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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第二章 わたしはこれから生きていきます
12/124

12.”わたし”不在の”わたし”の物語。

誤字報告ありがとうございます。ホント助かってます。




 『……ああ、やっちまったなぁ……』


 目を覚ましてまず出て来た言葉が、まさにこれ。


 あの後の記憶が、綺麗さっぱり無いってさ……冷静になって振り返ってみたら、本当に怖いよね。


 気分は記憶を亡くすレベルで痛飲し、翌朝二日酔いの頭痛と共に目を覚ました時の正にソレ。

 ”地球”では、大学受験に出掛けた時に……だったから、これは”この世界で生きた経験”のお話なんだけれど、一応。



 あの時の”わたし/俺”は、記憶と人格の結合が解けかけていて、色々と不味い方向へと崩壊しかけていた……気がする。

 魂が端から徐々に崩れていく様な嫌な音を、あの時初めて聞いたし。


 今現在の”わたし/俺”は、”わたし”の意識が異様に薄く、”俺”が強く全面に出ている感じ。


 お陰で()()()()()()がハンパ無い。

 今までも”女性生”を何度か経験しているってのに、本当に不思議だね。



 何度でも言うが、今の”俺”は、過去世の人生の記憶と経験を保持しているだけの、いわゆる”外付けメモリ”みたいな存在(モノ)でしかない。



 結局”俺”の意識なんてのは、主人格(メイン・キャラクタ)の”ヴィクトーリア(わたし)”があってはじめてその存在が許される。

 その程度の、いわば”亡霊”とでも表現しようか、各種”技能(スキル)”を内包した【ギフト】の一種でしかないって訳だ。



 ────だからこそ、不味い。



 ”わたし”が精神世界の奥底に引き篭もってしまい、”亡霊”と何ら変わらない”俺”が、完全に表に出て来ている。

 さすがにこの状況は普通ではないし、当然健全でもないだろう。



 いくら縁と情の両方ともが薄かったとはいえ、”実の母親”にその存在を真っ向から全否定されてしまったんだ。

 幼い”わたし”の精神が耐えられるのかと問えば、それはかなりの無理があったに決まっている。


 そもそも”俺”の存在が無ければ、ヴィクトーリア(わたし)は数え5つの未だ甘え足りないただの”ガキんちょ”でしかない。


 世間一般でいう普通のご家庭ならば、終始母親の腰にしがみついてウザがられていても、なんらおかしくはない。

 数えなんて実年齢で言えば2歳近くもの幅があり、言ってしまえば、まだ彼女はそんな年齢でしかないのだから。


 でも、”ヴィクトーリア”は、そのわりにまだちゃんと理性を保っていたな、と大袈裟に褒めてやっても良い方なのだろう。


 だって、普通のガキなら、あの場面。

 確実に()()を起こしていたはず。


 ”俺”の持つ各種技能を盛大(ふんだん)に使って、そんなのを引き起こそうものなら……


 じぃじの荒ら家は、中の住人含む周囲を巻き込んで完全に消滅。


 それで、たぶんまだマシな方。


 最悪の場合、ここの開拓村に棲む全ての知能在る生命は、”俺”の【アイテムボックス】の片隅に未だ鎮座していらっしゃる、かの”大空魔竜”が辿った()()()()を迎えていたことだろう。



 ……だから。”まだ、マシ”。



 でも、それは”周囲にとっての”最悪ではなかった。というだけで、”この人生の”主人公たる()()()()()()()()()()()()、お構いなしに進み続ける彼女の物語になってしまった……

 当然”わたし”にとって、これはゲームオーバーにも等しい”最悪の場合”だろう。



 ……どーすんだ。

 自称、運命の神様よぉ。



 お前が本当に<創世神(全能神)(ジェネア=ハールド)>の別側面だと云うのなら、この惨状、どうにかしてみやがれってんだ!



 ……とはいえ、この世に明けない夜は無く、何れ朝日が顔を出してもくる訳で。


 卵目的で複数羽飼ってる明告げ鳥(ニワトリ)達が盛大に声を張り上げ、朝日を迎える準備は万端だ……きっと、”俺”以外は。


 ……そういや、日本神話とかではニワトリって神聖な動物の扱いだったっけか?


 天岩戸にお隠れになられた天照大神(あまてらすおおみかみ)に出て来てもらうために尾長鶏が鳴いた……とかなんとかって、かなりうろ覚えなんだけど。

 精神の扉の奥底にお隠れ(ヒキコモリ)あそばせたウチの”ヴィクトーリア”ちゃんも、この声で出て来てやくれませんかね? いやホントマジで。


 くそ、”俺”が天手力男命(たぢからおのみこと)だったら……って、その前に天宇受売命(あまのうづめのみこと)の舞いが要るんだっけか……この場合は、誰がその役を?

 って、母親(ヴィルヘルミナ)なんかに言える訳ねぇって。

 当事者だし、てか、そもそもの加害者(原因)だし……


 何より”わたし”の方の心配をされちゃうよっ! 頭の。


 もしくは”悪魔憑き”を疑われて、そのままヴィクトーリア終了のお知らせってか。


 ……まぁ、ある意味間違っちゃいないンだけれどさ。

 ”俺”なんて()()()が、今ヴィクトーリアを動かしている訳だし。



 そんなことグダグダ考えていても、結局は何の益も無い。


 今の”俺”が彼女にしてやれることなんてな、せめて”わたし”が目を覚ました時、少しでも今より生き易い(マシな)環境を整えてやることだけだろう。


 まだ”じぃじ/ヘンドリクおじさん”も、”ばぁば/ユリアナおばさん”も起きてきていないみたいだし、行動するなら今の内……かな。


 村長の爺さまのせいで使えなくされた”村のインフラ”の数々は、文字通り”生命線”だった。


 ”水環境”の一切を断たれた以上、我が家は日々の生活すら覚束無いだろう。


 畜産、農産の活動は言うに及ばず、それ以前に、一家全員の”生命活動”にすら支障が出てしまうのだ。



 フィン(サル)ベルンハルト(ブタ)、そもそもふたりの望みは、ヴィクトーリアの心からの屈服だろうし、少なくともこちらが死んでしまう前には、なんらかの手を差し伸べてはくる……はず。


 ……ただ、こちらがはっきり拒絶の意思を示してみせだけで、村の男の子全員を嗾け木の棒で滅多打ちにして半殺し……とかを平然とやってくる様なトンチキ過ぎるクレイジーさも持ち合わせていやがるので、そこに関してだけは正直不安しか無かったりもするが。


 熟々(つくづく)ドン引きレベルのクソガキどもだよ、マジで。


 ヴィクトーリア(わたし)最大の不幸は、この開拓村で生を受けたこと──かも知れない。

 ふたりの老夫婦(じぃじとばぁば)には本当に悪い話なんだけど。



 ならば、まずその水を何とかしてやろうじゃねーか。


 長年無駄に生きてきたお陰で、”俺”は他の人間より数多くの技能スキルを持っている。

 とはいえ、全部が全部中途半端なんだけどさ。


 周囲にマナさえあれば、水はいくらでも魔法で生成できるし、洗い物やら溜まった厠の中身だって【浄化(ギフト)】があれば何とでもなる。

 肥料が足りなければ、森へ行って【アイテムボックス】に腐葉土をたんと集め、それを畑に撒けば良いだけだし、最悪、今まで”俺”が貯めに貯めた”財産”を放出してしまえば、街でのんびり暮らすことだってできる……それこそ”大空魔竜”の骸なんか、国家予算レベルの”お宝”になるはず。



 極端な話、”俺”が自重の一切をやめてしまえば、この程度の”嫌がらせ”なんぞ、全然、これっぽっちも屁では無いのだ。



 ただ、水関連ひとつを取っても、色々と問題が生じてくる。


 何気無しに水生成を続けて生活していれば、いくら実際に我が家が”村の共同井戸”を使用していなかったとしても、



「お前ら、村の”財産”盗んでるだろ?」



 ……と、言い掛かりを付けられたら、(たちま)ちに申し開きができない状況に陥れられるだろう。


 ”俺”が村民の目の前で、魔法や【ギフト】の実演をしてやればそこで解決する話────だけれど、きっとそれをやってしまったら、以前”やらかした”世と同じ末路を辿るだけ。



 教会か、お貴族さまか────



 そこは分からないけれど。まぁ、お迎え(拉致)がどちらであったとしても、最期は過労死が関の山かな。



 だから、水生成をやるのは、今回だけ。



 じぃじ、ばぁばが起きてしまう前に、今日明日の分のお水を瓶にたっぷりと。

 その前にちゃんと【浄化】は当たり前。



 くっちゃい”くみ取り式ぼっとん”と云う名の(トイレ)は、”わたし”も心底嫌だったのだろう、常に結構な力の【浄化】が掛かっていた臭い……まぁ、くちゃいからねぇ……から、これに関しては全力……で、良いか。



 で、肝心の水確保の手段なんだけれど。



 『村の井戸を使わせてもらえないなら、自分の力で掘れば良いじゃないっ!』



 ……で、いこうかと。



 「ドレミ、ファ、ソラ、シド。出ておいで」


 エレキギターとベース。シンセサイザーに一揃えの電子ドラムに翼が生えた、およそ生命の概念に対し盛大に唾を吐きかけ、この世界の神様連中に向かって喧嘩を大安売りする様な見た目をした精霊さんたちを、俺は喚び出す。



 村の全てのインフラは、村長が私財を投げ出し、村民たち皆の力で切り拓いてみせた、”村長の財産”であり、”村の財産”だ。


 だから、その”財産”を借りる。その料金が税金だ……そういう理屈。


 なので、今回の件に関して、極端なことを言ってしまえば。



 『使わせてくれねーのかよ、わかった。じゃあ、金返せ』



 で、済む話。



 そこにヘンドリクおじさんが気付くのかは知らないが。

 ”共有財産”だから、まぁ無理かもね。



 だが、村民の家の敷地内に関して云えば、その限りではない。


 自分の財産(かね)を使い、自力で拓いて、自力で最後まで掘れば、それは誰も文句が言えない、”我が家の財産”だ。


 その”条件”を満たす為には、”我が家の敷地内に水源が無ければ”成り立たないっていう、最大の制限はあるけれど。



 「……うん、あるじゃねぇか。しかも村の共同井戸なんかよか、水質も水量も良さそう」



 【音の精霊】達を喚び出したのは、地中の様子を音波走査で確認するため。


 こんな”試み”自体、今まで思い付きもやったことも無かったのだが、4人とも「イケるよー」と太鼓判を捺してくれたのでやってみた訳。


 水質が良さそうなのは思わぬ誤算。正直、多少汚れた水が出てきても、全力で【浄化】すれば良いかー。などと考えていたので、その手間が省けて良かった。



 「見てろよ、意地悪爺さんめ。これを契機に、必ずお前さんを追い落としてやっかんな……」



 どうせ掲げるならば、目標は高い方が良いに決まってる。



 実際にそれをやるかどうかに関しては、ひとまず置いといて。


 でも、少しくらいは”ざまぁ”をカマしてやらないと、”俺”の気が済まないってだけの話。じぃじとばぁばには、チョイと酷な状況が続くかもだけど。少しだけ辛抱してくれるとありがたい。


 ”わたし”が戻ってきたら、その”償い”を、ふたりで一緒にするから……さ。




誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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