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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第一章 俺は今までこうして生きてきた
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4.もう”自重”は必要ねぇ。




 「ゆけっ! 何としても奴の息の根を止めるのだっ!!」



 しかし、化けの皮が剥がれた悪役ってなぁ、何でこうも一様に同じ台詞を吐きやがるのかねぇ。


 まぁ、それは良いか……できれば、俺の腹がいっぱいになるまで待っていて欲しかったのだが。

 たぶん、もう二度とこの味にはありつくことができないのだから。


 ……仕方無ぇ。


 「てめぇら”盗人”如きに、簡単にくれてやれる首じゃあ、ねぇんだよっ!」


 毒入り鍋を引っ掴み、盗人の首魁(カスペル卿)の方へと、それを力を込め思いっきりブン投げる。

 おー。

 【鑑定】の結果では、あの中には強力な麻痺毒が大量に含まれている……んだとさ。

 少量でも摂取したら、呼吸さえ困難になるレベルの神経毒だとか。恐ろしいねぇ。


 もしかしてアレを用意したのは、野伏(レンジャー)タマーラかな……

 あいつの”趣味”だけは、本当に理解できない。する気も無いが。


 「うぎゃぁああああああああ!」


 「「「ぼっちゃまっ!」」」


 だったら、熱々の()()()()を浴びちまったら……結構楽しい事になりそうだな。


 沸き上がる悲鳴が大変心地良い。ざまぁって奴だ。


 毒鍋を投げた勢いと混乱を利用し、俺は”囲い”から抜け出すと同時に、護衛どもへと投擲用細短剣(スローイン・ダガー)を次々に投げ付ける。


 腰に吊した片手剣は、神話級の、確かに結構な価値とそれ以上の権能(ちから)を持っちゃあいるが、ソレを扱う人間(オレ)の技量が、それこそ一般人に比べりゃちょっとだけ()()

 その程度しか持ち合わせていないので、正に宝の持ち腐れだな。

 当然、そんなのに命を預けられる様な自惚れも、度胸も。俺の中には、端っから無い。


 だったら、後はもう”物量”に頼るしか、残された手段は無い訳で。


 「ああ、本当に【アイテムボックス】様々だよっ! 自分で投げる必要すら、ねぇんだからな!!」


 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。


 ド下手で貧相な刃でだって、そりゃあ()()が”弾幕”レベルにもなれば、たとえ金属鎧の集団相手であっても、それなりの効果はある。


 地球で生きてきた頃の”記憶”のお陰で、こんなアホな戦術すら実行できちまうとか。

 ゲートオブなんちゃら……ってな。


 なんていうか、本当に……


 ある意味、この状況を楽しんでるよな、俺。


 てか、最早”自重”の必要なぞこれっぽっちも無いのだから、そりゃ後は今出せる”全力”を楽しむしか無いのだけれど。



 「っく、絶対に逃がすなっ! もう一度奴を囲い、魔法で追い込むのだっ!!」



 ……流石。


 雇い主こそは腐りきった性根をしていやがったが、腐ってもやはり相手は”騎士”だ。

 あっさりと混乱から立ち直ってみせた練度とその覚悟には、本当に見事としか言い様が無い。


 ……まぁ、元々が”大空魔竜”なんて、絶望的、圧倒的な相手を想定して組まれた集団なのだから当然っちゃ、当然か。

 その練度にも驚いたが、人員の充実ぶりもヤバい。

 たとえ誰かが重度の火傷と、ひとたび喰らえば生死を彷徨うレベルでの猛毒に陥ったとしても、直ぐ様それを癒やす技量(うで)を持つ<回復術士(ヒーラー)>を複数飼っているのだから。

 まぁ、”戦闘集団”を運営している以上、当たり前の話なのだろうけれど。


 んで、こちらが飛び道具で応戦してくるなら、そりゃ相手も飛び道具を使ってくるかぁ。

 不規則に飛んでくる魔法が結構ウザい。


 ただまぁ、飛んでくる炎の矢(ファイア・アロー)の数が少ないところを見るに、あちら側にいる<魔導士(ウォーロック)>の数がそんなにないのだけが救いか。


 でも、本当にもうね。


 それら全部を一人で相手にするのかと思うと、ただひたすらに『面倒臭い』。

 この一言しかない。


 ゲームでよくあるボス戦で、特に嫌われるパターンってのから、今回のケースで当て嵌めてみると……


 ・雑魚の無限湧き。

 ・無駄に固い()()の奴。

 ・ボス自体特に強くもないが、何度も何度も回復してくる。

 ・周囲の雑魚がとにかく厄介な攻撃をしてくる。


 こんな感じか。


 ……ああ、無限には湧いてこねぇか。

 すぐさま回復されているっぽいから、そんな風に感じるだけだったわ。


 ……てか、俺の”下手な豆鉄砲”なんかじゃ、数があんま減らせないのなら、もう他の手段で全部をいっぺんに片付けちまうしかないよな。


 「不味い。とうとうアイツら出しやがった……」


 ”脳筋”アッセルの声に、絶望が混じる。


 ……ああ、そうだ。

 そうやって少しでも俺を畏れ、敵対したことを後悔しろ。


 「ようやく出して来おったか。さぁ、ヨハネスよ。そいつを我によこせっ! 世に無二のそれを扱うは、我こそが相応しい!」


 俺の”切り札”でもある9体の【音の精霊】達を見て、カスペル卿(あほう)が何か寝言をほざいてやがるが、無視だ無視。



 俺を裏切りやがった対価、今からきっちりと請求してやるからな……



◇◆◇



 ()()を耳にして、快、不快を理解できる程度の知能が対象に備わってさえいれば、その効果は必中。

 そして、同じ曲を重ねれば重ねただけ、その影響力は倍々へと膨れあがっていくというエグい特性を持つ【呪歌】という特殊技能。


 その絶対的な”力”を、こいつらも先刻思い知ったばかりだ。


 あの上位竜(グレーター・ドラゴン)の、しかも<特殊個体(ネームド)>の無傷での単独撃破を、俺はしてのけたのだから。



 (ドレミ、ファ、ソラは俺と一緒に<女神達の子守歌>。エル、アールは俺達に<戦慄の行進曲>を。シド、セントラル、マイク、サックスは<後悔の奏鳴曲>だっ!)



 だが、そんな結果だけを見れば、まるで対処法が無い様に思える”最強の力”の【呪歌】であっても、実はどうしようもない明確な弱点が存在する。



 まず対象に、()()()()()()()()()()()()()()()、そもそも絶対に効果が現れない点。


 その為には、効果の軽い曲で最低でも16小節以上を。

 そして、かの”大空魔竜”を葬った<死神達の葬送曲>にもなると、全体で10分以上にもなる曲のほぼ全部を聴かせねばならない。


 <女神達の子守歌>は、死に至る怪我を負ったとしても曲が流れている間、対象は絶対に目覚めることのない眠りに誘う歌。これの効果が現れてくるまでの約4分間、途切れることなく歌い続けねばならない。


 <戦慄の行進曲>は、対象の反応速度を底上げする強化付与(バフ)系の曲だ。

 これの効果が現れるには最低16小節は歌う必要がある。


 <後悔の奏鳴曲>は、対象の気力というか、”意識”を落とす弱体付与(デバフ)系の曲だ。

 それが四重奏にもなれば、鎧の重さが5倍以上にも感じてしまうだろう。

 これも最低16小節以上聴かせねばならない。


 そして歌なのだから当然の話なのだが、()()()()()()()()()()効果は続かない。


 まぁ、強化付与、弱体付与曲たちの効果が現れる前の約1分前後の攻防こそが、生死の分かれ目って奴か。


 当然、凡そこの様な”多対一”の乱戦時において、発動にまで時間がかかる【呪歌】は、まともに使()()()技術だとは、正直言い難い。



 ……だから良いのだ。



 俺はすでに、()()()()()()()()


 今やってることは、いわゆる”嫌がらせ”の一環でしかないのだ。


 我ながら……


 『なんとも性格のお悪いことで』


 と思わなくもないのだが。


 だけれど、そもそも最初から最後までムカついてしまったのだから、これはもう仕方が無い。



 一応挙げてみるが、俺の”勝利条件”は……


 ・完勝……<女神達の子守歌>が発動するまでの約4分間、どうにかして逃げ切る。

 ・勝ち……奴らに貸与した全ての武器の奪還と、裏切った仲間達への報復。

 ・辛勝……出回るとちょっとヤバい武器の回収。


 ……ってところか。


 それ以外はもう全部”負け”で良いや。


 まぁ、あのカスペル卿(くそやろう)への”嫌がらせ”に関しては、ある意味もう達成している訳だし。


 ”大空魔竜”の骸は、俺の【アイテムボックス】の中だからな。


 ”荷物持ち(ポーター)”を名乗る上で必要な”前提技能”の1つでもある収納魔法<次元倉庫(イベントリ)>と、俺の持つ【アイテムボックス】との”差”は、能力者の死亡時に明確に出る。


 <次元倉庫>の能力者が死亡した際、そいつが魔法空間に保管していた全ての”荷物”が、その場に飛び出てしまうのだが、そういやこれを「アイテムドロップw」などとアホなことを抜かす品の無い輩もいたな。

 なんつーか、ホント情けないったら。


 対して俺の【アイテムボックス】は、たとえ俺が死んだとしも、俺が()()()望まねば中身は欠片も出て来ることはなく、全部来世の俺のモノになる。


 だから、ここで俺を殺せたとしても、奴らは世に<竜殺し(ドラゴンスレイヤー)>の名乗りを挙げることは絶対にできないし、今回の旅路の全てが、文字通り無駄骨になるのだ。


 その根拠でもある”大空魔竜”の骸と”戦利品”の数々は、全て俺の【ギフト(はら)】の中に在るのだから。


 俺にアレの収納を命じた時点で、クソ野郎さまが地団駄を踏む結末はすでに決まっていたのだ。ははっ、ざまぁ。


 悲壮な顔で遮二無二になってこっちに突っ込んで来るアッセル、タマーラの顔を見て、俺は妙に心が軽くなった様な気がした。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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