58.紅茶の裏でスパイ天国大作戦。
いつも誤字報告ありがとうございます。非常に助かってます。
今回の領都行きに同伴してきた<回復術士>のオットーが、何故だか”裏ギルド”と通じていて、さらにはヴィクトーリアとふたりの老夫婦の生命を狙ってきた。
……うん。
今回の一件を改めて文章に起こしてみると、さっぱり意味が分かりません。
オットーの動機なんか、この際もうどーでも良いわ。
まずはじぃじとばぁばの身の安全こそを最優先だ。
(手の空いたのから、一旦宿に戻って。危険そうなのは全部無力化の後、確保……で、よろしく)
ドレミ、エル、アール、セントラルが元気よく返事してじぃじ達が待つ宿の方へ戻っていってくれた。
”俺”も、出来れば一緒に戻りたかったのだが。
「? ヴィクトーリアさま、どうかなさいまして?」
正直にこれまでの経緯と事情を話したとて……”わたし”は、この屋敷から、絶対に釈放してはもらえないと思う。
少なくとも、目の前で優雅に紅茶のカップを傾けていらっしゃる辺境伯夫人は、今ここで”ヴィクトーリア”を手放す気なんざ、微塵も無さそうに見えるし。
「いえ。そろそろわたくしめの”保護者たち”が、心配している頃ではないかと」
「あら。それは申し訳ございませんでしたわ。もう、ローランドったら。本当に気の利かない……」
なまじ”俺”が無駄に歳不相応に立派な受け答えなんかをしてしまったもんだから、辺境伯夫妻はヴィクトーリアをこどもとしてではなく、一個人の大人として相手をしたがため、
『ヴィクトーリア孃には、保護者がいる』
その事実を、すっかり失念していたというのだ。
……本当かなぁ?
なんて。
今更疑ってみても全然意味が無いのは、承知しているつもりだけれど。
「ああ、そうですわっ! でしたら、ヴィクトーリアさまのご家族の方々も、是非とも、我がレーンクヴィストにおもてなしさせてくださいまし」
ほぉら、やっぱり。
思った通りの展開ですよ、これは。
「ありがとうございます、エレオノールさま。わたくしの祖父母も、喜んでくれると思います」
下手に遠慮しても無駄だ。
だったら、この”想定外”を、逆に利用してしまった方が正解かも知れない。
だって────
「そういえば、ヴィクトーリアさまのご家族って、あの開拓村の騎士爵の……?」
「左様にございますわ、エレオノールさま。此度は、辺境伯さまにご報告とお願いがございまして。元々わたくしどもは、そのために領都へと参った次第でございます」
この機会を利用すれば、返事を待たずに開拓村の代表として辺境伯と面会ができちゃうんだもんね。
◇◆◇
何故エレオノールさまの提案を素直に受け入れたかと云うと、ぶっちゃけ絶対に逃げ切れないな、と思ったから。
面会待ちしなくていいや……なんて。
そんなズルが目的だったというより、そちらはどちらかといえば、ただの副産物って奴。
だってそもそも領都の滞在費なんて、いくら掛かったところで”俺”にとっちゃ、そんなの端金にもならんし……それこそ1年、2年待ち程度なんかじゃ屁でもないっていう。
それどころか、領都の一軒家の購入すら視野に入っていたのは、じぃじたちには内緒だ。
まぁ、でも。
これを素直に受け入れてしまえば、レーンクヴィスト辺境伯家の名の下に、公然とじぃじたちの身の安全がしっかり護られる訳だ。
しかも、ロハで。
ただその対価として、わたしの一生涯という、大変重いモノを要求されてしまう訳なのだけれど。
如何に”裏ギルド”といえど、正面切ってまで領主とやり合うだなんて、そんなガッツ溢れる反骨精神なぞ欠片も持ってはいまい。
この時点で、オットーの奴の目論みが完全に潰えた訳だけれど。
出来ることなら、今後の憂いもこの際、一切合切に全部綺麗に無くしてしまいたいのも、また事実。
(シド。裏ギルドの本拠地って、ちゃんと捕捉できてる?)
(ん、大丈夫。そっちは今ボクが見張ってるよー)
(……マイクか。じゃあ、ドレミはじぃじたちが辺境伯の迎えの馬車に乗り込んだら、そちらの護衛を。残りの子たちは、裏ギルドの”殲滅”でお願い)
マイクが云うには、オットーが接触した”裏ギルド”というのも、今回の奴隷狩り騒動に一枚どころか、ガッツリと噛んでいる組織だったらしい。
……うん。
だったらさ、やっぱりそんなの要らないよね?
下っ端は、まぁ良いとして。
幹部共はちゃんと消しておいて。”汚物”は消毒だぁ。
某子爵さまの”家宅捜索”が終わり、こちらへと戻ってきたファとソラは念の為待機。
ああ、証拠は全部”俺”の【アイテムボックス】の中に入ってるよ。
”裏ギルド”の一件も含め、これらは全部辺境伯夫人との”取り引き材料”にさせてもらう予定……上手く行くと到底思えないのは、何故だろう?
で。
今”俺”の手元に残っている戦力が、ファ、ソラ、サックスの3体。
【音の精霊】がこれだけいれば、もし仮に辺境伯家で暴れなくちゃならない事態に陥ったとしても、たぶん生き残るだけならできる、はず。
やっぱり、常に最悪の状況を想定して、しっかり備えておかなきゃね。
てゆか、いつも想定外のことが起こりすぎてて、色々と麻痺しちゃってる気がするからさぁ。せめて、心構えくらいは。って話。
(もうオットーの奴は良いだろ、俺も一緒に戻るぞ-?)
(ほいほい。シドも気を付けてー)
シドの言う通り、この際オットーは放置で。一人寂しく宿に居るが良い。
ああ。そうだ、そうだ。
「あっ、すみませんが、宿の滞在費は、できれば回収しておいてくださいますでしょうか? お恥ずかしながら、わたくしどもの懐に余裕は、その……」
辺境伯様のお迎え部隊のひとりに、念の為のお願いを忘れずに。
これで、オットーの”自腹”が確定と。
こちらの生命を狙ってきやがったんだ。
そのくらいの罰は、黙って受け入れようや。なぁ?
……あれれ?
なんだか、どんどん”俺”の性格がねじ曲がってきてる様な……?
まぁ、仕方ない。よね?
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