15.ほぼ完成 バレない内に 撤収だ(字余り)
「さて。それじゃ、ここで【浄化】っと……」
底の方に染み出てきた水を【鑑定】してみたが、大腸菌やピロリ菌みたいなヤバげな細菌汚染も無さそうでひと安心。
いくら土層によって自然に濾過されていく仕組みによって、近くの川の水よりはるかに清潔なのだとはいえ、そもそもその濾過の課程で大地を構成していた物質が溶け出しもするので、出て来るお水が絶対に安全だと言い切れるものではない。
ましてや、その上で生活しているのは周囲の環境を汚し、自然を破壊し続けながらでしか生きていけない”人間ども”なのだ。早々周囲の環境からすぐ影響がある様な浅い井戸ではないとはいえ、用心するに越したことはないだろう。
本来ならば、ある程度井戸の中の水位を確保した時点で、実際に”テイスティング”をして、匂いや味も確かめなくてはならないのだろうが、それら懸念も含め、一旦【ギフト】の権能のみで強引に押し通した。
てゆか、地下水に【浄化】をしちゃうと、毒素だけでなくミネラル分や栄養素まで全部無くなっちゃうんだな。これ、飲み水や農業用水として使うとか、実際どうなのかなぁ……?
「まぁ、毎回かける訳ではない。ってことで、今日のところは許せ」
とにかく、まずは”井戸”としての体裁をしっかり整えなければ、何も始まらない訳で。
水質やら何やらの具体的な話を考えるのは、その後だ。
「エル、アール、セントラル、サックス、マイク。出ておいで」
まるでお金持ちのオーディオマニアが持っている様な、豪華な左右中央のスピーカー三種セットに、あとは単純に名前通りの見た目をした、残りの【音の精霊】たちを喚び出す。
お前ら、ホントにごめんなぁ。”俺”なんかに小洒落たネーミングセンスを求めてもダメなんだよ。あんな急に『名前を決めてっ!』って迫ってくるもんだから、つい、こんな……
後日、何となく落ち着いた際、ふと彼らに訊ねてみたら、
『私達のこの見た目は、あなたが最初に描いたイメージそのものなんだよ?』
とのこと。
凡そ”生命の概念”に盛大に唾を吐きかけ、この世界の神様連中に喧嘩のバーゲンセールを開催していたのは、実は”俺”自身でした。って、そんなつまんないオチ。本当にすまんかった。
なので、もうちょっと”俺”が芸術的センスに磨きをかけるか、ヴィクトーリアの内に深く眠っている、かも知れない潜在美的センスが目覚めてくれるか、そのどちらかを期待せずに気長にお待ち下さい。
てか、分かり易く言えば、
『”俺”の精神の片隅で、震えて眠れ』
って奴だ。
それはまた別の話だし。まぁ、一旦置いといて────
「じゃあ、みんなで剥き出しになったまんまの”壁面部分”を補強していくそー。まず、エル、アール、セントラル、サックス、マイク。俺と一緒にこの余った土を、こんな感じのタイル状にしていこう。で、ドレミ、ファ、ソラ、シドは、出来上がったタイルを上から順に並べて固定してってくれな」
精霊の手による”俺魔法”で綺麗に均しはしたといえ、掘削した穴の側面は、未だ剥き出しの土だ。
これを放置していたら、また大地に水が浸透していってしまうし、さらに地中の物質が水に溶け出してしまい、いくら【浄化】をかけようと元の木阿弥となってしまう。
そもそも、家の敷地内に水源が存在しているのだ。畑は言うに及ばず、土間での炊事、厠の汚物によって水質汚染が引き起こるなんてのは、充分に考えられる。なので、水を通さない様”俺魔法”で作成した陶器状の板で、全体の8割ほどの深さまで壁面を覆いつくす予定。まぁ言ってしまえば、水道管みたいなもんだな。衛生対策なんてのは、神経質になり過ぎるくらいで丁度良い。
てか、ちゃっちゃとやってしまわないと、そろそろふたりが起きてきてもおかしくない頃合いだ。
昨夜は、あれからもまた色々あったのか、いつもよりはふたりが起きてくるのが遅い気がする。
ヴィクトーリア自身は寝付きが良く、またお寝坊さんな子でもなかったし、大体今時分くらいにはもう目覚めているのでいくらでも言い訳が立つから良いが、さすがに保護者たちが朝ご飯の準備をする以前に、こどもがひとりで外にいるという状況は、あまり良くない。
当然、色々と今後を取り繕う必要が、”俺”の方で出て来るだろう。
大恩ある老夫婦たちには、”わたし”の中の”俺”という存在を知られる訳には、絶対にいかないのだから。
できれば、まだ。
「ああ、もう。本当に、こどもって色々と面倒臭いナーっ!」
小さい頃は、
『早く大人になりたいなぁ』
なんて。誰もが思っただろうし、”俺”も転生を繰り返す度に、毎回そう思ってたり。
でも、実際に大人になった時、ふと、こどもの頃に戻りたい……なんてのも、ぶっちゃけこれも毎度の話だ。
それが、やり残したことへの後悔だったり、色々と”壁”にぶち当たったことへのただの逃避だったり。理由は、その時によって様々ではあるけれど、それもまた偽らざる心持ちだ。
───でも。
”ヴィクトーリア”はちゃんと大人に、なれるのかねぇ?
開拓村で暮らしながらそれを望むのは、個人的に、だが、正直ほぼ無理ゲーな気がする。
それだけ村長の爺さまの権力が強いし、なによりフィンとベルトハルトの、ただのクソガキとも思えぬトンチキ過ぎるクレイジーさが本当に厄介だ。
実際、今も”監視の眼”の気配を感じる訳だしさぁ。あいつら、どんだけ”わたし”に執着してんだよ、寒イボ出て来たわ。
で。
このひと、隠れているつもりなんだろうけれど、あまりに稚拙。所詮は”ド素人”って奴だ。
<斥候>の真似事で一時期ご飯を食べてきた”俺”の眼は、そんなのじゃ全然誤魔化せてませんよっと。それに今の”俺”には【音の精霊】たちに教えてもらった”アクティブ・ソナー”がある。例え目を閉じていても、周囲の様子はバッチリだ。
この際、バレても良いや。のつもりで放置しているが、これが今後も続くならちょっと考えなきゃ、だなぁ。
今ならそいつが、
『あ……ありのまま今見て来た事を話すぜ!』
とか、バカ正直に奴らに報告したとて、まず誰も信じはしないだろうしそれこそポレ○レフばりにこの台詞の続きの……
『頭がどうにかなりそうだった……』
などと最後まで言ってしまおうものなら、その時そいつは皆から本当に”頭の心配”をされてしまうだろう。
だから、今は何もせず放置。
こうやって真実をも含む虚言などの”情報”も色々と混ぜ込んで、敵方へとそっと添えてやるだけで、いくらでも混乱は誘えてしまえちゃうのだ。ケケケ。
”俺”に敵対したこと、絶対後悔させちゃる。
クソガキどもめ、今は首を洗って待っていろよ。
誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。
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