22.契約しましょう。
「うん、それには俺達も異存はない……というか、逆に申し訳無くなってくるくらいの好条件なのだが、本当に良いのかい?」
「ええ、それは勿論。わたしの方にも、実は色々とありまして。その中には当然”口止め料”も含まれておりますので……と申せば、ご納得いただけましょうか?」
なにせ、こちらは本来、人に明かす訳にはいかない諸々の事情持ちなのだ。偶発的に起こってしまったアクシデントのせいで、うっかり不味いレベルにまで色々と彼らにバレちゃった以上、確実に口封じをせねばならない訳で。
なので、彼ら【クリスタル・キング】と交わした”契約”は以下の通りだ。
・”わたし”ことヴィクトーリアは、彼ら【クリスタル・キング】に現在失伝してしまった【呪歌】を含む、その知りうる全ての楽曲の提供を(楽譜込みで)する。ただし<死神達の葬送曲>に関しては、世に広まってしまった場合の危険性を考慮し、例外として伝承しないものとする。又その存在そのものを秘匿とし、他に絶対に漏らさぬことを【クリスタル・キング】は誓うこと。
・代わりに【クリスタル・キング】は、全ての【呪歌】を習得するまでの期間、無償でヴィクトーリア及び、その家族の全ての財産、身の安全を保証すること。
・その間の必要な物資、装備等は全てヴィクトーリア側が提供するものとする。その際、物資、装備の出所に関しての一切の追求は、これを固く禁ずる。
・契約満了(その決は、両者の協議によって確実に行われるものとする)時には、その間に起こった全ての事象に関し他言無用とし、絶対に漏らさぬとこれを固く誓うこと。
・できればその間、たまにでも構いませんので、わたしに剣を教えて下さい。
<契約魔術>を誰も習得していない時点で、結局はかなりグダグダで無意味な口約束になっちゃうんだけど。まぁ、今回は一応これで。
んで、装備の提供は、こちらから言い出したこと。
だってさ、このひとたち、あまりにもお人好し過ぎて自分たちの”得物”を、他の冒険者どもに貸して、
『笑えることにさ、気が付いたらそのままトンズラされちゃってたンだ。困るよねぇ、あははー☆』
とか。
実にあっけらかんと笑いながら言うんだもん。いくらなんでもそれはダメ過ぎるだろ、おい。
今背にしたなまくらでも、彼らの技量なら、しっかり護衛の務めを果たしてくれるとは思うよ? けれど、さすがに素人のぱっと見でも「ダメだこりゃ」って判っちゃう様な粗悪品を抱えた人間を背後に置こうものなら、逆にそれでこちらが舐められちゃう。
わたしを護衛する人には、しっかり”はったり”を効かせてもらわないとね。だって”わたし”は、見た目ただの幼女にすぎないんだからさ。
そういう意味では、縦にも横にも大き過ぎる一見”蛮族”のクリスティンの筋肉の圧は、とても良い。すごく良い。
さらに”得物”のチョイスも、彼女はその辺良く分かってる。自身の身長とほぼ同じ長さのゴツ過ぎる大剣を選ぶんだからねぇ……てゆか、よくあんなクッソ重い奴平然と振り回せるな……”俺”が「こんなん扱うの絶対無理!」って、早々に諦め【アイテムボックス】の肥やしにした奴だぞ、アレ。
二刀流なんて特殊過ぎるスタイルの王 泰雄に関しては、”夫婦剣”なんて特殊で奇抜なモンが早々ある訳ないし、仕方無いのでサイズの近い片手剣二つを押し付けてやった。そいつらも、色々と曰くが付いた魔剣だ。慣れろ。
そんなこんなで”わたし”が彼らに提供した”得物”は、どれもこれもが神話級の業物だったから、それを見た彼らが心底ビビったのは、まぁお約束。物の価値がしっかり判る人たちみたいで、これなら実務面でも信用できるし色々と助かるよ。【風の翼】の奴らなんかなぁ……ホント、もうね。
たぶん、帝国金貨(この周辺では一番強い貨幣。てゆか、この国の貨幣が露骨に混ぜ物されてるから価値も信用度も低いだけなんだけど)で平均700枚くらいから競りが始まる……ってところかな? それこそ手数料をさっ引いた後でも、これらどれかひとつの売り上げだけで、わたしひとりなら街で10年は遊んで暮らせちゃうレベルのすごい奴ばかり。
まぁ、我が家の敷地内には、そんなのを軽くぶっちぎるレベルでお高い”お宝”、総神剛鋼製(当時の時価総額で言えば金貨2万枚くらいかな?)の手漕ぎポンプさまが鎮座していらっしゃる訳ですので。”わたし”はこの程度の放出、全然気にしませんがね?
ふふふ……我ながらホント、バカやったよなぁ……
契約通りの話なので、当然これに関しても”わたし”は、彼らに一切追求をさせなかったけど。
最終的には【呪歌】の伝承拒否をもチラつかせ、無理矢理に黙らせてやったし。我がことながら、本当にひどい奴だね。
”わたし”のことを<継承者>だなんて仰々しくも変な称号を付けて勝手に崇めてくれやがるもんだから色々と誤魔化しやすかったのもあって、ついつい”ハッスル”しちゃっただけなんだ。ごめんね?
それこそ、悲しげに目を伏せながら全部、
『”遺産”、です』
とでも言えば、ふたりとも涙を滲ませ勝手に納得してくれるっていう……
でもでも、誰もこれっぽっちも嘘なんか言ってないしぃ? ただ色々と頭に付けて言わなきゃいけない言葉を、ちょびっと意図的に省いてやっただけにすぎないから。まぁ、それに関しては赦せ。
さすがに”俺”の中にも僅かながらに潜んでいたらしい良心もチクりと痛んだので、まぁ……将来、彼らがこれ以上詐欺被害に遭わないことを祈るよ、マジで。
これで一応の”契約”は成ったので、今後の彼らの身の振り方を考えていかねばならない。
だってさ、この状況を、どうにか二人の老夫婦に納得させなきゃならないんだぜ?
さすがにさぁ、彼らを家に連れて……
『じぃじ。わたし、もりで”ぼーけんしゃ”ひろってきちゃったー☆』
なんて。そんなん言える訳がねぇって話だし、ましてや、その後に「がんばってそだてるから、ウチでかってもいーい?」と続けられる訳が……
────うん? ファ、どったの?
え? 【アイテムボックス】の中のアレを出せば良いって?
いや、アレはさすがに色々と不味かろうよ。上位竜の、しかも特殊個体なんだぞ? そこに転がってる魔猪の特殊個体なんかメじゃないレベルの。いや、確かにこいつはこいつで”一大事”なんだけどさぁ。
”俺”が死骸を持ってるせいなんだけど、奴は未だ討伐確認ができていない”お尋ね者”だし。そんなのおいそれと出せる訳が……
え? 鱗の一枚でも出せば……って。でも、そうするとこの森が立ち入り禁止になったり、冒険者で溢れかえったりしないかな?
……ははぁ、なるほどね。
【クリスタル・キング】の彼らが村に訪れても問題ないアリバイ作りな訳ね。そして、その滞在費用が、”大空魔竜”の鱗1枚、と。
しゃーない。それでいくかぁ。
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