8.やっぱり自重できなかった自分が悲しい。
前回予約投稿ミスってました……orz
だから7話本文についでに220文字を追加。逆に良かったかも?
「ねぇ、ヴィーちゃん?」
「うん? どったの、ロッティ?」
開拓村の中央に在る溜め池の周りには、花輪にするにはちょっとだけボリュームというか、小さすぎるというか……そんな野草が沢山生えている。
けれど、村の女の子の定番の遊び場だったりする。
考えてみたらさ。
どれだけ地球の……ってゆうか、日本の子供が恵まれていたのかってのが良く分かるよ、うん。
だって、ゲームとか、おもちゃとか。
それこそ端布で繕ったお人形さんですら、ここの子達は持っていないんだよ。
でも、ホント。子供って逞しいよね。
何も無いなら無いなりに、何かしら見つけてはそれで遊んじゃうんだからさぁ。
「……なんで、ヴィーちゃんはおはなさんじゃなくて、そんな”はっぱさん”ばっかりいっぱいあつめてるの?」
「え? だって、これ美味しい奴だもん」
でも、わたしはどうしても、遊びより食い気の方に行ってしまう悲しき”現実主義系腹ペコ欠食児童”なのだ。
んで、今現在わたしが採取してるロッティ曰く”はっぱさん”は、地球で言うイワミツバに近い種。
これに煎ったドングリ(クルミがあれば、そっちのが遙かに良いけれど)、ニンニクと一緒に磨り潰してオリーブオイルと削ったチーズ(塩気が強いと尚良し)で練って出来たペーストを焼きたてのパンに塗ると……うンまいんだぁ……
問題は、オリーブオイルなんてそこそこお高い”贅沢品”が、現在我が家にあるかってところだけれど。無いなら無いで、まぁそれはそれ。
チョイと油分のコクが足りなくはなっちゃうけれど無くてもそれなりに美味しいし、何なら菜種やひまわり油で代用も可能。
ボソボソしてちょっと臭い雑穀パンなんか、コレの有る無しで味わいが大きく変わってしまうのだ。
「ヴィーちゃん、よだれ」
「……はっ?! ぜっ、絶対美味しいから、出来たらロッティのお家にも持って行くね?」
いかんいかん。今のわたしはエニィタイム腹ペコちゃん状態だから、どうしても意識が食に持って行かれてしまう様だ。
こういう時、ちょくちょく今までの”人生経験”が裏目に出る。
この開拓村の中で生きてきた五年間の記憶だけならば、あの雑穀パンの味しか知らないでいられたってのに。
……まぁ、それはそれでやっぱりアレって全然美味しくないから、好きになれる訳なんかなかったのだけれど。
”俺”が覚醒める前の記憶でも、お腹を満たすためだけに嫌々食べていた様なものだし。みんな貧乏が悪いんや。
「うん。ヴィーちゃんがおいしいっていうんだから、ぜったいおいしーよねっ!」
「もちろん。美味しすぎて、ロッティのホッペ落ちちゃうから」
わたしの保証の言葉に素直に喜んでくれるロッティの可愛さには、本当にほっこりする。
ああ、こんな娘欲しい……って、この子に対してどこか”親目線”になってしまっている自分に愕然とする。
”中の人補正”って奴なのかも知れないけれど。でも、それはもうどうしようもないよね。
「ロッティが持ってるお花さんも、実は食べられるんだよ-」
ただし、アク抜きが必要なんだけれどね……とは言わない。
あくまでも注釈程度の”無駄知識”って奴だから。
「えー? こんなにかわいいのに……おいしいの?」
ロッティは一瞬だけ嫌そうな顔をしてみせたが、やはりわたしと同じ貧しき開拓村で生きる腹ペコさんだ。お腹の虫には勝てないらしい。
「あはははは……」
ロッティの手にあるアレは、特に油と合わさると美味しい野草のひとつ。
ただし、今の”おこちゃま舌”のわたしたちでは、苦くて飲み込めないのはほぼ確実だったりも。
いわゆる、『知らぬが仏』って奴だ。黙っとこ。
「ほんと。ヴィーちゃんは、”ものしりやさん”だよねー」
「……えっ? そ、そうかな……」
やっべ。
いつもこういった細々としたやらかしから色々と破綻していくってのに。どうやらまたわたしは、”やっちまった”らしい。
「うん。わたしのほうがちょっとだけ”おねえさん”なのに、ヴィーちゃんのほうがいっぱいしってるー」
「あー。ウチのじぃじが色々教えてくれるからねー。ロッティも知ってるでしょ? ウチのじぃじ、前は街の偉い兵隊さんだったって」
……と、いう”設定”にしておこう。
実際、じぃじは昔領都の衛兵として働いていたそこそこ偉い兵隊さんだったそうだし。
確か、部隊長までいったんだっけ? いつか剣を教わろうかな。
地球の生では剣道(三段)、柔道(二段)をやっていたし、その時の”技術”は身体……っていうか、魂に焼き付いているのか、当然”わたし”となった今でも使えるし、そこそこ動けもする。
現役高校生の当時で三段というのは、ほぼ最短。それなりに自慢できる腕前、のはず……なのだけれど、元来剣道の動きというものは刀を持つ前提。みたいなところがあって、実際に活かせたのは、ほぼ足捌きのみだったり(異論はいくらでも認める)。
下手をしなくても柔道の技術の方が、遙かに実戦では役に立ったほどだ。
今まで、正式に”この世界の剣術”を習ったことはなかったし、丁度良い機会なのかも知れない。
(じぃじが”女の子相手”に、素直に剣術を教えてくれるかどうかは、分からないけれど……ね)
「こんなところにいたのか、チビすけども」
──ちっ。
呼んでねぇってのに、クソ野郎どもが来やがった。
「ロッティ、いこ」
「うん」
こんな奴ら如きに”わたし”の貴重な人生を1秒だって無駄に費やすだなんて勿体ねぇ。それほどに、”わたし”はコイツらが嫌いだ。
嫌悪していると言っても良い。
「まてよ、ヴィー」
「そうだぞ、せっかくフィンがこえをかけたのにむしすんじゃねーよ」
「ちょっとかおがいいからって、チョーシこいてんじゃねーぞ」
……はぁ、うっざ。
ガキが一丁前に色気づいてんじゃねーよ、クソが。無視だ、無視無視。
「なんでおまえは、オレとはあそばない? ロッティなんかとよりオレたちとあそんだほうが、よっぽど”たのしい”だろうが」
また”村長の孫”フィンが訳の分からないことを言って、わたしにウザ絡みしてくるし……
「そうだぞ。フィンといっしょのほうがたのしいんだぞ!」
「おんななんかとあそぶより、オレたちおとことあそんだほうがたのしいにきまってるんだぞ!」
その子分たちの”洟垂れ”アレクと”抜けっ歯”ヘイスが、さらに頭の悪いガキ理論を展開。
ざけンなクソガキ。楽しいのはテメーらだけで、わたしはこれっぽっちも楽しくないよ。
てか、ヘイスよ。わたしもその”おんな”な訳だがそれは?
大人である”俺”の意識が、完全に”わたし”の記憶に引っ張られてしまうほどにまで嫌われているってのに、このバカどもはそれに気付いていないところが本当に憐れだ。
”俺”の”今までの経験上”の話になってしまうが、このボスザルは、ヴィクトーリアのことが気になって気になって仕方が無いのだろう。
そらそうだ。元々黙って立っていれば、どこぞのお姫様かってほどの美人さんに加え、たぶん”俺”が覚醒める前からも無意識の内に軽い【浄化】をかけ続けていたのだろう、髪の毛と肌の艶と美しさは、大袈裟でなく”国一番”と言っても過言では無いレベルにまで磨きがかかっているのだ。
そんじょそこいらのべっぴんさんなんか、裸足で逃げ出すレベルの絶世の美幼女。
それが”わたし”、ヴィクトーリアなのだから。
「だまってんじゃねぇ! オレは村長のまごでえらいんだぞっ! オレをおこらせて、この村にいられなくなってもいいのかよっ!」
サルの集団の脇から抜け出そうとしてみたが、お山の大将は、それが気に入らなかったらしい。
乱暴にわたしの腕を掴んで強引に引っ張ってきやがった。
この時期の男女の差はほぼ無い。
それどころかほんの僅かに女の子の方が体力があったりもする。
けれど年齢……3歳という明確な”差”は、かなり絶望的なものがある。
「……ごめん、ロッティ。ちょっと離れてて」
いきなり横に引っ張られたせいで、せっかく沢山集めた”はっぱさん”が地面に落ち、それをサルどもが無情にも踏み躙る。
どうやらこのサルどもは、”わたし”と喧嘩がしたかったらしい。うん、絶対そうに違い無い。
「……うっ、うん……」
日頃のウザ絡みと乱暴、狼藉の恨み。
食べ物の恨み。
そして、なにより……
権力を笠に着ての、家族を巻き込んでの”脅し”。
前の二つだけならば、全力の拳の一発で赦してやっても良かったのだが。
力の限り全力で。めいっぱいに音高く。
その程度で。
だが、最後の一つだけは無理だわ。
一発でアウトだよ。
フィンよ。テメーは絶対に超えちゃなんねぇ境界を、一足飛びで超えちまったぞ!
この時期の幼児どもにとっての3年という明確な体力差は、確かに絶望的なモノだろう。
だがそれは、普通、その年齢で技術を学ぶはずがない前提の話にすぎない。
痩せっぽちの5歳のガキんちょとはいえ、それでも体重をしっかりと乗せた打撃を叩き込めるのであれば、それは立派な”凶器”だ。
ましてやそれを食らう相手も、同じ様にヒョロいガキんちょなのだから、下手をしなくても色々とヤバいダメージになるだろう。
でも、絶対に”手加減”なんかしてやんね。
「ぐふっっ……ごがっ」
ボスザルの鳩尾に全体重を乗せた拳を叩き込む。
姿勢が崩れ下がってきた顎目掛け、そのまま膝で思いっきり蹴り上げる。
「ごぶぅっ」
「はう゛ぉ」
返す身体で、抜けっ歯の脳を掌底で揺らし、洟垂れの柔らかい腹につま先を突き通す。
「……ふう。さ、ロッティ帰ろっ」
サルどもを”処理”し終えて、散らばってしまった”はっぱさん”の無事な奴だけを拾い上げながら、わたしはロッティに声をかける。
ついつい、怒りに任せてやっちまった。
「う、うん……」
ロッティの反応を見て、ちょっとだけ冷静に……っていうか、完全に血の気が失せてしまった。
──流石に、やり過ぎたか。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。
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