出た途端にって云う例のアレなのかなぁ、これ。
そういえば、小学生の頃だったか”福○ロス”とかってテレビでわーわー云ってたのを思い出したわ。
芸能界なんかにこれっぽっちも興味無かったし、当時お母さんが何事か喚いていたのだけしか印象が無かったけれど。
いわゆる、それに近い反応、なのかねぇ……?
「ですが、用心はしておいた方がよろしいかと。宮中護衛士はあの為体でしたし。レーンクヴィストからも人を出します」
「はい。よろしくお願いいたします」
殿中で、またカスペル卿みたいなのに絡まれるのだけは、心底勘弁だ。
というか、あいつはウチの”利権”ではなく、直接”マーマ”の身を欲していやがったっぽいし、逆にこれ幸いとばかりにやって来そうで何か怖いな。
────ドレミ、ファ、ソラ、シド。
念の為、になるけれど、”マーマ”の警護をお願い。
『『『りょーかーい』』』
『テメーの身はどうすんだ? かなりヤバげな殺意の視線もあっけど』
こればかりは、実際に遭遇しないとねぇ。
多分、自分の身だけなら、自分で何とかできると思うから大丈夫だよ、シド。
『だからそれはフラグだと』
シド、うっさい。
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