41.推理小説を最後から。
思った通り、”ヴィクトーリア”誘拐の主導したのは前村長の次男ランベルトでした。
ああ。つまらん、つまらん。
まるで推理小説の帯に、
『犯人はヤス』
って書いてあるくらいに、あってはならないレベルでつまんないオチ。
「お前、まだ持ってンだろ? ホラ、出せよっ! 竜の鱗をよぉっ!!」
……ただ、その動機ってのが”俺”の予想を、ほんの少しだけ潜ってきたんだけど……思いがけない斜め下の方向へ。
しかし、このおっさんもやっぱりあの前村長の息子さんだったってことだね。そんな思考回路が瓜二つだよ、本当に。
ヴィクトーリアを攫ったのは、まず”竜の鱗”が第一目的で、そのついでに人質としてちらつかせ、ヘンドリクを裏で操って村の実権を握る……って、そのつもりの犯行だったらしい。
そんなのを数え5つの幼女に向かって得意げに語るおっさんの図……そもそも相手がそんなの理解できるかよって。てゆか、少しは冷静になって考えてみろよ。悲しくなんねーの?
……って、正面切って言ったら泣くカナ?
その前に。
もし仮に、ランベルトの言う通りヴィクトーリアが”竜の鱗”をまだ持っていたとしよう。
そもそも、こんな貧しい片田舎の開拓村にゃ、そんな貴重品を換金できる施設も無ければ、それを活用できる技術を持った職人も、また設備も無い。というか、”需要”自体無いのだ。
であれば、どうする?
普通に考えて、村長就任の認可と、騎士爵叙勲を受けに領都へと出かけて行ったヘンドリクが全て抱えていると考えるのが、むしろ当然ではなかろうか?
(こいつ、何処かあたまおかしいよ……)
まぁ、そんな損得と理屈を抜きにしても、少なくとも”俺”がヘンドリクの立場なら”竜の鱗”なんか、こどもの手から絶対に取り上げる。危険な奴に眼を付けられちゃう可能性が捨てきれないんだから。
というか、実際に今回それ目的で誘拐されちゃった訳だしね。
……しかし、どこまでもどこまでもたったひとつのやらかしから色々派生して、知らぬ間に大きく発展していきやがる。ホント、なんなんだろうね、一体?
まるで、こどもの頃ちょっとした嘘からどんどん状況が悪化し、そこからさらに嘘に嘘を重ねに重ね、最後どうしよもなくなった時の状況の様だ。あの時の”トラウマ”を鮮明に思い出し、わりと重めの目眩と吐き気がしてきた。
「もってない。”じぃじ”に、ぜんぶあげたモン」
こんなの相手に嘘を吐く”罪悪感”なんて、端からある訳無い。我が身を守る為ならば、”俺”はいかなる手段も取るさ。
ましてや、どうせこの手の輩なんてなぁ……
「嘘言うんじゃねぇっ! どうせ何処かに隠してやがンだろ。さっさと言いやがれぇっ!!」
自分の考えに固執しまくって、端から聞く耳持ちゃしねぇんだから。
で、当然この手のチンピラってのは。
「ぐぅっ……」
「ちょっ、待ってくだせぇ。村長ンとこのガキを殺っちまったら、流石に不味いですぜ……」
「うるっせぇ! だったらおめぇらが上手い具合吐かせてみせろっ! ガキを殺さない様によぉっ!」
……口と同時に、手や足が飛んでくると。今回は足だったね。
傍目からは派手に吹き飛ばされた様に見えただろうが、あくまでもそれはフリです。短いおっさんの足に併せ、ちゃんと後ろに跳んでしっかり威力を殺してるよ。
とはいえ、これが何度も続く様なら、ゲームみたいに基礎体力を数値で表せば精神・知性系以外未だ全部一桁の幼児の肉体。最後はまともに食らって死ぬのは目に見えてる訳だけど。
「ほれっ! 言えよっ! ”竜の鱗”は何処に隠してんだって、聞いてンだろうがっ!!」
そんな短い足を勝ち誇った様に振り回して。何なんだよ、ガキんちょ相手に恥ずかしくねぇのかよ、おっさん。
こいつもきっとベルンハルトやフィンと同じで、ずっと甘やかされて育ってきたんだろうね。身体からは、何の技術も鍛錬の匂いも一切感じない。避けるだけなら容易だ。
「避けるなっ! ガキが生意気なんだよぉっ!!」
でも。
……こんなつまんないことで、痛い思いをしたくないし。当然、死にたくもない。
だから、自重やめるか。
「痛ぇっ! なんだ? 急に足がっ……」
「え? なんで……縛ってる、のに?」
両手を拘束していた粗末な縄なんぞ【アイテムボックス】の前には、なんの意味も無い。収納しちゃえば、それで済む。
で。”俺”の両手には、前世の俺が最期の時まで手にしていた投擲用短剣が。今の”ヴィクトーリア”が手にできる丁度良い”得物”が無かったんだから、こればかりは仕方無い。
「こうして”わたし”を攻撃してきた以上。反撃される覚悟くらい、当然、お持ち……なのですよね?」
あの時、お前の息子にはそれが無かった。無かったから、殺すつもりで蹴った。
お前は? 無いのか、あるのか。どっちだ?
もし、無ければ。
────その時は、絶対に殺すぞ?
【音の精霊】たちを展開する。
【クリスタル・キング】のふたりを呼びに行ったマイクが不在だけど。それでも今なら最大九重奏の【呪歌】の発動が可能だ。今なら神さま相手にだって、<古代竜>相手だって。全然怖く無い。
さぁ、返答は?
お前さんの、覚悟は?
◇◆◇
「ああ、ご主人さま。ご無事でしたかっ?!」
「申し訳ありませぬ、<継承者>殿。我ら、護衛失格でございます……」
「ああ、大丈夫。気にしないでね、ふたりとも」
今回は、完全に”俺”の油断が招いたつまんない事故だったんだから、最初から気にする必要は無いのに。
ふたりはむしろパワフルばぁばの犠牲者なんだから、逆に”俺”の方が頭を下げなきゃなんないのだ。ばぁばの相手なんてのが、そもそも契約外なんだし。
今回の一件。結論だけ言うと、ランベルト”は”死ななかった。
手下共々、投擲用短剣で散々滅多斬りにして、九重奏による<生命の賛歌>で証拠と云う名の”外傷”だけを奴らから消し去ってやったのだが……
やはり中年太りのおっさんの持つ皮下脂肪の厚さ、侮り難し。手下の半分は【呪歌】の影響で”餓死”し、残りの半分は傷が癒えるまで体力が保たず、途中で失血死。その中でランベルトだけが生き残りやがった。
新曲の実験も兼ねたこの”仕置き”の結果には概ね満足だが、やはりこの【呪歌】は、もう少し改良が必要なのかも知れない。癒やすつもりがそのまま対象に死なれては、やはり”治癒回復”が主目的の曲だけに、本末転倒感があって色々と困るのだ。
現場は勿論【浄化】で、綺麗に清掃済みです。血痕どころか、血の臭いだって欠片も残してないよ。
「……そうですか。それはようござんす。ですが、これは申し訳ついでの話にございますが」
キングこと、王 泰雄が、どこか言い難そうに続きの言葉を濁す。
「なに? どうしたの、キング?」
「ヴィーっ!」
声と同時に、キツく抱きしめられる感触。
最初、それは心配して駆けつけてくれたばぁばからの抱擁なのかと思ったけど、薬草と、消毒用酒精の匂いの混じった、覚えの無い匂いがそれを徹底的に否定する。
……でも、なのにどこか懐かしい匂い。これは何?
「……えっ? なんで、”マーマ”が……?」
「ああ。ヴィー、ヴィーっ! もうっ。心配させてっ!」
だから、なんで? どうして?
この二つの言葉だけが、今の”俺”の脳内を悉く埋め尽くした。
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