第3話 異世界へ②
「嫌と言われても困るのう。わしにも都合というものがあるのだが。それよりも良いのか? 魔王を倒さないと願いは叶えられないぞ。前回の願いはこっちの世界で生き返ることだったはず。それが叶えられないと生き返ることはできん。お主はもう死んでいるのだからな」
「死んでいる!?」
「それはそうじゃ。でなければ、この世界には来れんよ。ここは死者の間だからのう」
そうか、殴られたときに死んだのか。打ち所が悪かったのか?
異世界なら殴られたぐらいで死ぬことはないのだが、送還された時、レベルは1に戻り魔法も封印されて使えなくなった。ようは一般人と同じになったということだ。だから殴られたら普通に怪我はするし死にもする。
そういうことか。
「生き返られないのは困るな……いや、待てよ、困らないか?」
両親は、俺が会社に勤めて家を出ると直ぐに離婚した。
元々は上手くいってなかったようで、俺が学生の間は我慢して生活していたようだが、俺が家を出るとその必要はなくなり、父親は不倫相手の家に転がり込んだ。
だいぶ前から不倫をしていたようで、母親もそれは知っていたみたいだが、咎めることもなく黙認していた。
そこまで冷めているとは思わなかった。
俺も聞かされたときは驚いたが、母親は淡々と話していた。父親には愛情もなく興味もないという感じでだ。
母親も若い男性と不倫関係にあったようで、俺が家を出ると、その男性が家に住むようになり、おかげで家に帰ることもできなくなった。そのせいで母親とも疎遠になり、今では連絡すらしていない。
お互いに新しい家庭を持っているので、俺の入る隙間はないということだ。
俺もそんな中に入るつもりはないので、どうでも良いという関係だ。
ただ、両親の祖父母は俺に対して申し訳なく思っていたようで、何かというと謝っていた。
別に祖父母が悪いわけではないので、謝ってくれても俺が困るだけで、そういうのがあって会うのも辛くなり行くこともなくなった。親戚も家の実状を知っているのか、誰1人連絡をくれる人はいない。
そういうことで親族とは縁が切れているような状態になった。だから俺が死んでも悲しむような人はいないだろう。独身で彼女も子供もいないのだから。
「別に困ることはないな。もうこっちの世界で生き返らなくてもいいや。逆にむかつく上司の顔を見ないだけで健康的だ」
何かと無茶な仕事を振ってくる上司の顔を思い浮かべるとムカッとする。その顔を見ないで済むとなると気分が楽になった。
そうだ!
行くならコンビニがある世界がいいな。であれば、魔王を倒さなくてもいいや。そこで一生を過ごそう。そう決めた。
「異世界に行くならコンビニがある世界にしてくれ。そこで生きていくから」
「コンビニがある世界か? そう言われると限られてくのう。魔王がいる世界は大抵が初期文明時代が多い。科学など無縁の時代だから、コンビニなどないぞ」
「それは困るなぁ」
また不味い飯を食うとなると辟易する。味付けは塩だけとか勘弁して欲しいね。しかも肉が主食でパンはおまけみたいな生活。体を壊すって。勇者でも病気にはなるからね。腎臓が壊れるよ。
「そうなるとじゃ、文明が進んだ世界となるが、それはそれで大変だぞ。武技や魔法が役に立たんのじゃ。今までのようにいかん。苦労すると思うが良いのか?」
なるほど。
武技や魔法が使えるというアドバンテージが無くなるということか。ようは一般人と変わりないわけか。
「武技や魔法が役に立たないとなると他に何があるのだ? 魔物を倒す必要はあるのだろ?」
「文明が進むと科学が発展し、魔物は脅威ではなくなる。魔王も同じじゃ。逆に脅威になるのは人間の方だ。それはお主の世界でも分かっていることだろ?」
魔物を倒す必要がないのは助かるが、人と人との争いか……。
まぁ、どこの世界も同じということか。
やれやれ、人間という生き物は争わないと生きていけない種族らしい。
しかしそうなると、科学が発展しているということは銃器が存在するということで、簡単に誰でも人が殺せるということになる。
魔法と銃。
確かにアドバンテージはなくなるだろう。呪文を唱えている間に一発撃てばそれで終わる。
剣も役には立たない。飛んでくる弾を切れば防げるとか、そんなことは現実には出来るわけがない。石川五○衛門ではあるまいし。
俺も異世界でそれなりに長く居たが、そんな芸当はできなかった。
剣で魔法を切るとか、あれも無理だった。
ファイアボールを試しに切ってみたが、剣が素通りするだけで結局は当たってしまう。火の塊なんだからそれは当然だ。剣の風圧で消せないこともないが、それなら風魔法を使ったほうが断然早い。一瞬だからね。剣を使う必要はない。
散々テストして、火傷を負い、痛い目に遭いながらも出した結論だ。
アニメではないんだからと、現実に引き戻されたな。
だが、俺も銃器を扱えればその問題はなくなるし、自身を守る魔法は有効なはず。傷を治すヒールとか使えれば、直ぐに死ぬことはないはずだ。魔法がまったく役に立たないとは思えない。用は使い方次第だと。
そう考えると、行くぶんには問題なさそうだ。
「魔法が使えない世界ではないだろ?」
「魔法は使えるが廃れておる。昔は使えたようじゃが、今は使う人は皆無に近いだろう」
科学が発展すれば魔法がなくても生活はできる。今の俺たちのように。
それは仕方がない事だ。だが、魔法が使えるのであれば問題ない。
行くことに決めた。
「その世界で頼む。初期文明時代はもういいので今度は変わった世界でやり直したいのでな。それとコンビニはあるのだろ? なら、問題はない。金さえ稼げば生きていける」
「その世界に魔王は存在していない。行ったら帰って来れんが良いのか?」
「かまわない。未練は無い。それよりも他の世界はいいのか? 俺に魔王を倒して欲しかったんだろ?」
「別にお前さんでなくても良い。元々は他の者を行かせる予定だったのでな。その者に行って貰うのでかまわんよ」
「そうか。そういうことなら頼む。今度は他の世界でスローライフを楽しむのでね」
魔王や魔物が居なければ俺の仕事はない。
今度は自由に生きることにした。誰かのためでなく、自分のために。
という訳でこの世界に来たのだが、やっぱしへっぽこなのは変わらない。
毎度毎度、森の中に転移させるのは決まりなのか?
こうして、この世界での1日目が始まった。