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”運命の神”は、俺の敵。  作者: 青山 文
第四章 これから、わたしは
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119.わたし不在の、他の者たちの物語1


 Side:【クリスタル・キング】(ワン) 泰雄(タイシオン)


 ────やられた。


 こうなるだろう事は、充分に予想ができていた、筈だったろうに。

 己が至らなさと要領の悪さに対し、ほとほと嫌になってくる。


 「キング。ご主人さま(マスター)は、何処(いずこ)に?」


 「……お前さんも充分に予想が付いてンだろ、クリス?」


 其々に、仰せつかった”お役目”を終えて。

 我が”師”であり、”主”の元へと戻ってきてみれば。

 今や、”もぬけの殻”となった、天蓋の中身を眺める羽目に、なるなどと。


 「……いや、まさか。だが、それはっ……」


 常々クリスは、俺なんかと違い我が師の心情をより深く理解していた。師の発した、ただ一言で、全てを察するなんて芸当、俺には不可能なのだから。

 だから、彼女が絶対気付かない訳は無い。

 ただ、態と見ようとしなかっただけに過ぎないのだ。


 「その”まさか”なンだろうさ。あのお方は()()()()()()()のだよ。我らを置いて、な?」


 <継承者(サクセサー)>殿は、その可憐で儚げな見た目と反して。

 あまりに苛烈で、炎の様に燃え盛る精神の持ち主だ。


 そんな我が”師”曰く、


 『実は、今までと全然”中身”が違ってるんだけどね、わたしは……』


 とのこと、らしいのだが。

 その”本質”は、以前と変わらず全く同じである。と……少なくとも、俺はそう感じた。


 で、あるならば。

 こうなることは、当然の帰結であろう。


 「では、我らはこれからどうすれば……?」


 クリスが抱える不安も判る。

 俺たちは、”取り残された”のだから。


 「我らならば、師の足跡を追い掛け、そして追い付くこともできる。だが、無駄足になる可能性も捨てきれぬし、それに何より、()()……だろうさ」


 <歌祖>(シング=ソング)様が世に編み出してきた希有な技能(スキル)の数々を駆使すれば。

 師が望む通りの"復讐”を遂げる、などと云うのは、恐らく容易な筈。


 それこそ。


 黄金級(ゴールドクラス)認定間近と云われし我ら【クリスタル・キング】の技量(うで)を持ってすら、


 『足手纏いだ』


 と、師に思われてしまう、くらいには。


 ────だが、それでも本音を云えば。


 「……どうして、貴女様は。我らの同行を、お許しなってくださらなんだ?」


 深い悲しみと狂おしい程の悔しさとが、胸の奥から込み上げて。

 己が未熟を、ただ嘆くばかりだ。


 確かに、<歌手(シンガー)>としての我が技量は、悲しい哉まだ未熟。

 そう褒められたものでは決して無いだろう自覚を、常に持ち合わせている、つもりだが。

 

 その辺、俺なんかより遙かに()()クリスであろうと、我らが(せんせい)である<継承者>殿と比べてしまったら。

 大人と子供の差以上の開きがあるのだと云わざるを得ない。


 「己が未熟を今更嘆いても致方無かろうよ、キング。ご主人さまのため、我らは次に何を為すべきだろうか?」


 やはりクリスは凄い奴だ。

 俺などと違い、その眼差しは常に前へ向いている。


 「そうさな……」


 師が我らの下に()()()()()()()()()

 それを前提とするならば。


 「すでに辺境伯領には、我らの”仕事”なぞ何も残っておらぬだろうよ」


 この先は、国家間のやり取りを残すのみだ。

 当事者たる辺境伯はもうこの世におらぬし、嫡子たるフィリップ卿も同様。

 こと()()()という面のみに言及するならば、辺境伯夫人こそが相応しいのだろうが、悲しい哉女性の身では交渉の席で舐められよう。


 ましてや、一介の”冒険者”に過ぎぬ我ら如きが、その様な重大な場に同席できる訳も無し、だ。


 で、在るならば。


 「──お前さん、とっくに気付いているんだろ?」


 「まぁ。だけれど、あなたの口から直接聞きたい」


 長い事同じ窯の(パン)を食い、同じ時を過ごしてきたら。

 本当に必要な会話以外、ふたりの間には出なくなってしまう。


 伝わっているのだから要らぬ。

 ……訳では無いと云うことだ。反省せねば。


 「リート子爵領だ。我らは、あのお方の()()()()()()を護る」


 「────承知」


 苛烈な意思を持つ師のことだ。

 子爵家の危機を招いた()()()()()()()、きっと全て排除為さるのだろうが。

 かの幼き脚では、全てを終えるにも暫しの時が要る筈。

 それまでは、我らふたりで護る。


 「ま、アウグスト殿であれば、我らの合力なぞ不要であろうが」


 「かも知れぬ。だけれど、そうでもせねば……」


 ────繋がりが、途絶えてしまいそうで。


 クリスの気持ちが良く解る。

 俺も、同じ事を思ってしまったから。


 だから、せめて。



 ◇◆◇



 Side:マフダレーナ=ディア=クレマンス


 「……エリーは、落ち着いたかしら?」


 こと、精神分野において。

 身体を癒やす専門の<回復術士ヒーラー>には、些か荷が勝ちすぎる話、だったのかしら。

 回復術士の技能を修めし特殊家政婦(スペシャル・メイド)は、わたくしの問いに短く『否』とだけ口にした。


 愛しき我が子を目の前で亡くしたその衝撃は、如何程のもの……であろうか。


 我が孫、ラファエルとパウル、そのどちらかを失ったと仮定すれば。

 ……やはり、ダメね。

 そんな”不幸”、わたくしには想像することもできない。 


 「国王陛下(ディーデリック)には、やはり荷が重すぎた様ね。先王陛下(お兄さま)は人を見る眼が無かった。その証明がこうも……」


 露骨に出て来る、だなんて。

 我が甥ながら、本当に情けない。


 祖国が滅びるのは、一向に構わない。

 貴族家が廃れてしまうのも、この際仕方がない。


 けれど。

 ────我がクレマンス公爵家と、(エリー)のレーンクヴィスト辺境伯家だけは、何としても。

 独立の道も模索すべき、であろうか?


 最悪の筋道(シナリオ)は、内乱による荒廃に乗じた他国からの侵略。

 今の帝国に、()()()は欠片も無いだろう。

 だが、西風王国(ゼピュロシア)は、隙を見せれば充分にあり得る。


 とは云え。

 現状、当事者たるウォルテ王国を実力で退けられねば、先のことを考えるだけ無駄、なのだけれど。


 「王都側の街道を封鎖せよ。割く兵力は最低限度で良い。残りはすぐに出立できる様、準備は入念に、良いな?」


 ……ああ、本当に嫌だわ。

 戦なぞ、何も産みはしないと云うのに。


 「それもこれも、全部先王陛下(お兄さま)が悪いのだわ」


 自分が楽するためだけに。

 早々にボンクラ息子に玉座を明け渡して。


 「無事全てを終えることができたのなら。親子共々、絶対責任を取らせないと」


 土下座だけでは生温い。

 ……そうね。

 せめて、下げさせた頭に、ヒールを捻り込んで差し上げねば。


 エリーとふたりで。

 それで最低限、かしら?


 ああ、そうそう。

 あの娘……ヴィクトーリア子爵令嬢もご一緒に。


 ────うん。

 なんだか、やる気が出て来たわっ!



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

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