第32話 戦艦強奪作戦②
グランバーが家に来てから5日後の深夜。
俺たちは、第12都市の郊外にある星系軍の航宙基地近くまで来ていた。
この基地のドックに戦艦ウリウスが停泊しているそうで、それを強奪するのが今回の目的だ。
開始時刻は日付が変わる深夜0時ということで、時間まで待機していた。
「俺たちと一緒に行く専門家は来ているのか?」
「そのはずよ。作戦変更の連絡は来ていないから」
俺の問いにエミリーが答える。
ここに居るのはエミリーの他にロズルトとレジスタンスのメンバーで若者が2人。二十歳前後で頼りなさそうに見えるが、これでも隠密行動には長けているそうだ。
俺を含めて合計五人。多いと目立つのでこの人数になった。というか、これでも多いぐらいだ。俺1人で動かせるのであれば1人で行くのだが。
「エミリーは会ったことがあるのか?」
「私はないわ。今日が初めてよ。でも、噂は聞いたことはあるわ。ハッキングに関しては彼の右に出る人はいないって」
「ハッキングって、元は犯罪者なのか? あんまり褒められた職業じゃないな」
「違うわよ。プログラマー、という話。企業向けのセキュリティーソフトを開発しているの。色々とあって我々に協力してくれているのよ」
「ハッキングソフトを作ったということか」
セキュリティーソフトが作れるのであればハッキングソフトも作れるだろう。表裏一体だろうし。
「戦艦のセキュリティーは高いから簡単に動かせないのよ。そのために呼んだんだと思うわ」
「詳しいことは聞いていないのだな」
「大まかに聞いただけ。作戦内容を知っているのはロズルトだけだと思うわ」
情報漏洩を恐れての話か。しかし、エミリーまで内緒にする必要はないと思うが。
チラッとロズルトを見ると、腕時計を見ていた。
「時間だ、行くぞ」
待ち合わせ時間になったようだ。
今回はロズルトの指示に従って動くことになっているので、黙って後を付いて行った。
検問所のゲート前に来ると、軍服を着た青年が金髪の男性と一緒に立っていた。
軍服を着た青年がこちらに気が付き、右手をこめかみ辺りにかざして敬礼すると、横に居る男性もそれに気づいてこちらに向かってお辞儀した。
敬礼した青年が星系軍の協力者なんだろう。もう1人が、グランバーがよこした専門家のようだ。
「オズエルです。今日はよろしくお願いします」
肩に鞄を掛け、大きなメガネを掛けている。いかにも専門家という感じの若いお兄さんだった。ひょろっとしていて戦闘はあまり期待できそうにない。
俺たちも簡単に自己紹介すると、奥からもう1人の青年が走ってきた。
「ここだと目立つので建物の中へ」
ゲート前は誰が通るかわからないので、中に入るよう促された。
検問所の建物内は広くない。10畳ほどの広さで2階までしかない。
中は多くのモニターが並んでおり、近くの監視カメラの映像が映っていた。俺たちは奥の階段で2階へ。2階は休憩室になっている。
「時間がありません。これを」
渡された紙袋の中を覗くと、彼らが着ている軍服と同じ物が入っていた。
これに着替えろ、という意味らしい。
俺たちは一応目立たない恰好をしてきたが、それでも基地内を私服で歩いていれば怪しまれる。それを配慮してのことなんだろう。
別に着替えなくても魔法を使えば関係ないのだが、せっかくなので着替えることにした。こういう機会でもないと軍服なんて着ることはないだろうし、何だかコスプレしているみたいで楽しい。
エミリーだけ別室で着替えると、ここで待つように指示された。
「へえー、女性の軍服もあるんだな」
別室から出てきたエミリーの姿は、普通に男性の物と変わらなかった。ただ、ズボンが少し細いかな。
てっきりスカートかと思っていたが。
「スカートは事務官だけです。普通に戦場に出る兵士は男性と同じ服を着ます。今は目立ちたくないので同じ物を用意しました」
青年がそう説明してくれた。
エミリーは長い髪を綺麗に纏め、帽子の中に隠していた。それでも隠し切れずに少し浮いているが、それは愛嬌というもので。
中々様になっていた。
「他の仲間から連絡を待つ」
そう言い、ロズルトは腕時計を見ている。
何か作戦があるようだが、具体的なことは聞かされていないので従うまでだ。
しばらくすると大きな爆発音が響いた。
方向からいうと俺らの反対方向。裏側の検問所だ。
窓から外を覗くと、遠くの兵士が裏側へ走って行く姿が確認できた。
裏にある検問所を襲撃しているようだ。そして直ぐに警報が鳴り響いた。
「派手にやっているね……」
「陽動だからでしょ。派手にやらないと意味がないわ」
そちらに人を集めさせて、ドック内を手薄にしようという魂胆か。
悪くはない作戦だが、勘が良い奴ならすぐに気がつくな。これが陽動だって。
しかし、こちらの検問所には何の連絡も来ない。それに派手にやり過ぎると余計に警戒されると思うが。
俺が変な心配をしていると、ロズルトの携帯端末に連絡が入った。
「……わかった。予定通りに」
それだけ言って切れた。
そして俺たちの方を見ると、1回頷いた。
「作戦開始だ」
みんなが頷くと、俺は部屋を出る全員を直ぐに呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ。その前に認識阻害の魔法を掛ける」
ロズルトとエミリーは俺の方を見て、「ん?」という感じ首を傾げる。他の人たちは「??」を頭の上に出していた。
「これは相手の認識を別の物へ誘導するので、見られても怪しまれたりはしない。その代わり、相手に触れたしたら魔法が解けるので注意を」
「そんな魔法もあるのか?」
ロズルトが不安そうな顔で尋ねてくる。
そりゃそうだ。そんな便利な物があるはずがないと思っているのだから。
「認識を別の物へ誘導するだけなので、存在自体を消すわけではない。俺たちを見ても違和感を覚えないという程度だ。それに、監視カメラには通用しないと思うから、見られていて通報されたら終わりだ。それと声や音を出しても駄目だから注意しろ。移動中は話さないことだ」
前に一度、ミラージュという魔法を使ったが監視カメラは誤魔化せなかった。
今回も監視カメラは誤魔化せないと思うので、見ている奴がいれば意味が無いということだ。
「わかった。やってくれ。何もしないよりは良いだろう」
あまり信用していないようだが、それでも、ということで掛けることになった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 魔法ってなんだ?」
オズエルが聞いてきた。
どうやら俺のことは説明していなかったようだ。
「魔法は魔法だが」
それしか答えようがないのでそう答えた。
「いやいや、何を言っているんだ? 魔法なんてあるわけがないだろ。子供じゃあるまいし、そんなの信じているのか? これから大事な仕事があるのというのにくだらない冗談はやめてくれ」
呆れた顔で頭を振っている。魔法を信じていない人が聞けばそういう反応をするわな。それが正常だと思う。
「そうね。それが普通だよねぇ」
エミリーが納得した顔で「うんうん」と頷いている。
そういえばエミリーも最初聞いたときは呆れた顔をしていたな。文明が発達した世界で魔法があるなんて思うはずがない。
納得させるのは実際に見せるのが早いが、でも、時間が勿体ないので無視をした。
「別に信じなくてもいい。しかし、時間がないので今は黙って見ていてくれ。苦情なら後でロズルトが受けるから」
「俺が!?」
驚いているロズルトを無視して魔法を掛けることにした。
「闇の女神シャール、我に孤独と安らぎを……インヒビション!」
全員に認識阻害魔法を掛けた。
体が一瞬光ると全員が驚いて、お互いを見て確認しあう。
しかし、何も変わっていないことに首を傾げていた。
「これで魔法が掛かったの?」
エミリーが半信半疑で聞いてくる。
「見た目が変わるわけではないからね。仲間を見てもわからないよ。先入観を持っていると効果がないから」
「それじゃ、そこに私たちが居ると最初から知っていたら、効果がないということ?」
「そういうこと。知らないから意識を誘導できる。だから声や音を出しては駄目だ。そこに何か居ると思われただけでアウトだからね」
「インチキではないのか?」
オズエルが怪しむ目で睨んでいる。まあ、いいさ。どう思われようがその人の自由だ。ただ、邪魔だけはしないで欲しいね。
「まあ、信じる信じないは別として、保険だと思っていればいい。誰とも会わないように行けば良いだけの話だし」
「陽動で兵士は裏側のゲートに向かっているとは思うが、それでも全員ではないと思う。何人かは残っているから、見つからないように物陰に隠れながら行こう」
最後はロズルトが締めてくれたが、そんなことをしなくても堂々と歩いていても気が付かれないんだけどね。信用されていないから仕方がないが。
「それじゃ、自分たちができるのはここまでです。成功を祈っています」
そう言って青年がドアの前まで送ってくれた。
定時報告があるので、持ち場を離れることができないらしい。
ロズルトがお礼を言って薄明かりの中を進むと、俺たちの作戦が始まった。
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もうちょっとストックがあるので、小まめにアップしたいと思います。




