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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第三章 お貴族さまになりました
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79.音が満ちる世界へ。




 「本当に、これでよろしかったのでしょうか?」


 「うん、どうして?」


 途中様々なトラブルがあって、結局完成までに長い月日が掛かってしまったピアノも、ようやくの第一ロット”出荷”を視察した時、クリスことクリスティン=リーが”俺”にひとつの疑問を投げかけてきた。


 「いえ。ご主人さま(マスター)のお志し、確かに尊きものかと存じます。ですが、ここまでなさる必要があるのかと」


 「どうだろうねぇ? 今回、半分”賭け”みたいなところがあるのは認めるけれど」


 今回のピアノの”出荷”に関しては。

 実は楽器本体だけでなく、演奏者も込みでのお話だったり。


 何せ”この世界”には、ピアノの原形となる弦楽器ですら”俺”が制作する以前は、ほぼ存在していなかったのだ。

 これがどの様なモノで、どの様な音色が出せるのか。

 そして、それを鳴らすにはどう扱えば良いものなのか?


 何の用途に使われるのかすら解らない、そんな巨大なモノをいきなり一方的に贈られたとして、一体誰が喜ぶというのか?


 つまりは、そういうこと。


 送り先は、勿論このデルラント王国を統べるダリュー王家。

 レーンクヴィスト辺境伯の名によって行われる手筈となっている。


 ”王家”への献上品というものには。

 贈る側の”格”も、当然求められてくる訳で。


 こんなギリギリ”貴族”未満の。

 しかも末席も末席の、木っ端な準男爵如きには。

 そんな栄誉なぞ、赦される訳も無く。


 逆を云えば、”リート”の名を前面に出さなくて済む分だけ、多少は面倒事から遠ざかれるっていう良い側面も、実際にあるのだけれど。

 それに、演奏者の年の俸禄を出すのは、当然辺境伯家だ。


 こちらとしては、


 『ラッキー、その分の経費浮いちゃったー☆』


 なんて。

 

 素直に喜んでいれば良い……演奏者には申し訳無い話、なのだけれど。


 何せ、辺境伯家からのお給料は()()()()()()のだと国内でも有名だったりするから。


 「そこは、こちらからも多少の色を付けておやりになった方が?」


 「……考えとく」


 冷ややかにツッコミをくれるキングこと(ワン) 泰雄(タイシオン)の声があまりにも平坦過ぎた。

 ごめん、少しだけ反省するわ。


 考えてみたら、”この世界初”の楽器の奏者ともなれば、確かに特殊技能とも言えなくもない。


 ……うん。

 そりゃ、高給取りでなくては可哀想だ。

 この職を失ってしまった場合、これっぽっちも()()()が効かないのだから。


 ましてや、王都は紛う事なき都会であり、この国の”首都”なのだ。

 その物価は、領都ルーヌの比では無い、はず。


 やっぱり、後で辺境伯夫人(エレオノールさま)にお手紙を書こう……


 「話を戻すけど”賭け”たぁ、折角苦労して作ったってのに、何だか嫌な表現するじゃあないか、お嬢?」


 「うん。何せ、(この世界は)”音を楽しむ”なんて習慣がそもそも無いからさ。”これこれこんな音が鳴りますよ”って実演しながら言っても、『ふーん。』だけで終わったりする心配が……」


 何度でも言うけれど、所詮”文化”なんて代物は。

 いくら偉そうに御託を並べようが、結局はそれを楽しむ心の、そして生活の()()()があって、そこで初めて成立するものだ。


 現状、デルラント王国を取り巻く政情は、お世辞にも健全とは言い難い、と思う。

 3つ、4つの派閥に分裂し、互いに足を引っ張り合うだけの貴族ども。

 表から、裏からと、要らぬちょっかいをかけ続けるはた迷惑な隣国の存在に。

 いがみ合い続ける派閥との力関係のせいか、3名存在するはずの王子の中から、次の王太子を未だ決めかねている優柔不断の王にと……


 そんな風に、指折り数えながら並べ立ててみたら。


 ……うん。

 なんだか急に、すごく逃げたくなって。


 「そン時ゃ、さっさと教会の方にも贈ってやりゃあええじゃろて。あくまで王家には、()()()()()()()()()という実績さえくれてやれば、臣下として一応の面目は立つ訳だしの?」


 「まぁ、アウグストの言う通りなんだけど……」


 ピアノに対する王家の反応次第では、”楽団”のお披露目自体、見送りする方向で考えてはいる。

 そもそも今回の”出荷”は、そのための見極めという目論みが、多分に含まれているものだったし。


 微妙だったその時は、もう王家を見限って創世神正教と組むしかないかもなぁ。


 ……なんて。


 そんなつもりで。



 地球上の歴史において。

 宗教と音楽の関係は、切っても切れない間柄だった。


 古来より”舞い”もそうだが、”楽”として、神との交信の際に、常に用いられてきた”技能”の一つだったのだ。


 今は名と姿を失ってしまった<雅楽の女神>や、”俺”のやらかしのせいでこの”世界”に突如()()してしまった<祭りと舞踊の女神(フェブトゥーニア)>の権能(ちから)をつけるためには。

 どうしても”楽団”という一手が必要なのだから。


 そういう意味では、神像の奉納で、教会とはそれなりに良い関係を築けたと思うのだけれど。


 「なら、いっその事さ。アタシらの手でそこの空き地におっ建ててやろうかい? ”音楽”を鳴らすための、デッカい建物でも」


 「領民の皆は”楽団”の練習に好意的ではございますが、冒険者(よそもの)どもには『うるさい』と、幾度か言われておりますな。そういう意味では、確かに専用の建物があるとよろしいかと」


 「その様な不心得者どもには、ワタシ自らの手で【呪歌】<悪魔の耳(デビル・イヤー)>をくれてやっております。半日ほど耳を殺してやれば、きっと奴らも安眠できておりましょう」 


 「ひでぇ」


 てゆか、その報告さ、わたし全然聞いてないんだけれど、何故かなぁっ?!

 クリキンのふたりの話……というか、クリスの物騒過ぎるお話に関しては、一先ず置いとこう。

 考えていたら色々怖くなってきたし。


 うん。

 アーダの言う通り、それもアリ。なのかも知れない。


 別に公権力に頼る必要は無いと言えば、確かに無い。

 ただ、広まる早さと、その影響力を考えるならば、それが最善手なのはきっと間違い無いけれど。


 ただお酒欲しさだけで、魔の森を見事につるっ禿げにしてしまった実績を持つ”大地の人(ドワーフ)”たちならば。

 寄って集って立派な音楽堂なんか、あっさりと仕上げてしまうことだろう。


 それに、材料は腐る程ある訳だし。

 魔の森の木々に、各種魔物達の骨に、岩盤を掘り起こした際に出て来た石材なんかも。


 「そうだね。それじゃアーダ、お願いしちゃっても良いかな?」


 「りょーかいだよ、お嬢。さぁて、また楽しくなってきやがったよっ!」


 まぁ、楽器の量産が始まったらアーダは暇になっちゃうし、音楽堂の建設事業は確かに丁度良い機会なのかも知れない。


 問題は。


 「その図面を引くの、当然わたし……なんだよね?」


 「当たり前に決まってンだろ? ”音”に関しては、お嬢しか解る奴ぁいないんだからねぇっ」


 コンサートホールという奴は。

 音響技術の粋が込められた、科学理論の結晶であり、芸術の結晶でもある。


 当然、この世界においては【音楽の才能(ギフト)】を持つ”俺”にしかできない仕事であるのは確かだ。


 「……なんかさ、わたしだけ仕事がバカみたいに増えていってない?」


 「バカみたいに勝手に増やしてってンのは、お嬢ちゃん自身だからなぁ」


 ぐっ。

 アウグストのばっさり過ぎる言葉を否定できないところが、本当に悲しい。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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