24.”最悪”の中の”最悪”を予想せよ(30点)
その後、色々と擦った揉んだがありまして。結局は最終的に【クリスタル・キング】側が折れる形で決着が付きました。
”俺”の偽らざる本音を言ってしまえば、軽蔑の眼差しを持って”じぃじ”の案を全力で拒否ってやりたかったんだけど。
だけど、所詮”俺”という存在は、決して”ヴィクトーリア本人”ではなく、その肉体に偶然宿ってしまただけの、ただの”亡霊”にしかすぎない訳で。
で、ある以上。
『この場合、彼女なら、どういう判断をするだろう?』
と、それを常に念頭において動いていかねばならないのは、彼女の身体を預かる身として当然のことだ。
……だけど、今回の一件に関してだけは”俺”自身、ただ指を咥えて見ているだけで済ますつもりなんか、端から無いんだけど。
「クリスティンおねえちゃん、あとはおねがいしますね」
「承った、ご主人さま」
ヘンドリクおじさんが”村長”に件の竜の一件に関しての相談に赴く際に、彼ら【クリスタル・キング】の同行を、”俺”は強く求めた。
だって、当然の話、でしょ?
”俺”は、彼らとの”雇用契約”の報酬として、例の竜の鱗をすでに提示していて、彼らはそれで了承したのだ。
であれば、この時点で”契約”はすでに成っている。
村の取り決めを理由にそれを取り上げてしまおうなどと、そんなの絶対に”冒険者”でなくても赦す訳が無いのは、至極当たり前の話じゃないのかな?
で。この場合、あの村長の爺さまなら、絶対にポッケにナイナイするよ。しかも、ナイナイした事実を、後ですっとぼけるくらいは朝飯前に。
……ってことを、最初は迂遠に。それでもあかんかったから、どストレートに彼らの口から語らせてみたんだけど、何故かヘンドリクおじさんは頑なに”ワシに預けろ”と主張し続けるもんだから、こちらはもう折れるしかなかった訳で。根負けしたとも言うが。
元々ヘンドリクおじさんは、良く言えば真面目。悪く言えば根っからのお役人根性の持ち主だ。何かの判断に迷ってしまった時、すぐ上位者に丸投げし、それを委ねてしまおうとする悪癖がある。
だから今回の件は、充分に俺の想定内。
でも、こんな予想、当たってもらっちゃ困る類いの最たるモノだったんだけどな。あまりに情けなさ過ぎてさ。
確かに村長の爺さまはおじさんにとって、制度上は”上役”に当たる人なのも間違い無い訳で。
それでも、そもそもおじさんこそが村を守る自警団の”頭”なのだ。それが本来は形ばかりの”栄誉職”であったのだとしても。
この場合の判断の一切に関しては、他人に任せてなど絶対にいけないはず。
それこそあの爺さまに対しては、
『これこれこういうことがあったらしいので、俺たちはこう動くつもりだ。フォローよろ』
なんて。そのくらい強気で言い切る気概を一度は見せてみろよって話。もう本当に孫である”ヴィクトーリア”が不憫に思えてならないよ、”俺”は。
で、最悪のルートに至ってしまった以上、こちらがやるべき方針として。
・ヘンドリクおじさんには内緒だが、最初から竜の鱗は村長の爺さまのポッケにナイナイされちゃうものとして諦める。これはまず大前提。
・ただし、これを黙って渡すことだけは絶対に由とはしない。その場合、こちら側全員が舐められちゃうからね。すでにヘンドリクは、奴らにとってそういう対象になっているっぽいところが、ホントもうね。
・事態がどう転んだにせよ、最初は絶対に舐めてかかってくるだろうが『【クリスタル・キング】をこれ以上怒らせたら自分たちの生命が確実に無くなる』のだと、爺さま連中に恐怖と共にそれを刷り込むことができれば最善。最低限、あいつら絶対ヤバい奴。と思わせる様に、なるだけ粗暴に振る舞ってくること。
・その際、護衛のお兄さんたちの腕の一本や二本は、斬り落としてしまっても全然構わない。ウチのマーマが、あとでちゃんとくっ付けてくれると期待して。
・彼らの一応の雇い主に当たるが、ヴィクトーリアはこの席に同行しない。下手をしなくても足手纏いになる可能性(あの爺さまのことだ、最悪人質戦法くらいは普通にやりかねない)もあるので。
で、行く予定。
クリスことクリスティンが【クリスタル・キング】の代表として、ヘンドリクと一緒に村長の爺さまの所へ”交渉”へ赴く。
これが、キングこと王 泰雄では、優しげな顔といい、普段ゆったりとした服装に隠れてしまいがちな細マッチョな見た目だけじゃ、充分過ぎるほどペロペロ、ベロンベロンと舐められちゃうし。
やっぱり、切った張ったの冒険者というものは、”初見のハッタリ”こそが本当に大切なんだと個人的に思うんだ。そういう意味では、縦にも横にも大きいクリスの”肉の圧”は、正に打って付けって奴。
ふふふ、村長の爺さまめ。精々派手にビビり散らすがよい。
……なんて。思ってはいても、さすがにこんなの絶対に口には出せないね。
「……<継承者>殿、本当にこれでよろしかったので?」
キングがふたりの老夫婦の死角になる位置から、こそっと”俺”に耳打ちしてくる。まぁ、今の所”俺”が事前に『最悪のルート』と言った正にその通りの展開になっているので、彼も不安に思ってるんだろうね。
ホントごめんね。最善のルートに辿り着いていたら、”竜の鱗”の売却益相当分の金貨も、契約満了時にきみたちの報酬にボーナスとして上乗せするつもりでいたんだけど。
「うん? 良いんじゃない? ”竜の鱗”なんて、あんなの持ってても何も良いことなんか無い、ただの厄ネタだし」
でも、どうやら、それは見送らねばならないっぽい。今後何かと色々”物入り”になっちゃいそうだし。
だってさ、あの爺さまなら、確実にポッケにナイナイした後、絶対にアレを即座に換金しようと動くはず。
そうなれば、この村は、どうなってしまうのか。
想定しうる『最悪』を突き詰めて考えていくと、自ずとその中でも『より最悪』のパターンまで辿るだろう筋道が、幾通りも見えてきちゃう現実が。
だなんて、本当に嫌な話。
────ああ、マジで頭痛くなってくるわ。
”運命の神”、本当に何もしてねぇんだよな? てゆか、一度”自殺”してでも問い質しに天界まで飛び出してやりたい気分なんだけど。
やらないけどさぁっ!
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