14.ここ掘れわんわんドリドリドリル。
「一応、今後の方針が決まった訳だけど……」
”村の供用井戸”が使えない以上、水の確保は最優先。
そこで”俺”は、水資源の確保に乗り出すことにした訳だ。うん、それは良い。
その第一歩として、まず地下を走査したところ、”俺”の思惑通り我が家の敷地内に豊富な水資源が存在していたのだ。これは大変喜ばしいことだろう。
……だけど。
ここで、あるひとつの問題が急浮上してきた。
「ヘンドリクおじさんに向かって、”俺”が『ここ掘れ、わんわん』……なんて、言う訳にゃあ……いかんわなぁ……」
そうなのだ。
いくら我が家の地下のすぐそこに”綺麗で美味しい水”が豊富にあると判っていても、それはあくまでも”俺”だけが知る”美味しい秘密情報”でしかない訳で。
まずこれをどうにか信じてもらって、かつ、我が家の人間の力のみで、完成させねばならないという、最悪にして最高難度のミッションの存在を、”俺”はスコーンと完全に失念していました……ってぇ奴で。
幾人か村の男衆を雇って掘るって方法も、そりゃあ、あるにはあるよ?
でも、それをやってしまったら、村長の爺さまに付け入る隙を与えてしまう訳で。
『村の人間が掘削を手伝った以上、当然、ここも村の共有財産だ』
……なんて。
そんなダイナミック過ぎる暴論を振りかざして、”真新しい井戸”のついでに、我が家を含む敷地と畑の一切合切をも一緒に取り上げてくるくらいはまぁ、平然とやってのけてくるだろうね。
幼い”わたし”の記憶ですら、そんな懸念を当たり前の様に表明してくるんだから、相当なモンだと思うよ、あの爺さまの”業”は。
数え5つのわりには、周りの人間がよく見えてた”ヴィクトーリア”は、確かに色々と聡い子だったのだろう。
村長のふたりの孫どもが絡みさえしなければ、本当に天真爛漫を絵に描いた様な”いい子”だったってのに。そんな子が『あのひとなら、それくらいはやるとおもうの』って普通に思ってるんだからまぁ、村長の爺さまの”お人柄”ってのが、本当に透けて見える良い例だわ。
だから、最悪他人の力を借りるにしても、”村の外から”が最低限。
……って、そもそもここは国境近くの、魔物が潜む森がすぐ近くに在る辺境の地。
そんな環境なのに、労働力を集うにしても、そんな宛ても、その伝手も端から無い……ほぼ無理じゃん。って結論に。
”日雇い労働者”のカッコイイ別名”冒険者”達を雇うにも、その互助会の支部は、ここから歩いてまる1日はかかる小さな街だ。人足を確保し、掘削作業に取りかかるまでには、最短でも4日はかかるだろうし、水が出るまで掘削し、それがちゃんと使い物になるまでには、恐らくさらに2日といったところか。
合計の6日間。それまで”俺”の<こっそり魔法の水生成>で凌いだにしても、”水泥棒”の嫌疑を抱えるには充分過ぎる日数だ。最初から無理がある。
はやくも”計画挫折”のお知らせ。
……に、なってしまうから、”我が家の人間の力のみ”って条件を”俺”は最初に掲げた訳だ。
でも、そうすると、目標に対する難易度が”ハードモード”から”エクストラハード”にまで格上げになってしまう、と。
……さて。どうするべ?
じぃじに『ここ掘れ、わんわん』は、ほぼ無理だぞ?
なんせ、あの”ヘンドリクおじさん”のことだ。
ちょっと”ヴィクトーリア”が可愛くお強請りでもしてやれば、たぶんやってはくれるだろう。
いや、”たぶん”じゃ済まねぇな。
確実に、しかも必死になってやる。あの人は、そういう”漢”だ。孫の笑顔のためならば、老骨に鞭打つなんて、当たり前にしてのけるだろう。だからこそ、不味い。
『じぃじ。ここほったらおみずでるよー』
……なんて、言える訳がない。
井戸なんてのは、ひとりの力で掘削るもんじゃない。てか、そもそも掘れる訳がねぇって。
ただ単に愚直に地面を掘り進める作業ってな、過去の地球でも実際にあった古い拷問法の一つで、単調で、かつ、辛い”だけ”の過酷な仕打ちだ。
まぁ正確に言うと、掘った穴を埋めてまた掘るっていう無意味な単純労働を延々と繰り返し続けさせる……って奴なんだけど。変に身体を痛めつけたりするより、こういった単純なものの方が、よっぽど被験者の精神に”来る”。
出るかどうかも判らない水を求め、延々掘り進めねばならない……そう思いながらの辛い作業になるのだ。掘って、掘って……出なかったら埋めて……の繰り返しか、と。作業者本人の精神衛生上、そこに何ら差はないはずだろう。そんな辛いの、余計”じぃじ”にやらせる訳にはいかない。
────うん。やっぱり、”自重”やめちゃおう。
どうやら”前世の俺”には、わずかばかりの”魔法の素質”があったらしく、それを”今世”も引き継いでいるっぽい。こないだ不意の骨折で慌ててかけた<回復術>が、ちゃんと発動したし、たぶん、そう。てか、前世のよかバッチリ効いたし。
まぁ、見よう見まねの完全独学だった俺の”精霊魔法”は、いわゆる”本職”の奴らに言わせれば、
『何故そんなのがちゃんと発動するのか、ホント全然見当付かないんだけど。でも、まぁギリ下級魔術……なの、かなぁ?』
程度の”謎の塊”でしかない、らしいのだが。
逆にそんな不十分な俺のそれを見て、妙にはしゃいだのが<本と知識の女神>の別側面<魔法と自然法則の女神>だ。
俺の【音の精霊】たちに、それぞれ”魔法の素質”を植え付けてくれた上で、
『ぜひ、数々の【呪歌】を開発してみせた時の様に、キミの魔術を修め、極めてくれたまえ。今後、絶対に誰かの師事を受けちゃダメだからね。いいね?』
……だなんて、彼女から激励のお言葉まで賜ったという……
そんな”俺”の勘……だけど、井戸を掘るのは「たぶんイケる」と。そう言っている、気がする。
徒党【風の翼】では、野営の時は必ず”俺魔法”で竈を作って煮炊きをしたもんだ。お陰で、他の徒党の人間達からは羨望の眼で見られていたのだが、アイツらは、そんな周囲の視線に気付きもしなかったな……まぁ、だからこそ簡単に俺を裏切ってみせたんだろうけど。
……あ。なんか、急に今になって無性に腹が立ってきた……
いかん、いかん。もう今更の話なんだ。忘れよう。
そもそも、呪文の詠唱なんてそれ自体知らないんだから、そんなのできる訳がねぇ。
ラノベの知識はそれなりにあれど、この世界の法則自体なーんもわからない以上、俺にできるのは”想像”という名の妄想のみだ。
「よっし。ドレミは俺と一緒に”ドリル”な? ファは土を一旦外に。ソラとシドは壁を固めて。崩れてしまわない様にお願い」
やっぱ、ドリルって”男の子”だよな。ロマンがたっぷりと詰まってる。
そういや、日本の父さんなんか、ゲッ○ーロボが好き過ぎて、色々とオモチャを買ってきてはよく母さんに叱られてたっけな。小遣いの範囲内でやってんだから、許してやれよ……って、ずっと思ってたけど、あえてそれを口にはしなかったのは秘密。
”家庭円満”の秘訣なんてのは、逆らってはならぬ人間をしっかりと見極めること、だしね。
……俺が死んだ後も、みんな元気にやってたかなぁ……? まぁ、これも今更かぁ。”俺”が”この世界”で積み重ねてきた年月だけでも、すでに200年近くも経ってんだし。
俺の魂に紐付いている【音の精霊】たちは、俺の”イメージ”を忠実になぞってくれるから、本当に楽だ。説明要らずって良いよね……
ドリドリドリ……
この振動が心地良い。
わりと地面がしっかりしてるから、掘るのが楽。
……お。
水が染み出てきた。もうチョイかな。
井戸が掘れたら、”最大の難問”がこの後待ち構えているんだけど。それについては、今は考えないでおこう。
心底めんどいからね。
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