67.やり過ぎた鉄槌
「しかし、本当に酷かったねー」
「いや、まさに。”帝国”ですら、ああもなかったのですが」
領都ルーヌの冒険者互助会では。
キングこと王 泰雄笑顔の、
『チェンジで』
で、お断りさせて頂いた【徒党】12組(総計73名)の内……
「人間種至上主義者たち7組に、明らかな実力不足が3。最後が山賊といっちょん変わらんゴロツキどもが2か」
「互助会全体の程度が低いのか、はたまた今日に限って、だったのか……そこまでは分かりませぬが、あれでは到底」
そうだね。
あの為体では、正直期待なんかできない。
チェンジのコールに納得できないと散々ゴネにゴネた欲深どもは、差別の視線にフラストレーションを募らせていたアーダと、やり過ぎを心配したアウグストの”大地の人”夫妻のふたりの手によって次々に沈められていった。
「ホント、口が達者な奴ほど弱かったねぇ」
「だろうねぇ……」
完全に憑き物が落ちたんじゃないかってくらいに爽快な笑顔を浮かべるアーダと、訓練場に転がる痛々しい冒険者どもの群れを前に、”俺”は心底頭を抱えたくなった。
『”卑しき亜人種”のくせに、散々デカい口を叩きやがってよぉ! 身の程を知れぃっ!』
なんて。
依頼主と、その護衛対象に”模擬戦”を吹っ掛けてきやがる時点で。
ホント、もうね。
で。
それを一切止めようともしなかった互助会職員どもも、”俺”に言わせりゃ同罪だわ。
この世界、
<回復術士>だったり<僧侶>だったりの<回復術>は、ちゃんとある癖に。
「回復薬の類いって、無いんだよねぇ……?」
いや。
あるには、あるのだけれど。
「キング。回復薬1瓶で、帝国金貨50枚から、だったっけ? 相場は」
「そのくらい、でしょうかね。しかもそれで治るのは、駆け出しの唱える回復術と同等、程度。と、聞き及びますが」
【徒党】内において、回復役の役割の立ち位置が、どれだけ重要で貴重なのかが良く分かる話。
こんなのを”もしものための保険”にしなきゃならない人たちがいるのかと思うだけで、色々と寒気がしてくるよ。マジで。
そりゃ、うちの”マーマ”が、”辺境の聖女”だなんて呼ばれる訳だ。
在って無い様な、そんな”ボッタ”な<回復術士>の治療費の相場完全無視で、
『貴方が無理せず出せる金額で構いませんよ』
なんて。
そうずっと言ってきてるし、それでちゃんと運営できてんだもん。
その姿勢はすごく立派だと思うし、元”幼馴染み”として。また”娘”としても誇らしくはあるけれど。
その中でも、なんか、色々と。
形容し難い、どこかモヤっとするものも、腹の底に感じていたり。
「仕方ない。怪我した人たちには、一応辺境伯配下の<回復術士>を回して貰える様に口利きだけはしとかなきゃ……」
「我々も、これ以上変に怨まれたくもありませんし、それが妥当かと」
実際、互助会長の抗議の我為り声が、今も背後で煩い訳だし。
「向こうから”模擬戦”を吹っ掛けてきおった癖に、勝手なモンじゃがな。止めなかったのだから、文句を言える筋合いではないわ」
うん。
アウグストの言うことは分かるし、”俺”だってそう思うけれどさ。
けれどね、今回のケースは、いくら何でも流石に。
「やり過ぎ」
って。
そういうお話なの。
『模擬戦での怪我は自己責任』
これは、どの国、どの地方の冒険者互助会の中にあっても、共通する”暗黙の了解”って奴だ。
だから、色々と揉め事があった場合、力尽くで言う事を効かせるためにこれを吹っ掛けてくる馬鹿野郎は多いし、”舐められたら負け”なんて、変な価値観が罷り通るこの稼業。
一方的に吹っ掛けられても、断れる訳がなく。
力でねじ伏せる=正義。
なんて。
何時しか、そんな分かりやすい図式に。
だから、本来であれば力を示したアーダたちは、外様からもぐうの音が出ないほどに大正義を示してみせた訳だ。
でも、やられた奴らはそれで無理矢理にでも納得しなきゃならないけれど、戦力を失った互助会の立場から云えば、そうはいかない。
「だったら、そうなる前に止めろって話じゃろが?」
「きさまら、止める間も無く、一瞬で”折って”いったいっただろうがっ!」
如何に手加減したとて、怪力の”大地の人”腕から繰り出される木剣の一撃だ。
単純骨折で済めば、確かに御の字なのだろうけれど。
「まさか”寸止めルール”も知らなかった。とは……」
「意外と”人間種”さまは、お行儀が良いんだねぇ。躾けがなってないってのにさあ」
だから。
無駄に煽らないでよ、アーダ。
……でもね、互助会長。
「それを最初にご説明なさらなかったのには、どの様な意図がお隠れでしたのでしょう、互助会長さま?」
「ぐっ……」
だから、ね。
”リート準男爵令嬢”の名前で、<回復術士>手配の口利きだけはしてあげる。
その治療費は、確実に相場通りの額が請求されるのだろうけれど。
辺境伯家の家計は、慢性的に”火の車”なのだし、領民として、少しくらいは貢献してくれたまえ。
それにね。
「喧嘩を売ると仰るのでしたら、相手の実力の見極めができてこその”冒険者”で、ございましょうに?」
つまりは、そういうお話。
お前らは、その時点で失格だったんだよ。
少しは反省しやがれ、バカちんが。
◇◆◇
何だかんだで技量にはかなりの疑問が残るけれど、亜人種に対し特に変な”偏見”の眼を向けなかった幾分マシな冒険者たち8名を”俺”たちは雇った。
C級上位の剣士を筆頭に、護衛依頼の受諾が許されるD級下位の面々という、正直に言ってしまえば、
『1度限りの弾除け』
程度の、そんな”戦力”でしかないのだけれど。
折角の馬車だ。
弾除けどもと、護衛たちは徒歩。
ふたりの老夫婦は先頭の馬車の荷台に、御者はアウグスト。
それに続く馬車の御者台には”わたし”とキング。
気が付けば、ちょっとした商隊よりもデカい規模になっちゃってた。
「御者もって、キングってば、本当になんでもできちゃうんだねー」
「所謂”器用貧乏”こそが、俺の”売り”ですからね。だからこそ余計に、になりますが。”魔術の才”を持たぬという現実が本当に悔しく思えます」
うん。
神様って奴は”不公平”だ。
”俺”も、本当にそう思うよ。
【ギフト】まみれの”チート野郎”が、どの口でほざきやがるんだって。
そんな嫌味な話になってしまうのだけれど。
同行してきた村の<回復術士>オットーなんだけど、奴の動機を知った時は。
ホント、もうね。
なんでも奴に云わせれば、
『”聖女さま”は、常に清らかな存在でなければならない』
んだってさ。
つまり、聖女さまの処女性を保つため、彼女の娘である”ヴィクトーリア”の存在そのものが許せなかった、と。
本当に、馬鹿馬鹿しいったら。
こんな手前勝手な馬鹿なんかと付き合いきれるかってことで、無理矢理奴を辺境伯家に士官させてやった。
その代わり、になるけれど。辺境伯家配下の<回復術士>を、リート準男爵家でふたり借りることに。
正式に男爵位を拝領するまでに、貴族として最低限の”体裁”を整えろ。
そう辺境伯夫人からも言われているので、開拓村はこれから忙しくなってくる。
家宰に家政婦に、その他諸々と。
教育を受けた人材全てを辺境伯家に依存せねばならない現状には、この際仕方がないのだと目を瞑る。
実際、ノウハウなんてこれっぽっちも無いのだし。
まずは、その人材を受け入れる体制を整えなければならない。
直近で云えば、倒壊寸前の荒ら家から出て、男爵家として最低限見栄えする屋敷を構えるところから。
全ての手配は、辺境伯家の名の下に(資金は全てリート準男爵家の借金……だったり)行われているので、それが建つまで”マーマ”の治療院の居候のままでいられる訳だけれど。
「ね、キング。【クリスタル・キング】のふたりには悪いのだけれど、もう少しだけ、”わたし”に付き合って貰っちゃっても、良いかな?」
「なんの、<継承者>殿。その様な寂しいこと仰られますな。貴女様が”もう沢山”と思われるまでお付き合いいたしましょうぞ。それに我ら、未だ貴女様の希有なる技術、何一つ修めてはおりませぬ」
”俺”の持つ【呪歌】の楽譜と、”大地の人”謹製の基本的な弦楽器各種は、すでに彼らに全て手渡している。
後は彼ら自身で、その技を磨いていくだけの話……なのだけれど。
本当に、彼らは”お人好し”だよ。底抜けに。
「ありがとう。ごめんね、もう少しだけ。もう少しだけ、”わたし”に付き合ってね」
「承知。我がご主人様」
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