第66話 警備システム②
モニターでファイルを調べていると、エミリーがブリッジにやってきた。
今日は当番の予定はないので、俺と同じように心配になって見に来たのだろう。
両手にはドリンクを持っていた。
「どう、博士。上手くいきそう?」
博士の近くにドリンクを置く。
差し入れのつもりで持ってきたようだ。
「駄目みたいだぞ」
忙しい博士に代わって俺が答えた。
「あれ、グランバー。当番だっけ?」
「俺は違う。でも気になってな」
お互いに顔を見て苦笑した。
考えていることは同じということだ。
「それよりもちょっと手伝ってくれ。ファイルが多くて1人ではキツくてな。おかしな物がないか調べて欲しいのだ」
俺は警備システムのことを話し、手伝って貰うことにした。
「戦闘終了直後に誰かが警備システムに入ったということ?」
「そうだ。それでおかしな所が無いか一つ一つ調べているところだ」
「それは大変ね。でも、何を調べるか分からないと私も調べようが無いわよ。何を調べるの?」
「取りあえず中の映像ファイルに変な物が混じっていないか確認してくれ。ダミーという可能性もあるからな」
「分かったわ」
エミリーも近くの席に座り調べ始めた。
だが、結局何も発見できず徒労に終わった。
「おかしなファイルは無いわね。全て監視カメラの映像ファイルだったわよ」
「そうか……」
直ぐに分かるとは思っていなかったので、それ程落胆はしていなかった。
「結局は誰が警備システムに入ったか分かればいいのよね……ねえ、入退室記録はどうなっているの? その時間は第1戦闘配置中だったのでしょ? もし誰かが部屋を抜け出してシステムに侵入したのであれば、部屋を出た記録が残っているのではないの?」
各部屋に入るにはIDカードがいる。
それを使えば記録に残るので、誰がどこでいつ部屋に入ったか分かるようになっている。
その記録を見れば部屋を抜け出した人物が分かるということだ。
「なるほど。それは盲点だったな」
その時間は第1戦闘配置中なので、自分の持ち場を離れることはできない。もしそこから離れれば、それは不審者か警備システムに入った人となる。さすがに人目が付くところで見たりはしないだろうから。
「わかった、調べよう」
第1戦闘配置中から入退室記録をみると、1人を除いて持ち場から離れた人物は居なかった。
その1人とは、
「例の彼が出ているな」
「シューイチのこと?」
「そうだ」
「でも、彼は確かブリッジに来ていたわよね。その時の記録かしら」
「多分そうだろうが……」
何かが引っ掛かる。
彼が部屋を出た時刻は戦闘中だ。だが、ブリッジに来た時には戦闘が終わっていたはず。
その微妙な時間のズレが気になった。
「おかしな行動してないか監視カメラを調べてくれ。どこか寄り道していないか確認を」
「彼を疑うの?」
「部屋を出た時間とブリッジに来た時間がズレている。その間、何をしていたか調べたいのだ」
「考え過ぎでは無いかしら。途中でトイレにでも寄っていたのかも」
「何でも良い。ともかく調べてくれ。何も無ければそれで終わるのだから」
エミリーが不満げな表情で彼の部屋の前の監視カメラをチェックする。
部屋を出る姿が映っており、ブリッジに着くまではどこにも寄っていないことが確認できた。
「おかしな所は無いわね。真っ直ぐに来ているわ。ただ、時刻を確認すると戦闘中にブリッジに来ているわね。私たちが気が付かなかったってことかしら?」
監視カメラの映像を確認したら、戦闘中に彼がブリッジに来ていた。
ブリッジの監視カメラにもそれが映っている。
俺たちがまったく気が付かなかっただけのようだ。
「あの時に来ていたのね。全然気が付かなかったわ」
「それだけ戦闘に集中していたということだ。俺も気が付かなかったようだな」
戦闘が終わってから来たと思っていたが俺の勘違いだったようだ。
でも、あの状況では仕方がない。
周りに気を使うほど余裕は無かった。気が付かなくても仕方があるまい。
「それじゃ、問題ないわね」
エミリーはちょっと安心したかのように微笑みながら言うが、それでも何かスッキリしない。
何だろう、このモヤモヤする感じ。
頭を悩ませた。
「結局犯人は分からず終いね。調べようがないわ」
その時間の映像ファイルを調べたが、おかしな人物は映っていなかった。
彼を除けばの話だが。
「そうだな。さすがにこれ以上は追えないだろう」
手がかりが無ければ無理だな。
ただ侵入したというだけでは。
「もう、今日はもう止めよう。エミリーも休め。休める時に休むのも大事な仕事だぞ」
「わかったわ。でも警備システムのことはこのまま?」
「後はセキュリティーを強化して、侵入されたら直ぐに分かるようにする。それしか無いだろうな」
エミリーは頷くと、博士が食べた食器を持ってブリッジを後にした。
こういう気遣いができるのは女性だからだろう。
俺にはそういう気遣いはできない。
「博士も少しは休んだらどうだ?」
「うん? わしか。わしは大丈夫だ。それよりもお前さんも休めよ。艦が動くようになれば休む暇は無くなるからのう」
それはいつの話だ、と思いながら頷いた。
ブリッジを出るとき、ふと、メインモニターに目が行った。そこにはAIの女性士官が映っており、ただ黙ってこちらを見ていた。
「俺がブリッジに入ったときは映っていなかったはずだが……」
きっと博士が何かしたのだろう、と思い、視線を戻すと、女性士官が一瞬微笑んだ。
慌てて視線を戻すが表情に変化は無く、無表情のままだった。
「一瞬微笑んだように見えたが……見間違いか?」
AIが微笑むなど無い。
AIにはそんなプログラムは無いはずだ。
しばらく見ていたが表情に変化は無かった。
「疲れているな。錯覚するとは……」
疲れている目を指でこすると、モニターに背を向けブリッジを後にした。
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