52.盗聴天国。
本当に、こいつら大丈夫かよ?
なんて。心配して送り出した”大地の人”連中ですが。
『うん、ダメだった。酒場で大暴れしてあいつら全員、領都の衛兵に取っ捕まっちゃったよー』
────全然大丈夫じゃありませんでした。
どうやらアウグストたちは、酒場でゴロツキどもに絡まれ大立ち回りを演じてしまったらしい。
そこはまだ良い……ああ、良くはないが、身を守るためだ。仕方がないと言えば、確かに仕方のない話で。
今回、何が問題だったのかと言及するとしたら、どちらかと言うと領都の衛兵の皆さんの方。
念の為にキングたちに付けていた【音の精霊】のドレミが言う。
『捕まったのは、”大地の人”たちだけ。ゴロツキどもは何故かお咎め無し。これ、どう考えても変だよネー?』
【音の精霊】が見聞きした情景は、何故か他の【音の精霊】からでも再生が可能だ。どういう仕組みでそうなるのかは知らんが、”そういうものだ”と強引に自分を納得させておく。
元々こいつらなんて、<雅楽の女神>さまがくださった良く分からん不思議生物だしなぁ……
『──だから、考えるな。感じるんだ──』
お前さんさぁ、ホントその台詞好きよね?
てゆか、今更そんなこたぁどーでも良いんだよっ!
そんなドレミ経由によるその当時の状況を、ファにお願いして再生。
「これさ、お爺さんたち、完全に狙われてた……よ、ねぇ?」
「……でしょうね。そして、衛兵もグルだったと考える方が、より自然かと」
せめてもの救いは、アウグストたちが衛兵相手には、一切の抵抗をしなかったこと。
こうして今回、映像と音声という形で証拠を残せている以上、この一点を指摘するだけで、いくらでも申し開きができる……はず。
ついでにドレミの緊急通報を受けて、エル、アール、セントラルを解放されたゴロツキどもと、他の衛兵に向けて各々飛ばしている。こうなったら、言い逃れできないくらいに沢山の証拠を掴んで全員潰してやんよ、公的にな。
『──俺もそっち行った方が良くね?』
うん? まだ大丈夫。できればシドは、ずっとそいつに付いてて。手が足りなくなってきたら呼ぶかも知れないけどさ、なるだけ。
『りょーかい。でも、無理はすんなよ。手が足りなくなったら遠慮無く俺も呼べ。今のお前はガキんちょなんだから、よ』
────へいへい。
【音の精霊】の中でも、シドはやたらと過保護だ。こういった時は、自分に課せられた”任務”より俺の身の安全を最優先に行動しようとする。
彼らは”俺”の魂に紐付けられた”一蓮托生”の存在だから、当然だと言えば、まぁ当然の話なのだが。それでも、その中で特に心配性なところがあるのがこいつだ。
まぁ、確かに今”俺”の手元にいる【音の精霊】の数は4。すでに”俺”の戦力が、実質半減している訳で。
これからも見張らなきゃならない存在が増えてしまう毎に、”俺”の戦力が随時目減りしていくのだ。”ヴィクトーリア”の肉体性能が同じ年齢のこどもと比べてもそこまで大差無い以上、シドにとっては心配の種が尽きないと感じてしまうのだろう。
でも、こればかりは仕方がない。だからって、放っておくなんて選択肢は、”俺”の中には最初から無いんだし。
「……クリス」
「承知」
今回、絶対にじぃじとばぁばを巻き込む訳にはいかない。下手をしなくても、辺境伯さまに弓引く形になるんだから。
「睡眠術」
だから。寝かせる。黙らせる。
”ヴィクトーリア”が保護者に隠れて外出しなきゃならない事態になってしまった以上、これはもう当たり前の”処置”だ。
「それじゃあ、行こうか。クリス」
「はっ。どこまでもお伴いたします」
気分は水○黄門か、はたまた遠○の金さんか。
……そういや、将軍さまはまだ現役だったな……
時代劇なんて、”俺”はほとんど視なかった……ってか、時代劇なんて、TVでやってなかっただけなんだけどさ。実際将軍さまなんて、当時”俺”が大好きだったライダーと一緒になって暴れん坊してるところしか記憶にないし。
◇◆◇
そういえば、視たことないのに何で知ってるのかって、ス○パーの時代劇専門チャンネルだったわ。ウチのじいちゃん生前好きだったんだ、アレ。ほぼずっとノンストップで実質垂れ流しだった。
そんなじいちゃんのお気に入りは、剣○商売や鬼平○科帳。同じタイトルの中にも、なんか主演俳優が違うとか、色々とバリエーションがあったらしいよ?
……って。その話は、今回全然関係無い上に無駄に長くなるだけだから、脇に置いといて。
衛兵の詰め所に向かうまでの短い間に、証拠がまぁ、ボロボロと出てくるわ出てくるわ……
なんか、急激に頭が痛くなってきた。
で。やっぱり、衛兵たちのお小遣い稼ぎを兼ねたこの”自作自演”を主導してきたのは、この国では勿論”違法”の奴隷商人。
今回使ったゴロツキどもも、その中にあるそれ専門”亜人狩り”部隊の一員だとか。調べが進んでいけばいくほど、何処までも反吐が出そうになってくる嫌な話。
そんなこんなで、結局”俺”の手元に残った【音の精霊】は、マイクのひとりだけ。
だって、問題の奴隷商人の頭目ってのがさぁ……辺境伯の分家筋にあたる子爵のご当主さまだったんだよね。困ったことに。
現在、ファとソラを件の子爵様の所へ家宅捜索に向かわせて、証拠品の押収をしている真っ最中。
さすがに音声と映像の状況証拠を並べ立てても、
『魔導具から出て来た胡散臭いモノなんぞ、端から信用に値しない』
なんて、言われるだけ。
んで。さらに言えば、平民の”俺”たちからの訴えなんか、笑顔で踏みつぶされてしまうのは目に見えている訳で。だったら、筆跡から全部一致するであろう各種書類で黙らせてやるしか、残された方法はないよね? って話。
筆跡鑑定とか、この時代はそれ専門でご飯を食べてる人の地位って、かなり高いんだ。貴族さまをも断罪できる確かな権限がなきゃ、危なくて誰もやりたがらないからね。仕方がないね。
『最悪、打ち首覚悟で辺境伯さまへ直訴してでも……』
なんて。自身の生命の危機を天秤にかけなきゃならない話。
下手をしなくても、この国が世界中の”大地の人”全員を敵に回しかねない一大事なのだから。
人が”使徒”を陥れるって、つまりはそういうことなんだ。それによって辺境伯領が終わるだけならまだマシ。
それこそ<炎と鉄の神>がこの件で本気で怒ったら、そのまま”デルラント王国”が滅んでも何らおかしくはない……そんなヤバげな非常事態。
ドレミからの定時報告によると、キングと”大地の人”たちは隔離。グスタフが暴走しかけているのを、アウグストたちが必死に宥めている状況らしい。
ああ。確かにこういう時って、暴れられる”手段”を実際持っている奴は、わりと暴走しがちだよね。
手錠なんか<次元倉庫>に入れちゃえば、両手は楽々解放。その後、武器を取り出し大暴れ。うん、やりたくなるよねぇ……って、実際ついこないだ同じ様なことをした訳だけど。”俺”も。
────頼むから、”大暴れ”だけはマジで勘弁してくれよ?
それやったら、例えこちらに”正義”があったとしても、全部終わっちゃうんだからね。
ああ、胃が痛い。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。
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