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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
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6.スタート・リスタート




 『うわぁ、そうきたかぁ……』



 今世の”わたし”が目を覚ました時に最初に出て来た言葉が、正にこれだった。


 色々と最初から”ガッカリ”が多かったこの”出生ガチャ”だが、ある意味今回は──



 「いくらなんでも極めつけ過ぎるでしょ、コレはさぁ」



 と、流石に今回の件に関しては、”運命の神(ヤツ)”に文句の一つくらい言っても良いかも知れない。


 転生を果たした魂が、しっかりと肉体に定着するまでのしばしの間、”俺”としての記憶と意識は、完全に封印される。


 そうしないと、ふとした拍子に魂が外にはみ出てしまう癖が付いて、非常に厄介なのだとか。<幽体離脱>とか、何かの技能(スキル)で普通にありそうなモンなのだけれどナー。

 その辺の境界というか区別が、未だいまいち良く分からない。


 

 ──今回は、数え5つ。といったところか。



 この身体の何処かに”不具合”は無いか?


 まずその確認を。


 家庭環境、っていうか、ウチの”母親(ママ)”がまさか()()だとか、さぁ……


 とっとと自殺して”天界”へと()()()()()してまでも、運命の神(あのバカ)を全力で殴りたくなってきたわ。

 それこそ、力の限り全力で。めいっぱいに音高く。


 ちょっとだけ濁った溜め池の水面に、自分の顔を映してみる。


 「良かった。少なくともお貴族様(カスペル卿)のご落胤……では、無さそう」


 今世の”わたし”の容姿は、灰色の瞳に、光の加減によっては輝いて見えるほどに透き通った白に近い銀髪。


 現在の服装(ボロ)を無視して、っていう前提は要るけれど……

 見た目だけなら、この娘はどこぞのお姫様ですよ。と言っても普通に通じるくらいには可憐。

 ここが辺境の開拓村だからこそ、辛うじて助かっているとも言えるレベルで。

 これがちょっとした街だったりしたら、”わたし”はとっくに”攫われて”しまっているはずだ。


 あのバカ野郎(カスペル卿)の髪は赤髪に赤目だった。

 そして、ヴィルヘルミナはどちらも黒に近い灰色。なので、まぁ……この結論。


 ただ、ひょっとして……の話だけれど。


 「まさか()()()()()()()()()()()()()ってさぁ……本当にさぁ、いくらなんでも……」


 ないよね? 流石にそんなことはないよね?


 とは言い切れない所が、本当に悲しい。

 特に”俺”って異常に色素薄かったしね……


 まぁ、自分の”元恋人”の不貞を更に疑う話になっちゃうのだけれど、そもそもアイツ(ヴィルヘルミナ)には、”カスペル卿”という隠しようのない『前科』がある訳で。


 ただ、時期的な話。


 ”他の種”の線まで疑い出すと、ミーナはあの当時、俺も含む同時に最低3人の男と関係を持っていたのかって話にまで発展してしまう訳で。



 ……なんだぁ? なんの地獄だよ、それ?



 すでに”(ヨハネス)”の未練は、”わたし”になった時点ですっぱりと断ち切られている────はず。


 だから、この感情は、正しいものでは決して、ない。


 まぁ、自分の”母親”が、そこまで”(よご)れて”いたのかと思えば、確かに心穏やかではいられる訳もないのだけれど。


 特に自分の”由来”が何も分からないというのは、子供心にも残酷過ぎる話だし、ね?


 でも、”わたし”の中には、その母親との記憶がほぼ無いので、

 その時点ですでにお察しな訳なのだけれど。



 親子の情などという”幻想(ファンタジー)”が限り無く薄い環境の幼少期を過ごすのは、すでに何度も何度も経験しているのだから、そういう意味ではもう慣れたものだ。


 そもそも、日々の糧の確保ですらあやしい貧しい寒村の家ともなれば、まだまともな労働力も期待できぬ幼児の扱いなんぞは、ただの”お荷物”でしかないのだから。

 端からそんなもんだと思えば諦めも付く。


 その癖、碌な娯楽も無いからって、無駄にこさえてはポンポンポンポンと産み落とすもんだから、正直目も当てられない。

 まぁ、その大半が期待される”労働力”へと成長する前に死んでしまう訳なのだけれど。


 相変わらず、命が軽過ぎる世界だよ。ここは。


 

 まぁ、”今世”に関して言えば、その辺まだマシ……どころか、かなり上等の部類なのかも知れない。


 祖父母……母親(ミーナ)の親御さんが、まだ健在だからだ。


 大変有り難いことに、”じぃじ”と”ばぁば”は父親不在の”無駄飯喰らい(やっかいもの)”の”わたし”を、貧しくも厳しい環境の中でも大切に育ててくれている。


 お陰でわたしは歪んだ”わたし”にならないで済んだ。

 この恩は、絶対に返していかねばならない。


 ”(ヨハネス)”の両親は、どうやらすでに他界してしまっているらしい。


 ”お貴族様”相手に真正面から逆らってしまった以上、何らかの”報復”はあって然るべきだったのだから、逆を言えば、”その程度”で済んで良かったのかも知れないが。

 ある意味、ただの”八つ当たり”に遭っただけの二人には、本当に申し訳無い話なのだけれど。


 そして、この領を治めるお貴族様は、あのバカ野郎(カスペル卿)の実家が属する派閥と違った事が不幸中の幸いだったとも言える。

 同じ領だったりしたら、確実にこの村は地図上だけでなく史実上からも消え失せていただろう事は明白だからだ。


 お貴族様に平民……いや、”俺”は一度この村を捨てたのだから、流民と言った方が正しいか……が逆らったら、そんな末路しか残されてはいない。

 ”この世界”は、そういうところなのだ。



 ニヒルを気取って溜息吐いたところで、こんな幼女の姿じゃ全然締まらないなぁ……



 ”遺伝子”の出所自体に思う所が全く無い……なんて言えば嘘になるけれど、それでも、少なくとも母親(ヴィルヘルミナ)父親?(ヨハネス)の良いところだけ取りした”奇跡の産物”とも言える今回の”わたし”の容姿に関しては、概ね満足だ。


 おおまかにチェックした感じ五体満足で、多少痩せてはいるが一応は健康そのものと言っても良いくらいには元気だ。

 微妙に『ひもじい』と感じるのは、開拓村の住人全て同じなのだから、これはもう仕方が無い。


 だから、だろう。”わたし”がひとりで外に居るのは。


 ”俺”の意識が無くその使い方が十全に分からなかったのだとしても、備わっている【ギフト】自体は生きているのだから、薄らと”これは食べられる”、”これはおいしくない”ぐらいの判別は付く。


 たぶん、小腹を空かせた覚醒(めざ)める前の”わたし”は、()()()を求め彷徨い歩いていた。

 そう考えるのが、正しいのだと思う。


 こういう時、自分の思考の”ログ”が閲覧できたりしたら、本当に良かったのにね。


 【鑑定】で、道の片隅に放置されている食べられる野草やら、売れる薬草を判別しては、小さい手で丁寧にむしる。


 丁度初夏にさしかかった辺りのこの時期。当然、木の実やら果実なんてものは望むべくもない。


 【アイテムボックス】の中には、それこそ”わたし”一人だけならば、文字通り10年以上は食べていけるだけの備蓄がある。


 だけれど、それらを出すには、色々と常識と道理が邪魔をする。


 精々、陰に隠れてチョイチョイつまみ食いする程度かなぁ。


 一応は貧しい開拓村。


 回復術士(ヒーラー)として治療院を開いている”母親”の存在もあってか、他よりウチは裕福だと思われてはいるけれど。


 その”稼ぎ”自体、鉄貨1枚もウチに入ってこないのが現状だ。

 この前、そう”じぃじ”がこぼしてたし。

 なんでそれを幼子の前で正直にぶっちゃけちゃうかなぁ……と、常識を疑いたくはなるけれど。


 そんな中下手にお腹いっぱい食べて、自分だけ太っちゃうと確実に色々と不味いモノがバレちゃう。


 まぁ、そんな訳だから少しでもお腹を満たすには、自分の手で採取するしか方法が無い訳で。


 日々の健康は、日々の健全な食事から。

 せっかく美人さんに生まれたのだから、その美を磨かず何とする。


 新芽の野草と、薬草を丁寧にむしっては、スカートの裾をつまんで袋状にした中へと放りこむ。

 ”わたし”はまだ数え5つの幼児。羞恥心なんてモンはどこにもありはしない。


 ……今夜の()()()は、少しだけ中身が豪華になるね。



 「おーい、ヴィクトーリアや。どこだーい?」



 あ。”じぃじ”が呼んでる。


 時間を忘れひとり”採取”に没頭していたから、心配かけちゃってたか。


 「あーい。じぃじ、こっちー」


 せめて”今世”では、ずっと心穏やかな生活ができますように……



 なぁんて。


 幼児らしからぬことを裏で考えているんですがね。




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
続きがすごく楽しみです。 親子の情愛は諦め切ってるけど貞操観念に拘る主人公。過去の追憶で明らかに?
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