第90話 選抜メンバー②
ロズルトが行くことになり、これで3人目。
残り3人だが、クルーの顔を見ると全員が視線を合わさず顔を逸らしている。
誰も貴族とは関わりたくないのだ。
そんなクルーのことなど気にせず話を進めるグランバー。彼の中では行くメンバーは決まっているのかも知れない。
「ジャックとニクスを連れていけ。領都に行って情報収集するには諜報部の彼らがいた方が何かと便利だからな」
運が良いのか悪いのか。
こんな事に付き合うために乗っていたわけでは無いと思うが……。
でも、その方が彼らも喜ぶか。調理場で食事のお手伝いをするよりは。
あと残り1人。
静寂がブリッジを支配する。
全員の視線がグランバーに集まる。そのグランバーはゆっくり俺を見て口を開いた。
「シューイチ、お前も行ってくれだ」
「……はあ? 何で俺が?」
嫌な予感が的中した。だから俺を呼んだのだ。
みんなが安堵の表情を浮かべる。カッツポーズをする奴もいるが、そういうのは見えないところでやってくれ。イラッとする。
「お前の魔法があれば領主邸に忍び込めるだろ?」
「はい?」
何言ってんだこいつ。頭がおかしいのか?
変なことを言い始めたぞ。
「何で忍び込む必要があるんだ? 堂々と会いに行けば良いだろ」
コソコソする意味は無いと思うが。
「よく考えて見ろ。俺たちが行って会って貰えると思うか? 俺たちは普通の下流市民だ。会えるはずがない。役所に回されて苦情を述べて終わりだ。そこから先はどうなるか。戯言と思われて処理されるのが落ちだ。それではここに来た意味がない。だから直接会って直訴しなければならない。だからお前が使った魔法が必要なのだ。この戦艦を盗んだときのように」
「……」
えーと、頭の回転が追い付かない。
俺に領主の屋敷へ忍び込んで会って来い、と言っているのか?
屋敷の警備がどれだけ厳重かは知らないが、普通に考えても無理だ。頭がおかしいとしか思えない。
「寝言は寝てから言って欲しいね。屋敷に忍びこむなど、そんなの無理に決まっているだろ。頭がおかしいとしか思えない。そう思うだろ? みんなも」
全員に同意を求めたが、なぜか俺を見てニヤニヤしている。
きっと、自分が行かなくても良くなったので楽しんでいるのだ。今までのお通夜のような雰囲気が嘘みたいに明るい。
それに戦艦を盗んだ実績もある。できると思われているのが悔しい。
「確かに、俺たちに会う方法は無いな。屋敷の前で騒いでも捕まるだけだし相手にして貰えないだろう」
「そうよね。私もどうやって会うのか疑問に思っていたのよ。普通に行っても会えないし、だからといって面会を求めても私たちじゃ相手にもされないわ。どうするのかなって」
おい、何で二人して視線を俺に向ける。お前達は俺を巻き込もうとしているな?
やらないぞ、絶対に。
何で俺がそんな危険をおかさないといけないのだ。おかしいだろ。
それにそこまでやる契約ではない。俺は船に乗っているだけでいいはずだ。
契約外だ!
「なぜ、そこまで俺がやらないといけない? ミチェイエルとの契約でそこまでやるとは聞いていない。それに態々行かなくてもここまで来れば通信が使えるんだろ? それで連絡はつけられないのか?」
「通信は駄目だ。帝国軍にここの位置が知られて速攻で沈められる。俺たちは追われている身だ。それを忘れてはいけない」
ああ、面倒くせえ!
イライラが爆発しそうだ。
思いっきりファイアボールを叩きつけたい気分だ。
その燃え上がる炎を見ながら酒が飲みたい。日本酒が。
何だか日本が恋しくなった。
「そう言うな。ミチェイエル殿からお前のことは一任されている。もし、力を借りたいようなら彼が出す条件を全て飲んで協力させても良いと。俺としてはそんことにならないと思っていたが、計画が狂い、そうも言っていられなくなった。これはとても重要な任務だ。お前の力が必要だ。頼む」
そう言って頭を下げた。
グランバーが人前で頭を下げるのは珍しく、周りの全員がそれを見て驚いていた。
「まぁ、シューイチの魔法があれば簡単だろ? あの認識を阻害する魔法を使えば」
気楽な感じでロズルトが言うが、それが通じるのは人の目だけだ。機械を通せば通用しない。
領主邸のセキュリティーがわからないので何とも言えないが、楽観しない方が良い。様々な対策がされているはずだ。
「そうよね。シューイチの魔法があれば何とかなるわ。屋敷に忍びこんでちょっと話してくるだけでいいんだから。簡単よ!」
何でそんなに楽しそうに言うんだ?
全員が俺を見てるぞ。
ここに俺の味方はいないようだ。
「はあ、わかったよ。その代わり報酬はきちんと貰う。どんな要求でも構わないと行ったな。後悔するなよ」
何でこんな事になるのだ?
今度は領主邸に忍び込むことになった。
元勇者を盗賊か何か間違えていないか?
でも、そっち系のスキルが多いのも事実だし、義賊の真似事もしたことがある。得意と言うほどではないが、やってできないことは無い。
ただ、魔法が通用すればの話しで監視カメラや赤外線センサーなどで、24時間監視されてたら無理だろう。
魔法で機械を破壊することはできても欺くことはできない。
「でもその前に1つ。俺も指名手配されているが領都に入れるのか? 入れなければ何もできないぞ」
俺の顔は星系軍に知られている。
領主邸に入る前に惑星そのものに入れないと思うが。
「お前の指名手配はニルブルク星系だけの話しだ。ここまで手配はされていないだろう」
「別の星系に行けば罪は消えると?」
「いや、他の星系に行っても国を出ない限りは手配される。罪が消えることはない。だが今回は、ニルブルク星系の亜空間通信が繋がっていない。こっちまでお前の情報が上がっていないはずだ。だから捕まることはないだろう。亜空間通信が復旧し通信が繋がれば、国内中に手配されるとを思うが……今は大丈夫だ」
ネットワークが遮断されているから向こうの情報が上がってこないと。
通信を切ったことが徒となったか。
それなら大丈夫か?
「だが、将来的には指名手配されるということか?」
「星系軍と戦闘し1小隊壊滅されたからな。この戦争が終わったときにどうなるか。恩赦があればよいがな」
そう言ってニヤッとする。
なんでそんなに嬉しそうに話すのだ?
こっちは頭が痛いのに。
「はあ、何でこんな事になったのだ……」
もし、指名手配が解除されなかったら他の国へ行くしか無いか。この国で活動はできないだろう。
俺はガックリと肩を落とした。
「でも、私たちはシューイチが行ってくれることになって助かったわ。これで私が領主と話さなくても良いんだから」
「はい?」
行っている意味がよく分からないが、エミリーは、それはもう満面の笑顔で喜んでいる。
「何言ってんだ。俺1人では行かないよ。行くときは全員で行くんだろ?」
あれ? 2人とも目を逸らした。
俺に押しつけるつもりだ。
「全員で行ったら見つかる確率が上がるだろ。それなら1人で十分じゃないか? 俺たちはかえって邪魔になると思うが」
ロズルトが言うと、他のメンバーが、うんうん、と頷いていた。
最初から打ち合わせでもしてあったのか、妙に息が合っている。
俺はグランバーを見るが、やれやれ、といった感じで首を振っていた。
「誰が行くかは後でメンバー内で話し合ってくれ。俺は領主と話せるのであれば誰でもかまわないから」
俺たちに丸投げした。
自分が言うことで恨みを買いたくないのだろう。
チッ、逃げやがったのだ。
「それと渡す物がある。ロズルト、後で俺の部屋まで来てくれ」
誰が領主に会うかは当日の警備状況を見て決めることになった。
最悪は俺1人で行くことになるかもしれないが、まぁ、そうならないように祈ろう。
今回行くことになったのはロズルトとエミリー、それとジャックとニクス。この2人の意思は聞いていないが、まぁ、強制だろう。それと船の所有者ローズ。そしてなぜか俺。
合計6人で領主邸に向かう。
作戦は現地で状況を見て、という行き当たりばったりとなり、不安しかない旅路になった。
……胃が痛い。
着く前に倒れそうだ。
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