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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
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63.小竪琴の調べ

いつも誤字報告ありがとうございます。

非常に助かってます。




 「ヴィクトーリアさま、ヴィクトーリアさまっ! わたくしにも”楽器”のあつかい方を、ぜひにもご教授おねがいできないでしょうか!?」


 辺境伯夫人(エレオノールさま)から昨日の演奏の件を聞いたのか、辺境伯令孃リースベットさま(7)が翌日の朝食時間前の早朝からはしたなくも”わたし”の滞在するお部屋に凸ってきました。


 リースベット孃。

 一応ヴィクトーリアより歳上のハズなのに、なんなのだろうね?

 この異様なまでの懐き方は。


 まるで妹が姉に向けてしてみせるだだ甘我が儘チックな感じというか……

 ちょっと言い方が悪くなるけれど、散歩の時に俄に足下にジャレついて来て思わず踏んづけそうになっちゃった犬っころの様な。

 そんなギリギリ不快に感じる、その()()()()のウザ絡み。


 元々末っ子気質を持っていたところに、唯一の女の子だからと周囲からも散々甘やかされて育ってきた人間特有の”甘えん坊”というか、”甘え上手”というか。


 『自分の要求が全て通って当たり前』


 そんな感じを受けるところが、微妙にあるんだよね。

 そのくせ、ここまでやったら相手が確実に怒るだろう。その限界域だけはしっかり見極めができている的な。

 所謂、甘えの達人的なオーラをひしひしと感じる。



 たぶん、だけど。


 彼女は、エレオノールさまとは別のベクトルで、


 『絶対に敵に回してはいけない人間』


 の、ひとりなんだと思うの。



 エレオノールさまは、周囲の外堀を完璧に埋め尽くし逃げ道を塞ぎ、一気に攻め込んでくる人。

 それに対して、

 リースベット孃は、周囲の人間を味方に引き込み孤立させてきた上で、あえて傍観してくる人。


 ……そんなイメージ。


 かなりの偏見と僻みを含む、我ながら歪んだ人物観だとは思うけれど。

 それでもこの印象に関して、そこまで大きく外れてないんじゃないかとも思う。嫌な話だけれど。



 逆を言えば、


 『味方でいてくれる間は、これほど心強い人間もいない』


 のだけれど。


 ”貴族社会”の中でだけ。

 そう限定すれば、おそらくこのふたりは存分に”無双”できるんじゃないかな。

 それくらいの逸材だと個人的に思うよ。


 まぁ”俺”の知る”貴族社会”の常識なんて、”前々世”(シング=ソング)時代の、それも強引に社交界へと招待されて以降の、ほんの20年くらいの話でしかないのだけれど。

 しかもそれ、ここデルラント王国内ではなく西風王国(ゼピュロシア)の話だったりするしなぁ……



 西風王国は、建国の祖となった人間が森の人(エルフ)たちの助けを借り”悪逆なる前王朝”を打倒したという経緯もあって、亜人種に対する”偏見”と”差別”が特に薄い国だ。

 王家にもその”森の人”の血が入ってるのだから、当たり前と云えば、当たり前の話なのだろうけど。


 というか、なぜそんな”安全な国”を出てまで、わざわざ”偏見”と”差別”が公然と見え隠れする危険なこのデルラント王国へと、アウグストたちは移住しにきたのか?


 ────まさか、本当に酒のため()()ってこたぁ無いよな?

 無いよね?


 ……やっぱり、一度は<炎と鉄の神(ファライ=アズン)>と腹を割って話をした方が良いんじゃないかな。

 少なくとも、そんな気がする。


 『腹を割るのは得意だぞ? わたしは”医学”も司っているのだからな』


 ……なんて。

 <本と知識の女神(インティグレイス)>の声で、脳内再生超余裕でしたが。

 てゆか、メスはやめろ。メスは。


 でもアウグストたちが開拓村に来てくれたおかげで、こうやって色々な楽器の”再現”が、こうしてできてもいる訳で。

 ”俺”の【音楽の才能(ギフト)】は、調律はちゃんとできても、作成に関しては本当にからっきしだったからなぁ……

 今じゃ、ギターの完全再現だけでなく、”俺”の乏しい音楽の知識と記憶から色々な弦楽器や管楽器を新たに作り出している真っ最中だ。


 その内の成果の一つでもあるヴァイオリンを取り出し、リースベット孃に見せる。

 楽器の選択に特に意味は無い。

 小さい子供の手でも演奏できそうな楽器の手持ちが、今これと小竪琴(ライアー)くらいしか無かったから。ただそれだけの話。


 「エレオノールさまのお話を伺って……ということでしたら、こちらの小竪琴になさいますか?」


 「できれば、ですけれど。わたくし、ヴィクトーリアさまとご一緒に、お歌も……」


 「それでしたら」


 小竪琴は、木工のアーダと鍛冶のアウグストの夫婦合作による作品だ。


 特にアーダの木工の腕は凄まじかった。

 ”俺”の微妙な、少ない語彙からのニュアンスばかりの感想から、的確に木を削っていくのだ。

 彼女のお陰で、どこにもズレの無い満足のいく音の響きが出せている。



 「まずは、音を出してみましょうか。わたくしの歌は、そのあとで────」



 なんてやってたら、フィリップ卿やら、その弟のミカルやらが。

 ……ふと気が付いた時には、辺境伯一家の全員が”わたし”の部屋に揃ってた、とか。

 おたくら暇なの?


 なんて。

 仕方がないか。


 ここ、”音楽”を気軽に楽しめる環境なんて何処にも無い、あまりに寂しい”世界”なのだし。

 

 ああ、そうだ。

 どうせなら【クリスタル・キング】のふたりも呼んできて貰っちゃおうかな。



 この一音が、今は名も姿をも失ってしまった<雅楽の女神>の力へと変わるのであれば。


 弦を爪弾くこの指に、ついつい力が籠もった。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 オルゴールとか作れたら面白そうだがあれはいつ頃の物なんだろう。  ドワーフがいれば作れるのは作れるだろうが、素材や冶金の問題もあるし。  調律は主人公がやればいいが、そうなると大量生産て訳にはいかな…
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