第91話 出発前の準備
「悪いな、来て貰って」
艦長室でロズルトと向かい合うと、手紙と鉛筆サイズのデータカートリッジを渡した。
この2点はミチェイエルから預かってきた物で、領主に直接渡せと言われた物だ。
データカートリッジには代官が不正していたデータが入っており俺たちの証言を証明する物だ。これがなければ会って話しただけでは信用されないだろう。
とても重要な物だった。
「そんな物を持っていたのか?」
このことは誰にも話していなかったので驚いていた。
「ああ。星系軍のある人物から渡されたという。これを直接渡せば疑われることなく信頼されるそうだ」
「それがあれば堂々と会いに行けるのではないのか?」
「いや、駄目だ。これを見せても領主殿に会う前に握り潰されるかもしれない。領主殿の近くにも代官の仲間がいる可能性がある、渡さず消すことも可能だ」
領都にも代官の息が掛かった仲間がいるかもしれない。
だから直接渡した方が安全なのだ。
「そんな重要な物を俺が預かって良いのか? できれば遠慮したいのだが」
顔が引き攣っているが他に任せられる人はいない。
エミリーにこんな危険な物を持たせられないからだ。
「これはお前でないと駄目だ。この存在を知られたら命を狙われる危険がある。そうなると自衛ができるお前しかいない。エミリーを危険な目には合わせられないだろ?」
「それはそうだが……」
「俺が行ければ良かったが、帝国軍に名前と顔を覚えられているので入管ステーションで捕まる。だからお前に託すことにした。紛失するなよ。予備はないのだからな」
「はぁ、仕方がない。領主殿に会うまで大事に預かっておくよ」
そう言って受け取ると大事に内ポケットにしまった。
「しかし、あの作戦。とんでもないことを思い付くな。大丈夫なのか?」
「正規の手順で面会を求めても会っては貰えない。伯爵となると男爵とは違い市民に会えるような人でない。その男爵でさえ手続きしても何週間も先になる。そんな人と直接会えるわけがない。だからこの作戦にしたのだ」
「かなり危険だな。例え会って話ができたとしても忍び込んだだけで罪だ。タダで帰れないだろう。そのことはみんな知っているのか?」
「あの顔だと知らないだろうな。すまんが後で謝っておいてくれ。できるだけ早く釈放するようにするからと」
「はぁ、やはり貧乏くじを引いたか。こうなるのが分かっていたから嫌だったんだ」
例え如何なる理由があろうとも領主邸に侵入しただけで罪だ。
捕まるのは覚悟するしかない。
「ところであのメンバー、何か理由があってのことか?」
「一度あのメンバーで仕事をしているだろ。だから気心が知れているメンバーの方が良いだろうと思ってな」
今回のメンバーは、この戦艦を強奪したメンバーだ。
お互い知っているので何かとやりやすいだろうという配慮で選んだのだ。
「知らない連中とやるよりは良いがしかし、シューイチもメンバーに入れるとは思わなかった。魔法は嫌いではなかったのか?」
「あういう不確かな物は嫌いだ。だが、忍び込むのであれば彼の魔法は必要になる。それは横で見ていたお前達が一番知っているだろ?」
兵士の前を堂々と歩いても気が付かれない。
話しを聞いたときは耳を疑ったが、こうして戦艦を強奪してきたのだから認めないわけにはいかない。
「あれは不思議な光景だったな。誰も疑わずに横を通り過ぎていく姿は、慣れるまでビクビクしたぞ。いつ見つかるかと冷や汗ものだったよ。今回もその手で行くのか?」
「さあな、それは彼に聞いてくれ。それよりも頼んだぞ。後はエミリーだが、あまり表に出すなよ」
「心配ならメンバーに入れなかった方法がよかったのでは? 嫌がっていたぞ」
「貴族に会いたくないのだろう。しかし、今回はそんな我が儘は言ってられない。仕事して貰わないとな。重要な仕事があるのだから」
「お前は人使いが荒いな。俺だったらお留守番させているぞ」
「仕方が無い。これはミチェイエル様からも言われたことなのだ。後で彼女にも話しておく」
「それを言われたら俺は何も言えないね」
この作戦がいかに重要かは彼もよく知っている。
だからこそ彼女も同行させるのだ。失敗はできないと。
*****
今後のこともあり、俺は出発前にダンジョンコアと話すことにした。
サーバールームでコアと向き合う。
「お前の思惑通りになってきたな」
『そんなことはありません、マスター。私にも読めないことはあります』
今回の件は、コアに責任は無いが何か文句を言いたい。そういう気分だった。
「俺はいなくなるけど大丈夫か?」
『行かれる前に魔力の補充をお願いします。しばらくは大丈夫だと思いますが、何かあった場合、心許ないので』
セーブすれば1ヶ月は持つそうだが、戦闘になってジェネレーターの出力を上げたら足りなくなるとのことだ。なので言われた通り魔力を補充する。
コアに手を置いて魔力を注ぐ。
相も変わらず底なしで、俺のギリギリまで入れても一杯になることはなかった。
「俺がいない間はグランバーが指揮を執る。大丈夫か?」
『何か問題がありますか?』
「いや、俺の指示以外聞かないとか言っていただろ? だから大丈夫かと』
『問題ございません。そこらへんの判断は状況を見まして指示に従います。マスターが心配する必要はありません』
「そうか、ならよいが……」
この話しを聞くと、マスターて何? と思う。
やはり俺は必要ない。自分で勝手に判断して動くのだから。
「1つ聞きたいが、俺の事をマスターを呼ぶが、俺の指示に従う気はあるのか?」
『どういうことでしょうか?』
「簡単に言えば俺の命令に従う気はあるのか、ということだ」
『それは当然ではありませんか、マスター。私はマスター無しでは生きられませんので、マスターの指示に従います』
「……」
凄く嘘くささを感じる。
AIは嘘をつくことはできないと聞いているが、こいつは平気で嘘をつく。
警備システムの事だって嘘をついていたし信用できない。
こんな物は使えないようにして、魔力を与えない方が良いのではと思う。
凄く危険な物を目覚めさせたのではないのか?
ダンジョンコアを見ていると、そんな気さえする。
恐らく、暴走したら誰も止められない。高出力のジェネレーターに最強のシールドと火力。
今後付き合うのであれば色々と考えないといけないだろう。
自律型AIは危険と言う話しだが、これはそれ以上に危険だ。さすが神が作った物。俺たちに扱えるような物ではないのかも知れない。
「それじゃ任せたぞ。船のクルーに迷惑を掛けるなよ」
『いってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしております』
凄く不安を感じるが任せるしかない。
この後は自室に戻って荷物を整理し、格納庫に向かった。
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