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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
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23.お前のその考え方、No! だね!!




 「ぬうぅ……」


 ”俺”が家に連れてきた【クリスタル・キング】のふたりの顔と、問題となった”竜の鱗”とを交互に見ながらじぃじが発したのは、地を這う様に低く重い唸り声だった。


 ”国の境界(さかい)”自体がきっちりと定まってはいないせいで、デルラント王国、ゴールマン帝国の双方からも管理放棄されてしまっている、正直安全とも言い難く危険な魔物が多く棲む森が、開拓村のすぐ側のご近所に在るとはいえ、今までそこまで大きな問題など特になかった。それこそ、極々稀に微妙に勘違いした小鬼(ゴブリン)やら豚人(オーク)やらが、少数攻めてくる程度だったというのに。


 だが、まさかそこに”上位竜(グレータードラゴン)”の痕跡があったともなれば、そりゃあ、半分以上は”栄誉職”だとはいえ、村の安全保障を一手に担う自警団の長。確かにこうにもなろうって話だ。


 【音の精霊】のひとり、ファが描いてみせたシナリオはこうだ。


 ・村外れの森の近くで()()()を求め彷徨い歩いていた”わたし”ことヴィクトーリアが、草むらの陰にたまたま落ちてた綺麗で大きな光る石(?)を拾う。


 ・そこを依頼を終え街に帰還する途中の【クリスタル・キング】のふたりが偶然通りかかり、ヴィクトーリアは自慢気にそれを見せたところ、『これはもしや竜の鱗では?』という話に。


 ・ヴィクトーリアが『これ、(値段的に)いいやつ?』と訊ね、ふたりは正直にモノの価値を伝えてやると、『だったら()()で、ふたりをやとう』と言い出したので、『金になるのなら、まぁ……』と、彼女に言われるがまま、大人しく家まで着いてきた。



 ……っていう、何とも嘘松過ぎの、胡散臭ぇ話。



 普通に考えてもこの場合、(くだん)の”竜の鱗”が力尽くで奪われた挙げ句、ヴィクトーリアは良くてそのまま連れ去られ奴隷商人に売り払われてしまい、悪けりゃその場で殺され今頃魔物(スカベンジャー)の腹の中だ。はっきり言ってしまえばこの話、かなりの無茶で無理がある。


 そもそも、”辺境”なんてのは、そういう場所で、更に言えば()()()こういう国だし、そんな理不尽が当たり前の様に横行しているクソな世界なのだ。



 まぁ逆を言えば、”幼女の戯れ言”を馬鹿正直に信じて大人しく家まで着いてきたっていうその一件だけで、彼らの()()()()()()を完璧に証明する皮肉にもなっちゃう訳なんだけど。


 彼らの怪し過ぎる素性を見逃してもらいつつ、冒険者としての確かな信用をふたりの老夫婦(じぃじとばぁば)に売るのが正直一番の難問だった訳だから、ある意味嬉しい誤算とも言えるのかも知れないが。


 ”俺”が与えた装備の質を見れば、彼らが早々そんな()()()なんかしなくても、充分稼いでる様に見えるはずなんだけど。


 それも含めて”神話級”上位の武器を選んで彼らに手渡した訳だし。”口止め料”の意味が多分に含まれてはいるけどさ。



 で、それだけ”稼いでる”だろうそんな彼らを長期間雇うとなれば、確かに竜の鱗レベル(これくらい)の報酬は必要だ。


 とはいえ、竜の鱗の価値なんてのは、ピンキリだと言えば、確かにピンキリなのだが。


 で。”俺”が持って来たそれは、”上位竜”の、更には特殊個体(ネームド)の物。状態は勝手に剥がれ落ちたボロボロの老廃物(粗悪品)なんかではなく、死にたて新鮮の骸から丁寧に外した若く艶のある一級品。加えて言えば、そいつが悪名高き魔物ノートリアス・モンスターの、さらには現存する<古代竜>の中でも最古とも云える”大空魔竜”なのだから、ピンもピン過ぎるとんでもなくヤバい代物である。



 この鱗の正確な素性がバレたら、その価値はさて、帝国金貨(ライヒスゴルト)何枚になることやら……



 少なくとも好事家のお貴族さま連中だけでなく、素材マニアの大地の人(ドワーフ)も多数競売所に詰め掛けて来るだろうし、下手をしなくても色々と()()()()()()()人たちが、そこかしこからワラワラと湧いてきては騒動を起こしまくっても誰も驚きはしない混沌とした(カオスな)状況になるのだけは確かだろう。




 ……おおう、考えれば考えただけ、どんどん背筋が寒くなってくるぜ。




 まぁ、正直な話。


 そんなお外に出しちゃったら色々と問題がありすぎる危険な”ブツ”は、彼らクリキン(略)の報酬に宛てた……ってことにして、実際は早々に【アイテムボックス】内に仕舞い込む予定でいるのだが。



 そして、この無茶過ぎるシナリオに一番の問題点があるとすれば、この”与太話”を聞いたじぃじの反応かなぁ。



 裏の森に竜の鱗が落ちてたよ=裏の森に竜が棲み着いたかも知れぬ。



 ……とでも捉えられたら、”わたし”みたいな()()()なんかは、村内での行動が色々と制限されちゃうからねぇ。



 種類さえ問わなければ、竜自体はたまに飛んでるのを遠目に見かけるくらいにこの世界で大して珍しくもない魔物だったり。地球の感覚で言えば、大型の猛禽類を見る感じに近いのかな? って、その程度。



 それこそ、この国の南に位置する西風王国(ゼピュロシア)領の”メッサーナ平原”なんかは、竜たちの狩り場として特に有名な入らずの地なんだし。そこを目指してトカゲ未満の奴から、飛竜(ワイバーン)の様な亜竜に至るまで。広義で云う様々な”竜種”が飛んでくる。位置的に()()()()を飛ぶ奴がいても何らおかしくはない……ハズなんだけど、ねぇ。



 ……さて。そこを踏まえ、じぃじの反応は如何に?




 「──すまぬが、こいつを一度預からせてくれ。ワシの一存では、色々と決めかねることが多くてな。村の長(ヘルマン)に、これを見せねばならぬわい」




 ああー、そうきたかぁ……



 よりによって、ヘンドリクおじさん。”俺”が想定した中で()()()()()()を引きやがった。



 村長の爺さま(あのくそボケ)じゃあ、何も決まりはしないって。それこそ、持って行った竜の鱗を()()()()()()()()しやがった上で”竜被害”が村に起ころうものなら、ヘンドリクおじさんだけが責任取らされるってお決まりのパターンが待ってるだけだってば。


 しかもその場合、クリキン達の”報酬(予定)”がまるっと無くなるっていう……さて、そうなった時、おじさんは一体どうするつもりなのだろう? まさか、その”結末”くらいはこの村で生きている以上、絶対読んでなきゃ色々と不味いぞ?



 「……すまぬが、モノがモノだ。幼子の口から出ただけの言葉とはいえ、我々は”契約”を重んじる冒険者だ。其方(そちら)側に如何な重篤な事由があろうと、それはあくまで其方の都合。おいそれと”我らの報酬”。依頼主の祖父とは云え、貴殿に預ける訳にはいかぬな」



 ”最悪”ではあるけれど、一応このくらいは想定内。当然このケースでの受け答えもキングにはしっかりと伝えてある。しかし、ヘンドリクよ。何となくそうなるだろうなぁ、と予想していたとはいえ、さすがに心底ガッカリだぞ……


 今この時だけは、”俺”、()()()()を”じぃじ”と呼ぶの、絶対に嫌だわ。ほら、ばぁばも「ダメだコイツ」って感じの呆れた顔してるもん。気付けよ、おじさん。




 ……これは、”常に最悪のケースを踏み続けた場合”で、今後を想定していかなきゃ不味い様な気がしてきちゃったなぁ。




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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