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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
30/124

30.女神さまにだって喧嘩を売るよ?

誤字報告本当にありがとうございます。助かります。

ついで29話は100文字ほど加えました。本筋に一切変更はありませんので、一応の報告のみです。




 「はぁ、参ったなぁ……」


 【音の精霊】たちによる情報収集で判ったことは、以下の通りだ。



 ・村長殺害の計画は、ヘンドリク主導のもので間違いない。村長が村を出る。このタイミングを好機と取ったらしい。


 ・この計画の賛同者5名の内、村長の爺さまに通じる者が2名存在する。だが、この2名は少しでも風向きが変わればすぐにでも変わり身しそうな人物臭い。


 ・すでに計画は村長の爺さまに全てバレている。その上で、逆にヘンドリクを罠に嵌める予定で現在別に人を集めてる模様。



 ……もうね。


 これ失敗するの確定じゃんっ!



 あんニャロが勝手に死ぬ分には、「あっ、そう」で済む話。少なくとも、”俺”の中では。


 だが、”じぃじ”を尊敬し、また家族として深く愛している”ヴィクトーリア”の方は、決してそれで済ませられるはずもないし、さらに現実的な面で言ってしまえば、村長の爺さまに敵対した末の殺害未遂の返り討ちによって勝手に死なれては、村に残された”ばぁば”と”わたし”の立場はどうなるの? って話。


 まぁ、良くて犯罪者の関係者として晒し者。悪けりゃ一気に犯罪奴隷堕ちまで充分あり得るだろう。



 ──ならば、”俺”がここですべきことはなにか?



 計画の阻止。



 ……では、もう遅い。


 何故なら、計画がすでに実行段階に移行してしまっていることが第一。


 そして、計画の全貌が村長の爺さまに筒抜けになっていて、爺さまの方は迎撃の準備を整えつつあるのが第二の理由だ。


 すでに衝突は不可避であり、下手に計画を止めようものなら、いよいよこの村に居られなくなる状況にこちらは追い込まれてしまうのだ。


 かと言って、ヘンドリクの計画を裏で支援し成功に導いてしまえば万事済むのかというと、逆にこれはもう()()()()()


 村長殺害の計画をした時点で、”騎士爵”──如何に末端も末端の()()()とはいえ、制度上”貴族”であることに変わりは無い。であれば、



 『平民が貴族に逆らい、殺害にまでおよんだ』



 ……などという”実例”があっては、絶対にならない。これは貴族社会を形成する国家において、屋台骨が土台から揺らいでしまう”大事件”になってしまうのだから。


 そうなれば当然、計画に参画した者全てが罰せられねばならぬだろうし、下手をしなくても親類、果ては一族郎党にまで類が及んでしまう可能性も充分にあり得る。これは”貴族社会”の面子の問題。対処がより苛烈になってしまうのは当然の話だ。



 成功しても地獄、失敗したら勿論地獄。てゆか、計画が漏れた時点で地獄が確定しているのだから、もうどうしようもない話。



 「……なんとも難儀な話ですな」


 「ご主人様(マスター)。やはり今すぐデルラント王国から出てしまいましょう。帝国(ライヒ)か、西風王国(ゼピュロシア)か。どちらであれ、案内は我ら【クリスタル・キング】にお任せを」



 「……”わたし”が、それを容易にできる()()()()をしてたらさ、きっとどんな世の中であっても、生き易かったんだろうね」



 ああ、本当に。


 こんな自分が嫌になるよ。


 ”俺”であれ、”わたし”であれ。


 ────やっぱり、”根っこ”は同じなんだろうね。



 「今のうち謝っとくね、ふたりともごめん。また黙ってて貰わなきゃいけないこと、いっぱい増えちゃうかも」



 簡単に、”家族”を切り捨てられないんだからさ。



 ◇◆◇



 緊急事態だ。(この世界にあるかは知らんが)煎餅布団の中にありったけの(ボロ)を詰め込んで、一応はそれっぽく仕上げはしたけど所詮その程度のすぐバレる”偽装”だけで家を飛び出してきちゃった。


 ひょっとしたら、今頃ばぁばがそれに気付いて村の周りを必死になって”ヴィクトーリア”を探しているかも知れない。


 ごめんね、本当にごめん。悪いのは、全部あんたの旦那のフニャちん野郎だから。()()()()()()()()、奴に全ての責任を取らせるので、それまではどうか勘弁して下さい。


 色々と策を検討してみたけど、どれもこれも正直……って感じで、当日の、それこそ”直前”にまで、”俺”は何も良い手が浮かばなかった。



 取りあえず、現状と敗北条件の確認からだ。


 【音の精霊】たちによる細かい<アクティブ・ソナー>によって、()()()()の分布状況は、俺の脳内に詳細に描かれている。

 

 現在、村長の爺さまとその護衛10名は野営の準備中。


 その近くを、ヘンドリクと村長の暗殺計画に賛同した者5名(内2名は内通者(スパイ))が二手の3+3に分かれ潜伏中。どちらの集団にも内通者がひとりずつ付いているってところが周到過ぎて本当にいやらしい。


 さらにその後方に、迎撃用の伏兵が3人ずつ潜んでいると。


 ただ、この近くにも少数の”商人”と護衛が何組かいる臭い。野営できる場所なんて、どうしても限られるから仕方がない。


 最後、どちらの方向に対しても、倍の数で挟み撃ちが可能……ってか。常道過ぎて逆につまらんが、安牌といえばその通りっていう。考えた奴はわりかし()()()()思考していやがるよ。


 まぁ、情報が漏れた時点で……っていうか、完全にハメられているんだから、もうどうしよもないな。


 村長の爺さまが生き残ってしまったら、地獄確定。


 運良くヘンドリクが村長の爺さまを仕留めることができたにしても、彼の”犯罪”を立証する”証人”がひとりでも生き残ってしまった時点で、わたしたち一家の地獄が確定する。


 ヘンドリクが実行に移す前に彼を止める……村長が計画の存在を知ってしまった時点で、これも時すでに遅しって奴だ。


 良くて村八分継続。悪けりゃ裏からの指示のもと、村人たちの私刑(リンチ)という体裁を取りつつふたりの老夫婦(じぃじとばぁば)を殺害し、その後ヴィクトーリアは村長の孫ども(サルとブタ)性奴隷(おもちゃ)の人生確定ってところだろう。地獄過ぎる。


 それに近い様なことをあの爺さま、賛同者たちを集めた酒の席で、笑いながらほざいてやがったし。


 くそ、こっちは全然笑えねぇってのにさ。



 ああ、そうそう。


 サルとブタがなぜ今頃になって、急に必死に”ヴィクトーリア”を求めてきたかってのが、その時判ったんだけど……


 『ヴィクトーリアを嫁にできた方を、次代の村長として指名する』


 んだってさ。


 なんでそんな話になったかというと、わたしがまだ”竜の鱗”をいっぱい持っているんじゃないかって、あの爺さまは疑ってるらしい。


 そりゃ、フニャちん野郎があんな希少品を無造作に袖の下に出して来たんだから、そう思っても何ら不思議は無いんだろうけどさ。


 で、それを嫁入りの持参金の一部として要求したあと、全部独り占めするつもりなんだそうで。



 だから、”わたし”を許嫁に────ってなった訳ね。あの爺さん、どこまでがめついんだよ本当に。



 で。孫のふたりはヴィクトーリアに()()だから、孫の恋の成就の後押しにもなるし、どちらも可愛いくて仕方がないから贔屓ができないけど、後継者レースのトロフィーに容姿の良い”ヴィクトーリア”は正に打って付け。最後、自分は鱗を独り占めできてウハウハ。と、この計画は八方良しなんだってさ。


 どこまでもひとを馬鹿にした話で胸糞過ぎるわ、バーロー。




 「敵襲っ! 敵襲だぁっ!!」



 「来たな。片付けろ、ただし、首謀者は殺すなよ」



 「ヘルマンっ! お前はここで死んで貰うっ!!」




 「始まりましたね」


 「<継承者(サクセサー)>殿、どうします?」 



 ────決めた。



 村長は、ここで確実に死んで貰う。


 で。


 ()の首は、フニャちん野郎なんかにゃ、絶対(ぜってー)くれてやらん!



 「ふたりとも。これから何があっても、声を出さないと約束して」


 「「承知」」


 本当に、クリキンのふたりは頼りになるよ。


 そもそもここで、



 「なんで?」



 なんて訊く様な”野暮”だったら、端っから雇ってなんかいないんだけどさ。



 【アイテムボックス】から魔猪(イビル・ボア)特殊個体(ネームド)()()を取り出す。


 <魔法と自然法則の女神(マギカ=ゲゼッツィー)>に、怒られるかな? 怒られるだろうなぁ……


 なんせ、彼女の司るふたつの”要素”に対し、真っ向から喧嘩を売る行為を、俺は今からやるつもりなんだから。



 いくぞ! ドレミ、ファ、ソラ、シド、エル、アール、セントラル、サックス、マイクっ!


 巨魔猪(ギガン・ボア)とでも呼ぼうか──その骸を、”俺魔術”を使って強引に動かす。生命(しぜん)に対しても、魔術に対しても。絶対に喧嘩を売っちまったな、俺。



 奴の心臓を外側から強引に動かしエンジンに火を灯し、脳に電気信号を送ることで、あたかも機械の様に自在に”使役”する。


 当然、こんな複雑なこと、ひとりじゃ無理だ。だが、俺の魂に紐付けされた【音の精霊】たちとなら、そんな無茶すらも、罷り通るっ!




 「うわあああああっ! バケモンだぁっ!!」


 「うぎゃああああ、足がっ。俺のあ、あ、あし、がっっ」


 「ひいぃぃぃぃっ! ななな、なんで、こんな、とっとっ……」



 けけけ、慌てろ慌てろ。そして、死ねっ!!



 さすが特殊個体。軽く大人3人分はあろうかという体高を持つ巨躯だ。()()()()がちょっと本気になって駈けようものなら、それだけで災害級。


 巨魔猪が縦横無尽に暴れれば、多少体躯に恵まれた”村の力自慢”程度では、なんの妨げになりもしない。


 このクラスのモンスター相手だと、冒険者で言えばBの上位辺りで最低限か? 当然、専門技術なぞ持ち合わせてもいない村人A如きに何ができる? って話。



 「……クリス、足止めの魔法を」


 「はっ」



 本当にありがたい。この一言だけで、”俺”の意図が全部伝わるんだもん。



 「ほっ?! 足がっ!!」



 村民たちとは逆の方へひとり逃げようとしていた村長の爺さまが急に足が縺れるかの様に転んだ。地の下級魔法のひとつ<転倒(スネア)>だ。地面が獣の爪の様に変形し、その足をしっかりと咥え抑え込む<地面固定術アース・バインド>まで入れる念の入れ様だ。仕事が細かいねぇ。




 「死にたくないっ、ワシは、まだっ、死にたくなあああああああああああっ!!」



 おっと。頭を潰したら()()()が誰が誰だか判んなくなっちゃうから不味いな……腹から下辺りで良いか。



 ────さようなら、村長の爺さま。



 できれば”ヴィクトーリア”には、こんな血生臭い生き方なんかさせたくはなかったんだが……



 でも、お前は”俺”を怒らせた。



 それが、お前さんの”死因”だな。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 まあこうなるか。  「元凶」は誰かとなったら神なんだからそこは悩まなくてヨシ!  「俺」と「ヴィクトーリア」も、そこまで綺麗に分かれているもんかね?と思うから心配いらないんじゃないですかね。  「俺…
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