46.酒に釣られてやってきた。
「はい。これで”原酒”ができました。あとはこれを最低半年ほど寝かせることで、味と香りが出てくるでしょう」
村長の発した鶴の一声によって、村の中でずっと囁かれ続けてきた【クリスタル・キング】への云われなき迫害と追求の声は、これで表面上一旦鳴り止みはした。
だが、閉鎖的な寒村というものは、元々が”身内”だけで固まり身を寄せ合って生活している以上、”冒険者”に対して過敏に反応する妙な空気が出来てくるのは、どうしても否めない。
────だったらどう対処するか?
なっちゃうしかないよね、”身内”に。
つまりは、そういうこと。
今回”俺”が採ったのは、そういう一石で何匹でも鳥を一気に攫っちゃおうって強引なやり方。
消毒用アルコールの生産を押し付けつつ、更には村の現金収入の機会を作り、そしてクリキンのふたりを村に馴染ませる。そのついでに<炎と鉄の神>の無理難題にも応えちゃおうって。まぁホントに酷い奴よな、俺ってば。
でも、そのために、結構色々な無茶もしたんだけどね。
村人の食い扶持から強引に”芋”と”大麦”を取り上げた形になっちゃった訳だから、その間の代替食糧を【アイテムボックス】内にある大量のストックから提供したりとか。
これさ、今思えばかなり危険で細い橋をスキップしながら渡ってた様なもんだったなって……出所がバレたら、その時点で”ゲームオーバー”だったよ。あぶねー。
<魔法と自然法則の女神>に、ワイン酵母と、向こうの世界の麹菌、もしくはそれの性質に限り無く近い種をくれないかと強請ってみたり。かなり渋られたけど。
『自然法則を司るワタシ自らの手で生態系を壊せ。そう言うのかね、キミは?』
……なんてさ。そこはもう全力で土下座をしたし、新たな魔術ってか、効率の良い<回復術>の術式……というか、”細胞分裂と活性化の概念”と引き替えで強引に頷かせた。これをちゃんと理解していれば、多分”マーマ”クラスの術者だったら、<女神の錫杖>の補助が無くても失った腕を生やすくらいは今後普通にできる様になってくると思うよ。
そして、今回半分……いや、もう殆ど全部か。”俺”のスピーカー役に徹してくれたキングこと王 泰雄がすぐに答えられない様な質問とか村人から飛んだ時に、裏に隠れふたりでワチャワチャしてみたりとか。
クリスことクリスティン=リーがあとで苦笑いしながら教えてくれたんだけど、その時の俺たち、なんかすっごく解り易いくらいに狼狽えていたらしいよ?
だって仕方無いじゃん! ”俺”だって美味○んぼやら漫画で得た程度の知識しか持ってないんだからさぁ。
で。麻酔用途で主に考えていたアルコールだけど、耐性の無い人にはかなり危険が伴うよ。と【鑑定】が何度も警告するもんだから、現在使われている麻酔用の丸薬の改良も一緒にやることに。
揮発性の高い水薬にするのが一番効率良いと思ってたんだが、【ギフト】がそう言うなら仕方ないよね。
てゆか、考えてみたらこっちが”本命”だった。はずなんだけどなぁ……それがなんで酒造りにって話に化けたんだろ? てか、みんな<炎と鉄の神>が悪いだけった。
絶対あとで奴を殴ろう。それこそ、力の限り全力で。めいっぱいに音高く。
ま、今はそれを置いといて。こいつがかなり難航した。
一番効率の良い”素材”が、村近くの森の奥に棲息する植物系魔物から採れるんだけど、相手が植物なんだから当たり前の話だろと言われればその通りだが、こいつ【呪歌】が全く効かねぇんだよ。
……ホント、必死だったね。
キングは酒造りの方に完全に持って行かれてしまってるから、クリスとふたりで採取を頑張ったよ。お陰で、”俺”もそれなりに<剣舞闘士>の戦い方をマスターできたんじゃないかなってくらいに。
まぁ、
『”俺”氏、適切な得物が手元に無い問題』
が、知らぬ間に解決してたからできた話なんだが。
本当に<炎と鉄の神>とは一度腹を割って話をしないといけないのかも知れない。
ついこないだ<戦と武器の神>までもが”俺”の夢枕に立って、”刀の魅力”について一方的に熱く語っていきやがったし……
で、その熱い語り通りのトンデモ武器が【アイテムボックス】に送りつけられてきたし。
その”得物”を見てふと思ったんだが、奴らには”自重”という概念そのものが存在しないみたいだ。まぁそのことに付いては、いつか語れる日が来ることもあるだろう。
そして、今回”俺”の生命線でもある【呪歌】が効かないなんて事態になったせいで嫌でも思い知らされたが、白兵戦に関して”ヴィクトーリア”の基礎体力の無さという根本的問題が、いつまでもいつまでも付き纏ってくることが露呈。だけど、こればかりは年月でしか解決法が無いので諦めるしかない。
食う、寝る、鍛える。それで、あとは身体が育ってくれることを祈る。
取りあえず、芋焼酎の原酒と、ブランデーの原酒はこれで出来上がった訳だ。ウイスキーに関しては、材料の大麦だけは一応確保したけど、まずは麦酒の作り方を”俺”が思い出してからってことで……
あとは”熟成”という長い行程を挟まねばならないが、焼酎に関しては最低半年、ブランデーはそれこそ年単位だ。
だが、これでようやく村の酒造りが”俺”の手から離れる訳だ(ウイスキー造りに眼を逸らしつつ)。販売やそれの営業に関しては、俺はもう知らん。それくらい村長がやれって話。
で、村に要求した”報酬”は、原酒の入った樽各種一つずつ。
あとはこいつをあの<酔いどれ神>に送りつければ、ミッションコンプリートだ。
今度はウィスキーも作れって言われそうだけど、その時はその時。今回の蒸留器と”得物”の分はちゃんと働いたんだし、これで許せ……てゆか、あんニャロ約束を破りやがったんだから、今回限りですっぱりと縁を切りたいってのが本音だが。
『ここで”火酒”を造っておると聞いて』
そしたらある日、そんな声と共に開拓村に移住希望。とやってきたのが”大地の人”の男女総勢20名。
────てか、なんで?
この村の蒸留酒は、未だ世に出てはいないし、ましてや”営業”すらまだかけていないってのに。なんでそのことを知ってるんだよって。
あとでキングに詳しく事情を聞いてみたんだが、どうやら大地の人の代表……アウグストは”神託”に従ってこの村を訪れたのだとか。くそ、あんニャロめっ! 切ろうとしてた縁を無理矢理繋ぎにきやがったっ!!
……で。どうやらその神託とやらの時、この村で造った酒とやらを、一口だけ試飲させて貰えたんだそうで。それが刺激的に超絶美味かったのが移住希望の決め手になったんだとさ。
『時間をお主が気にする必要はない』
────って、おい。何が『神理に反する』だ! テメー思いっきり嗜好品に”権能”使っとるやんけ!!
<炎と鉄の神>を殴る理由、増えちゃったなぁ……その時は、全力の蹴りも加えてやる。絶対にだ。
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