42.”わたし”置いてきぼりの”わたし”の物語。
誤字報告ありがとうございます。何度も助けられてます……
前村長の次男ランベルト主導による、現村長の孫ヴィクトーリア誘拐の一報は、またもや開拓村に衝撃と震撼を与えた。
いくら何でもトラブル多すぎだろって声も”俺”の元にまでチラホラと聞こえてくるが、全部前村長の関係者どもが一方的に悪いんであって、我が家はずっと被害者だっての!
そしてその後、犯行グループの隠れ家(前村長の実家だから言い方に色々と語弊あり)に、村長の孫の側に仕える”冒険者”たちが突入。被害者たる”ヴィクトーリア”孃救出と同時に、実行犯どもを制圧した。
その当時の現場の詳細が明るみになるにつれ、各方面からは続々と批判意見が上がってくる様に。
その中でも、主犯格のランベルト以外の手下ども6名が全員死亡した。というその事実が、特に一番不味かったらしい。
ヴィクトーリア孃救出の為に前村長宅に突入した。ことになっている冒険者【クリスタル・キング】のふたりには、
『やりすぎだっ! なんで犯人たちを生け捕りにしなかったのだ!? 彼らだって、村の仲間だったんだ。きっと、ちゃんとした主張があったハズだっ!!』
……なんて。そんな巫山戯た声までが。
元々、排他的な空気が支配するこの辺境の村で。
冒険者だという、ただその一点によって嫌われてしまうとか。傍から聞くと、本当に馬鹿馬鹿しい話でしかないのだが。
『やはり余所者なんかにゃ、ここの空気が読めるわけねぇんだよ。平和なオラが村を散々っぱら荒らしやがって……』
少し時間が経つと、ヴィクトーリアは黙ってランベルトに殺されていれば良かったんだ……みたいな、そんな極論にまで走る奴が出て来る始末だ。ホント、胸糞だね。
「なんか、ごめんね。ふたりとも全然悪く無いのにさ」
「いえ、お気になさらず。所詮我らは”流民”でございますので。嫌でもこの手の声には慣れてしまいます」
”契約”のためだったとはいえ、元々ふたりは、こんな辺境の村に押し込めていて良い人材ではない。それだけに、個人的に申し訳が立たないのだが、彼らは実にあっけらかんとしていた。
まぁ、キングだけは多少……いや、色々と歪んじゃった気も、しなくは無いんだけどさ。個人的に。
当人たちが特に気にしていないのであれば……なんて。そんな甘いことなんか言ってられない。
だって。
「”冒険者”のお二人には、早急にこの村から出て行っていただきたい!」
村民たちの声が徐々に大きくなってくれば、当然出て来る村長さん。
わざわざこのことを言いに、”マーマ”の治療院にまで出張ってきたよ。
「お断りいたす」
それに対するキングこと王 泰雄の返答は、極々短い。
「……村長殿。何度も申しますが、我らは”流民”。元来、村の仕来りだの、柵みだのという煩わしきモノの束縛を嫌ったからこその存在でございますれば。その様な戯言、はっ。聞く耳なぞ端から持ち合わせてはおりませんな」
キングが歪んだ直接原因だからか、ヘンドリクに対する溜息交じりの言葉には、容赦も礼儀も最初から欠片も無い。
「それに、現在の我らは”契約”に縛られておりますので。であれば、我らを村から追い出したい村長殿御自ら、我らが”雇用主”に直接おっしゃられるが筋でございましょう? どうぞ、言えるものならご自身の大事なお孫さんに、言ってごらんなさいな。『今度こそ、この村から出て行けっ!』……と」
「ほざくかっ!」
キングの挑発に易々と乗り、腰に差した小剣を抜き態椅子を蹴倒し立ち上がるが、村長はその切っ先をキングに向けることはできなかった。
「……お静かに。現在ご主人さまは、お昼寝の時間ですので」
クリスティン=リーが、激高した村長を瞬く間に制圧し、地に組み伏せてしまったからだ。
……って、”わたし”寝てないんだけどね?
すぐ近くで気配消した上で<光学迷彩>かけて見てるし。しかも、かぶりつきで。
「きさまらっ! この村の長たるワシに、なんたるっ! 絶対にっ。絶対に、この村から追い出してやるからなぁっ!」
「……だから、お静かに。ワタシは、そう申しましたが?」
クリスは地に倒したままの村長の首へ太い腕を回し、じりじりゆっくりと締め上げる。
「ぐっ、おおおおおおおっ……」
「静かにせぬのならば、ワタシはこのまま貴方様を絞め殺して差し上げてもよろしいのですよ? 所詮こんな辺境の片田舎に住む老爺如き。ひとり寂しく死んだところで、きっと誰も困りはしますまい」
「なっ……ん、だっ、と」
「ああ、村長殿。”護衛”の方々を充てにしておるのでしたら、申し訳ない。すでに”制圧”しております」
キングが残念そうに呟くと、そこでようやく村長は抵抗をやめた。村の自警団の中でも腕に覚えのある面子を連れてきたところをみると、ヘンドリクは最初から力尽くを想定していたらしい。
……しかし、”身内”のこんな無様な姿を見ても、何も思わないんだから、本当に”じぃじ”とは切れちゃったんだなぁって。ホント、残念に思うよ。
元々情が薄い人間だなという自覚はあったけど、逆に皆こんなモンなのかなぁ?
「……ワシに逆らって、この村で生きていけると思うなよ」
クリスの”肉の牢獄”とも形容したくなる無骨なる関節技地獄から解放された村長が、彼女の間合いを離れた直ぐ様悪態を吐く。もうやめてくれ、益々情けなくなってくるから。
「……へぇ。私に逆らって村が成り立つと自惚れているというのなら、やってごらんなさいな。なんなら、私たち<回復術士>も全員、彼らと一緒にこの村を出ていってあげても良いのよ、父さん?」
「なっ……そっ、それは困るっ!」
突然の娘の登場と、その言動に驚く村長。てか”俺”も冗談抜きに同じくらいの驚きと衝撃が走ってると思う。
まさか、”マーマ”がこちら側に味方する言葉を発すなんて……
ヴィルヘルミナの治療院は<回復術>による治療だけでなく、きちんとした薬学に基づいた調薬をも行っている、らしい。
そういえば、薬草の知識全般は、生前”俺”が口酸っぱく彼女に講釈垂れまくってやったもんな。【鑑定】っていうカンニングで、だけど。それをちゃんと覚えていてくれて、また活用してくれていたというのなら幸いだ。
<回復術士>なんてのは、基本都市部の片隅でボッタクリに近い料金を請求し、テキトーに流すいい加減な奴らたちのことを指す。
だが、医者不足に喘ぐ地域医療を一手に担うこの治療院は、辺境にとって、それこそ神にも救世主にも等しき存在だ。
実際、ヴィルヘルミナは”辺境の聖女”なんて呼ばれ方もしてるとかって話を小耳に挟んだりも……正直、うえぇ。ってなったけど。
まぁ、そんな治療院の長と敵対するということは、この地域の人間全員を敵に回すのに等しき愚かな行いという訳だ。今や前村長の魂の双子へと成り果ててしまった現村長に、そんな選択肢を採れるほどの蛮勇なぞ、端からある訳も無い。
「だったら、今後一切彼ら”冒険者”には絡んで来ないで頂戴。彼らは、あの子にとって大事な人たちなの……私たちと違ってね」
何で?
そんな辛そうな顔をして、そんな悲しいことを言うんだよ、お前は……?
本当に、全然訳が分からないよ。なんなんだよ、ヴィルヘルミナは。
”俺”は、一体何を信じれば良いんだ? 教えてくれ、<運命の神>さまよぉ。
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