48.領都への道は一歩から。
領都への道のりは、開拓村からだと大人の足で、丸二日歩く必要があるくらいの距離だ。
まぁ途中休憩を挟んだり、何らかのトラブルを想定する必要も含めになってしまうが、少しだけ余裕をみて大雑把に大体片道三日の行程と考えるのが一般的。
だから、そんな旅程に同行するこどもの足に併せる。なんてことは、まず絶対にあり得ない訳で。
『街への物売り』
ともなれば、通常は馬車か、もしくは牛車を仕立てて行くものだろう。まぁ、この世界は<次元倉庫>なんて魔法の存在があるので、”荷物の運搬”という事情だけに言及すれば、必ずしも必須というものでもないのだが。
それでも、”<次元倉庫>に生物は入らない”という制限があるため『人も一緒に運ぶ』となれば、これ以上の選択肢は無い。中の人のお尻の安全と健康を一切度外視すれば、の話だが。
だが、そこは辺境の開拓村に住むわたしたち。そんな上等な”装備”なんか、端から所持してる訳も無く。なんせ、あの前村長の爺さまですら所持していなかったほどの贅沢品なのだ。
そもそもが”物流”なんて概念すらあるのかすら疑わしい、田舎の国の、その端っこにポツンと在る寂れた土地。
年に片手の指で数えられるほどしか往来しない”辺境伯”様御用商人が、わざわざ生活必需品の塩とともに、ずいぶんと割高な雑貨を載せ運んでくる時くらいにしか”馬車”なんて代物は、お目に掛かる機会がなかったり。と云うのが現実だ。
当然、こどもの”ヴィクトーリア”を同行させるとなったら、誰かが背負子で……となってしまうのは、もう仕方のない話。
「でもさ、それでなんでわたし、お爺さんの肩の上にいるのさ?」
「決まっとろうが。その背負子すら、あの村にゃ無かったんじゃからのぉ」
ンなわけあるかい! 薪とか、その他色々運ぶのに村でも普段から使ってるっちゅーの!
微塵も心の揺らぎを感じさせないところをみると、アウグストの言葉には、何処にも嘘が含まれていないのだろう。だが、それは彼が台詞のどこかに『わしが背負うことのできるサイズの』を意図的に省いて、というだけの話。
てゆか、木工、鍛冶、彫金、裁縫、機織り、革細工……痒いところにまで簡単に手が届くほどに各種職人が揃った”大地の人”の集団を束ねる”長”が、そんな台詞を吐いて良いと思っているのか? という疑問が。
『材料揃ってンだから、無ければ作れや!』
って、声を大にして言ってやりたい。
こないだ強引に肩に載せられた時に出した、
『アンタの筋肉がゴツゴツと当たって、微妙にお尻が痛いんだけどっ!』
そんな苦情にしっかり対応して、今回ふっかふかの座布団を用意してくれたことには、ちゃんと感謝するけど。てゆか、これが用意できるならさ、それこそ”ヴィクトーリア専用”。みたいな、そんな上等な背負子も作れたんじゃねーの? って話。
「お嬢ちゃんは、道中ずっとわしらが見ているものとは違う景色を眺めたかったと云うのか?」
「……ああ、そういうこと。お爺さん、ありがとね」
くっそ、そんなさり気ない優しさを見せてきやがるとか反則だろ。ちょっとだけ惚れそうになっちまったぜ。うん、ちょっとだけ。
他種族なのに、そんな身内よりよっぽど身内らしい細かな気遣いをみせたアウグストを、嫉妬混じりの羨ましげな眼でじっとりと見つめる瞳がよっつ。ウチの”じぃじ”と”ばぁば”だ。
今回の”領都行き”に”俺”が同行するに当たって、まぁ、揉めに揉めたのは今更な話。
キングこと王 泰雄と、クリスことクリスティン・リーの【クリスタル・キング】のふたりの”報酬”でもある”竜の鱗”……まだこの設定が生きてたのを忘れかけていたのは秘密。を換金するために……っていう名目。
これにはじぃじが猛烈に反対してきたけど、現村長は、それを勝手に袖の下として使いやがった”前科”がある以上、その言葉は虚しく響くだけに終わった訳で。
で。当然ばぁばも同時に猛烈に反対。(俺の指示で)クリキンのふたりに言わせた、
『我らもそろそろ”現金収入”が欲しいのですが……』
の言葉の前には、二人とも折れるしかなかった。そりゃあ老夫婦に纏まった現金が無いの、”俺”知ってるからねぇ……
”ヴィクトーリア”の護衛に、酒造りの指導に、酒造りに使った穀物の代替え食糧の拠出に……と、村長の立場からも”ヴィクトーリア”の保護者の立場からも、彼らクリキンに頭が上がらない二人は、ここで完全に折れるしかなかった。だから、”俺”はあえて言わせたんだけど。酷い奴だね、ホントに。
で。ばぁばが半分意固地になって着いてくるって言い出して更に揉める、と。
そんな話を、目の前でしちゃったもんだから、”マーマ”まで、
『私も着いていくっ!』
……なんて。
傍目から見て、
『オメー、ちったぁ歳考えろや』
ってくらいに、みっともないレベルで散々ゴネにゴネた。彼女の有り様は、まるでデパートでオモチャを買って買ってと強請り床に寝転がってじたばたするこどもレベルだったと、ここに明記しておく。
だが、治療院にいる他の<回復術士>の面々が、忙しさを理由にそれを絶対に許さなかった。ぐぬぬとしながら”マーマ”はここで折れる。
でもやはり危険が伴う道中を心配してか、せめて<回復術士>を一人は連れて行けと、オットーを付けて送り出してくれた。
そんな彼の<回復術>の技量は、所詮擬きしか使えない”俺”の眼から見ても、正直微妙だ。
それでも<魔法と自然法則の女神>の怠慢によって、”世界”に拡散した魔術<走査>と、”細胞分裂と活性化の概念”のお陰で、幾分かマシにはなっているが。それでも”俺”は、絶対に彼に生命を預けたいと思わないけど。
……そんな訳で、開拓村からは”俺”とふたりの老夫婦に、クリキンのふたり。それと村長の護衛3名と、回復術士のオットー。”大地の人”からは、長であるアウグストとその妻アーダ。護衛兼<次元倉庫>持ちのグスタフと、気が付けばかなりの大所帯に。
「これだけ”規模”が大きくなってくると、野盗どもに要らぬ眼を付けらてしまうでしょうなぁ」
「……だねぃ」
キングがポツりとそうボヤく。長年”冒険者”をやってきた”俺”の経験則から云っても、彼のこの言葉に頷いてしまう。
護衛含む10名を超える規模の商隊は、それなりに”高価な荷”か、もしくは”大量の物資”を運んでいるものだ。そうでなければ、費用対効果に見合わないのだから、これはもう仕方のない話。
ましてや、ここ”デルラント王国”は、お隣西風王国とは違い、過去に奴隷として家畜同様の酷い扱いをしてきた彼ら”亜人種”たちに対し、”帝国”ほどではないが多少偏見の眼が未だ残るお国柄でもある。
そんなこの国でも現在は明確な犯罪扱いとなりはしたが、未だ”亜人狩り”が公然と行われている……なんて噂もチラホラと辺境にまで聞こえてきているくらいには、彼ら”大地の人”にとって危険な土地だと云える。
……なんで、そんな危険な国に、自分とこの”使徒”を送りつけてきやがるのかねぇ、<炎と鉄の神>は。
これが、ただ単に”俺”の作る酒欲しさによるものだったら、また殴る理由の追加だぞ? 解ってンのか、おい。
今回は、何も無ければ良いけど、ねぇ?
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