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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
43/124

43.気不味い雰囲気に山羊乳はよく合う。

2024.12.05 設定ノート見て慌てて39.40.を修正。回復術士見習いはマルセルとスサンナのふたりです。




 ……しかし、なんだなぁ。



 「ほらっ、ヴィー。このお菓子も食べる? これ、お隣の村長さんからの貰い物なのだけれど……」


 「うん。”マーマ”、ありがとう……」



 ばぁばに連れられて、治療院(ここ)に転がり込んできてからというもの。なんか、”マーマ”(ヴィルヘルミナ)の態度が豹変したっていうか……


 ”わたし”は多分困惑しているだろうし、”俺”の感覚だけでモノを言わせてもらえば。



 『気色悪ぃ』



 正直、この一言しか出てこない。



 今まで散々自分から”我が娘”を避けに避け続けてきた癖にさ。一体何が彼女の態度を、ここまで変えてしまったというのか?


 さすがに、こちらから、



 『なんで? どうして?』



 なんて。本人に直接訊ける訳もなく────




 「ねっ? ねっ? ヴィー、美味しい?」


 「……うっ、うん。あンまぁい……」



 こうやって()()()()()()振る舞って見せ、何とか無難に繕い誤魔化すくらいしかできないっていう。



 てゆか、()()()()お菓子って、何時の時代も本当にクッソ不味ぃったら。


 精製技術があまりにも拙いせいで、雑味と臭みだけがモロに出てしまっている粗末な砂糖を、まるで親の敵の如くこれでもかってブチ込まれ出来た焼き菓子は、暴力的な甘さと植物の持つ独特の青臭さとえぐみが全面に出ていて、そこにさらに焼き加減の調節も録にできない職人の技術の無さと設備(オーブン)の清掃を怠ったのが主な原因だと思うが、隠し様の無い焦げ臭さまで混じる凄まじさ。


 さらに頼んでもいないのに【神の舌(ギフト)】が()()()の素材一粒一粒までをも繊細に味わい尽くしやがるもんだから、この一口がもはや拷問にも等しい。


 てか、何故この【ギフト】にだけON・OFF機能が存在しないんだ、一体何の嫌がらせだよ!


 また”運命の神(あのバカ)”を殴る理由が増えてしまった。力の限り全力で。めいっぱいに音高く。



 で。そこに来て、”マーマ”による母性全開の”精神攻撃”だ。


 もうやめてっ! ”ヴィクトーリア”の舌と精神のHPはもうゼロよっ!!



 ああチキショウ。赦されるものなら、マジで今すぐここから逃げ出してしまいたい……



 こういう時に限って、キングこと(ワン) 泰雄(タイシオン)と、クリスことクリスティン=リーの【クリスタル・キング】のふたりの察しの良さと、妙に高過ぎる忠誠心が逆に仇になるっていう……ホント、マジデ、タスケテ。



 ……って。アイツら、まるでお見合いの席に現れる仲人レベルにお節介が過ぎるよ。



 『ここは、若いお二人だけで……』



 なんて。



 空気読めなさ過ぎ。いつの間にか、”マーマ”とふたりっきりになってっし! てか、”ヴィクトーリア”護衛の”契約”忘れてンじゃねーぞっ!!



 ねぇ? ”俺”から何を話せば良いってンだよぉっ!



 ああ。誰でも良いから、この”空気”を今すぐぶち壊してくれぇっ!



 「ヴィルヘルミナ(せんせい)っ、急患ですっ! 魔物にやられたそうで、左肘から先を失っていますっ! 至急、”処置”をお願いしますっ!!」


 空気の一切読めない”無敵の娘”、<回復術士(ヒーラー)>見習い兼、看護師長のスサンナが、(俺が感じているだけかも知れないが)気不味い雰囲気漂う院長室に無遠慮に凸って来てくれた。


 ありがてぇ。今はこの娘の”無敵”のお陰で救われたよっ!



 「……ちっ! ごめんね、ヴィー。マーマ、ちょっと行ってくるから。良い子にしてるのよ?」


 「うんっ」



 ────うっへ。ヴィルヘルミナ、思いっきり舌打ちしたぞ。しかも文章で表したら”!”が何個か付くレベルの凄い奴。


 おいおい、”辺境の聖女”さま。それはよくないんじゃないかなぁ……?



 「”マーマ”。いってらっさーい」


 「うんっ。マーマ、頑張ってくるからねっ!」



 所々お焦げが目立つ不味い焼き菓子の残りを口の中に放り込んで、これまた生臭く、これっぽっちも美味しくない山羊乳で強引に胃の方へと流し込む。


 山羊乳って、温めると余計に生臭さが引き立つもんだから、本当にキツいんだよねぇ……慣れてない人だったら、多分嘔吐くと思うよ。


 ファンタジー小説を読んで”憧れのひとつ”だっただけに、飲んだときのガッカリ具合は、かなりの物だったのを少しだけ懐かしんでみる。



 (やっぱり、”この世界”に来たこと……今も、少しだけ後悔してたり、な)


 「増血の薬、まだ残りあったわよねっ?! それと、清潔な布とお湯っ。沢山用意しといてっ! あればあるだけ良いからっ!!」


 白衣を身に纏い、スサンナに急かされながら慌ただしく部屋を出て行くヴィルヘルミナの後ろ姿を見送りながら。もう今更過ぎることを、心の中で呟いて。




 ◇◆◇




 対象の身体の中を(つぶさ)に観察する目的で”俺”が独自に開発した<走査(スキャン)>という魔術を”世界”に拡散するため、<魔法と自然法則の女神(マギカ=ゲゼッツィー)>が取ってみせた、



『こちらの好きにやらせて貰っても構わないかね?』



 の手段は、一体何だったのかと云うと。



 「<走査>……血管も神経もダメね。仕方無い、傷口周辺を少し削るわよ」


 「……はっ」


 簡単に言ってしまえば、<回復術士>を名乗る者たちの基本というか、”前提技能”として知らぬ間に彼らの脳内に直接インストールしていたってオチ。


 神さまひでぇや。ちょっと面倒臭かったからって、そんな強引なこと平然とカマしやがるんだからさぁ。


 【呪歌】を広めるためにずっと頑張って来た”俺”(シング)の苦労は一体何だったんだ? って言いたくなるよ、マジで。


 挙げ句、もっと多くの人間に。そして”世界”へと拡がることを期待して育て上げた”弟子”どもに俺は殺され、その大半が失伝してしまう結果になってしまったとか、本当に欠片も笑えない。


 このことを<本と知識の女神(インディグレイス)>に抗議したら、【呪歌】も同じ様にやってくれねぇかな? なんて、さすがにそんなことしちゃ【クリスタル・キング】のふたりに申し訳無いか。【呪歌(これ)】を餌に、すでに三ヶ月近くも彼らを拘束してるんだし。


 でも、せめて次の春を迎えるまでは……彼らクリキンには、”わたし”の側にいて欲しい。そう思ってるんだけど。


 「<深層睡眠術(ディープ・スリープ)>」


 <魔導士(ウォーロック)>が持つ魔術レパートリーの一部が使えるヴィルヘルミナは、こういった”手術”にあってこそ、真価を発揮する。


 基本、<回復術士>は、傷口を塞ぎ、癒やすこと()()しかできないからな。


 魔物に食いちぎられてできた傷口は、そのままでは縫い合わせることはできない。


 傷口を清浄し、肉や神経を綺麗に切りそろえてやらねば、満足に縫合もできないのだ。当然、そんなのを()()()()()できる訳がない。


 この世界にも、痛みを抑える為の薬が古来から存在するが、それは気休めにもならない拙いものだ。


 ここの<回復術士>たちが独り立ちするには、()()()大きな壁のひとつになってくるだろう。


 今度、蒸留器でも作ってやるかなぁ……?


 この世界にある消毒用の酒精も、その度数が低過ぎるため除菌性能は大して無い。アルコール度数を高めてやれば麻酔用にも、消毒用にも絶対に用途は多くあるはずだ。


 ただし、麻酔に使用する場合は注意が必要だが。耐性が欠片も無い人は逆にそれによって死んでしまう可能性があるし……


 <走査>を広めたお陰で、”マーマ”が出張らなきゃならない事案が多少減ってきたのだ。


 ヴィルヘルミナの負担を減らし、彼女の自由時間をもっと多く作ってやる。


 それくらいしてやれなくて、なにが娘だ!


 落ち着いた時間ができれば、”俺”も少しは”マーマ”と正面から向き合えるんじゃないかな。


 さっきは、その、なんだ……


 不意討ちに近い状況だったから、ああなっちゃっただけで。



 だからね。



 今回の件で<本と知識の女神(インディグレイス)>は、出て来なくて良いからね?




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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