76.チートで増える資産 と 厄介事。
「今更結婚なんて言われても、ねぇ……?」
「そうなの?」
久しぶりの”マーマ”とのお茶会。
半分、街になりかけている辺境の開拓村の人口も。
今では、千人を超えるくらいにまでに膨れあがっている。
国に”男爵領”と認められる規模のボーダーはすでに軽く突破しているし、そんな我が家の邸宅も、今ではすっかり伯爵家クラスの体裁がほぼ整っているくらいだ。
てゆか、国王陛下さま。いい加減陞爵の案内早よ寄越せ。
そのせいなのか、マーマの治療院は<回復術士>7名がフル稼働。
さらには”わたし”も村に関するアレコレで忙しい身のため、こうして母娘水入らずでいられる時間が、中々持てない状況だったり。
「何言ってるの、ヴィー。だって、マーマはもう30超えてるのよ?」
「嘘だー。凄く綺麗だよ、マーマ」
てっきりずっと結婚願望があるものだと思っていたのに、これは意外だった。
確かに”俺”は実年齢を知っている訳だから、今更だと言う彼女の気持ちも解らなくもないのだけれど。
そして”わたし”の気持ちも何となく解る。
この忙しい最中、その癖若さと美貌をしっかり保っているというのに。
『恋をしないなんて、なんか勿体無い……』
なんて。
”自分”が恋愛感情を覚えたから。
なのか、それとも元来女性という生き物は、そういう性質であるもの……なのか。
未だ精神基盤が男のままでいる”俺”では、到底理解の及ぶものではない。
そう思う。
こういう細かい齟齬が<運命の神>にとって”俺”を面白く観察する要素になっているのかねぇ……?
またひとつ、殴る理由が出来てしまった気がする。
「あらっ。お小遣いでも欲しいのかしら、ヴィー?」
「そんなことない、ホントだよ。わたしそう思ってるモン。マーマは凄く、すごーく綺麗だって」
特に最近、マーマの笑顔が輝いて見えるくらいだ。
”前世”の記憶の中の、ともに大地を駆け巡ったあの時よりも、もっと。
その理由が一体何なのか。
それは全然解らないのだけれど。
「うふふ、ありがとうね。お世辞でも嬉しいわ、ヴィー」
「全然お世辞なんかじゃないのにぃ……」
本心なのに。
マーマはちっとも認めてくれなくて。
お陰で思わず妙に拗ねた様な声が出てしまう。
そんな無駄に空気を悪くする様なつまらない自分を無理矢理黙らせるために、試作のクッキーを口の中に放り込んだ。
オリヴィエ商会に頼んで東方連合王国から砂糖大根の種を入手して貰い、少量試作した砂糖を用いて作られている。
しかし、作ってみて判明したのだが、きび糖に比べて甜菜糖というのは、同じ重量の作物から半分程度の分量しか採れないとかなり効率が悪い。
無理矢理絞り出せばもう少し採取量は増やせるだろうけれど、その分えぐみが出てくるので本末転倒になってしまう。
それでも、粗末な輸入品よりも安価に作り出せると解った以上、逆に高級感を煽る方向で行こうと精製度を上げた”上白糖”としてほぼ同じ値段を吹っ掛けようと思っていたり。
そんなクッキーは、砂糖を控えめにしているというのにしっかり甘いし、何より特有の青臭さを感じないで済むのは【神の舌】で苦しむ”俺”にはありがたい。
「解ってるわ、ヴィー。貴女は絶対にそんなつまらない嘘は言わないって。マーマは、ちゃあんと。だから、ごめんね」
「……うん」
”マーマ”の手は癒やしの手。
長年<回復術士>をやってきた、優しい救いの手。
その優しい癒やし手が、”ヴィクトーリア”の白銀の髪を撫で梳く。
”わたし”の心の扉が、少しずつ開いている。
──ああ、やっとだ。
もう少しで、”俺”は”わたし”と入れ替われる。
その、すぐ近くまで──
◇◆◇
最近、デルラント王国内を席巻しつつある新しい酒”焼酎”を巡り、周辺のお貴族さまやら、そこのご用商会どもの暗躍が超絶ウザい。
いくら断っても、
「頼むっ、このとーりっ。是非とも売ってくれたまえっ!」
なら、まだ全然可愛いモンで。
「あ゛? お前ぇ、ウチが○○さま(お好きな貴族家の名前を入れてください)御用達の大商会だって解って言ってンのか、おおん?」
なんて。
商人とは名ばかりのチンピラ以下のところの、何と多いことか。
そんな以下どもの頭を軽く撫でてやり、全員を辺境伯夫人の御許にご案内。
リート準男爵家とレーンクヴィスト辺境伯家の連名で、抗議と云う名の季節のご挨拶の手紙を、ご主人さまに向けお出して差し上げれば。
直ぐ様、こちらに詫び状と粗品を持った使者さまが血相変えて訪れるという寸法で。
その癖、三ヶ月と経たず同じおいたを繰り返すのだから、この国のお貴族さまってなぁ、学習能力が無いのかと本当に呆れ返るばかりだったり。
そこに来て、熟成までの10年も待っていられないとばかりに、まだまだ若いブランデー未満の樽を【アイテムボックス】の中に放り込み、チートで時間を加速したその中身を、アウグストとアーダに呑ませてみたら。
結果。
”大地の人”どもの人口が爆発的に増えちゃった、とか。
多分、今ではウチの集落ってば西風王国国内よりも”大地の人”の総人口が多くなっているかも知れない。
そのくらい、マジでうじゃうじゃといやがる。
「正直、もう職人の数は足りてんの。そんなにお酒が欲しいんだったらさ、何割かは酒造りの方やってくんないかな? できれば、だけれど」
てゆか、現状原料確保の問題の方が、より深刻なんだけれどね。
今まで緻密な工芸品を作り続けてきた職人集団相手に、さすがに農業をやれとまでは言えないからさぁ……
「ええぞ。開墾なら、わしらの得意とするところじゃわい」
「え?」
目の前で、巨木と一緒に捲り上げられていく地面を見て仰天。
聞けば”大地の人”は、基本的に全員魔法の資質を持って生まれてくるそうな。
その中でも、地術の技量に関しては熟練の”森の人”の魔導士すらをも遙かに凌ぐのだそうで。
ああ、なんだよ。
「開拓の段階でずっと足踏みしていた、わたしの苦労って一体……?」
「そんなん知らんがな。最初からわしらに相談しとったら、少なくともこの倍の畑はできとったじゃろうな」
チクショー、マジやってらんね。
まぁ、いいや。
だったら、来期は原料が今の倍近くで増産できる訳だから……
ちょっとだけ、樽の在庫を減らしちゃおうかな。
なんて。
そんなインチキだけででっち上げたブランデーやウィスキーを、アウグスト達の悲鳴を無視しつつ試験的に少量を出荷してみたら。
またまた増えた訳ですよ、お貴族さまとその子分どもが。
『売ってくれ』
なら、ホントにまだ可愛い。
製法と技術者を含め、その権利全部寄越せだとか。
権勢尽くでの押収のゴリ押しには、さすがの”わたし”も王国法の適用やむなし。
お陰で魔導具がいくらあっても足りねぇや。
もしかしたら、ここ最近出土した奴、全部ウチが買い取ってるって勢いで。
てゆか、揃いも揃ってウチの敵対派閥とか。
本当にバカじゃねーの? って。
頼んでないのに、わざわざこちらに弱味と云う名のネギ背負ってやってくるとかさ。
辺境伯夫人も大喜びですよ。
『何かご褒美を差し上げたいのだけれど?』
なんて。
お義母さまからそんなお手紙まで届く始末。
だったらさ、ええ加減、リート家の陞爵を陛下にせっついてくれください。
てゆか、お義母さま。その話が出てから、もうすぐ2年が経ちますのよ?
お願いします、マジで。
最悪、リート家が男爵にさえなれれば、男爵家からのゴリ押しだけは確実に無くなるのだから。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。
評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。




