一話
窓の外は、雲ひとつない青空だった。
雲ひとつない青空で、さんさんと降り注ぐ太陽で、教室の中はせいろの中で、俺たちはシューマイだった。
「どだ、京介? 見えるか?」
「うーん……微妙……あ、いたいた」
「え? マジ? どこどこ?」
俺の後ろで窓の外を覗き込んでいた祐二に、俺は手首だけ動かして指差してやる。
「おおっ、いたいた! さっすが女テニのホープ穂香ちゃん、今日も可愛いねぇ」
「そーだなー……俺的には穂香ちゃんより部長の方が好みなんだけど」
「えー? マジかよー?」
「……」
「……」
「……暑いなー」
「……ああ。そろそろ死にそーだ」
夏休み。そうだ、夏休みのはずなのだ、本来なら。つい数日前まで、夏休みにどこへ行くかや何をするかの妄想を頭に浮かべていた。なのに。
「……最悪だし……」
蓋を開けてみればこの有様だ。休暇に飢えた俺たちにサマーベイケイションの波は一向に来そうにない。なぜか。
「はいそこ、こそこそ喋らない!」
理由は単純明快。連日夏休みの補習が目白押しだからである。教師に注意されてしまったので、俺は仕方なく祐二との雑談を切り上げ前に向き直った。
「はいそれじゃ続けますよーXに三分の二を代入すると変化の割合がこうなって……」
教師が謎の言語を吐くと、黒板にのたくった古代文字が次々と追加されてゆく。
「……やってられっかよ、もう」
俺は辛うじて顎を支えていた腕の力を抜き、机の上に崩れ落ちた。会話が途切れ、ただ聞こえるのは教師の宇宙語と油蝉のプロポーズだけになる。憂鬱な日々。つまらない日常。
まるで同じ時間の中をさ迷っているかのような、デジャブだらけの一瞬。